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チンピラだった俺が、たった27人で天下を取ることになった  作者: 越後⭐︎ドラゴン
第2章 南燕編

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19話 広固へ

 京口に帰還した。リュウロウシはシャアンに報告する。その場に何故か俺も同席させられた。シャアンの病は一段と悪化している。呼吸が荒かった。


「愚かなやつだ……私腹を肥やす為に南燕と結ぶなど許されん……」


 シャアンは苦しそうであるが、目は死んでいない。いつかカンゲンを討つという思いは変わらないようだ。


 程なくして、建康から使者が来た。講和の詳細を詰める為に広固へ使節団を派遣するから、護衛の兵を出せと言ってきた。


「護衛など西府から出せばよいであろう……」


 リュウロウシは舌打ちをする。


「ユウ。お前は南燕をどう感じた」


 俺は突然、シャアンに問いかけられビクっとした。正直何も考えていなかった。


「いや……その、よく分かりませんが異様でした……」


 シャアンはゆっくり目を閉じた。俺は回答を間違ったのかと思った。


「……お前の感覚は正しい。宗教が支配する国など異様だ」


 しばらくの間が開いたのちに、シャアンは口を開いた。俺は間違ってなかったとホッとした。


「ユウ。せっかくの機会だ。その異様な国をもっと見てこい」


「え!?俺が行くのですか?」


「うむ。3年の講和など無いに等しい。どのみち敵となる国だ。しっかり見てこい」


「……はい。分かりました」


 俺は隊に戻り、ボクシに護衛の任の件を話した。


「何もお前が交渉するわけでは無い。旅行だと思って気楽に行けばいい」


「そんなものか……」


「そうだ。でもシャアン様はお前に南燕を見てこいと言った。いつか攻める日が来た時に地勢を叩きこんで来いということだ」


「いや、全然旅行じゃないよな」


 ◆

「おい。変態。あの女商人が来ているぞ」


 アイの態度は冷たく、俺の呼び方も変態呼びに戻ってしまっている。リンシが近づいてくる。アイは苦々しげな顔を浮かべすぐに立ち去った。


「ユウ。お久しぶりです」


「……この間、会ったばかりじゃん……」


「3日も会わないでいると、私の心は張り裂けそうですわ」


 俺はたじろいだ。リンシは俺への好意を隠そうともしない。服装も何故か胸元が開いており、俺の視線は自然と吸い寄せられる。上から見るとしっかりとした双丘が谷間を作っている。


 リンシはくすりと悪戯っぽく笑い、胸に手を当てた。


「広固へ行くのですってね」


「よく知っているね」


「商人ですもの。情報は大事ですわ」


 俺はストーカーかなと思った。俺も2日前に命じられたばかりなのだ。もしかしたら北府の中にもリンシの手の者が入り込んでいるかもしれないと感じた。


「今日は贈り物を届けに参りました」


 そう言うとリンシの家人たちが、大きな荷物を運んできた。煌びやかな鎧や武器であった。


「こ……これは?」


「五百人分の鎧ですわ。国を代表して広固へ行くのですもの。そんな格好ではダメですよ」


 北府の装備は整ってはいるが、これと比べると地味ではある。俺はこの短期間でこれほどの物を運んできたリンシの手腕に驚いた。


「ふふふ。このお礼をと言ってはなんですが、お願いがあります」


「な、なんだ……」


 俺はドキドキした。まさか抱いてくださいと言い出すのかと思った。拍子抜けするほど普通のことを言われたらどうしようとも思った。


「私を一緒に広固へ連れて行ってください」


「はぁ!?」


 俺より先に横からアイが声を上げた。立ち去ったと思ったが、どうやら壁に隠れて聞き耳を立てていたらしい。


「何をコソコソしているのですか?ふふふ」


 アイがリンシを睨みつける。


 修羅場だ。


 前世ではこのような展開に出くわしたことは無かった。俺の友達は専らスロットであった。女と言えば、液晶に出てくる女性キャラだけだ。転生してモテ期到来かと思わずニヤニヤした。


「何を笑っている!」


 アイの鋭い叱責に俺はハッとして口を押さえた。リンシは微笑みながら俺を見ている。


「じゃ……じゃあ二人とも一緒に広固へ行こう……」


「な……なんでそうなるんだよ。こんな女商人の頼みなんか断ればいいじゃないか!」


「い……いや、それじゃ可哀そうだろ……」


「ふふふ。私は構いませんわ」


 リンシは俺の手を握ってきた。まるでアイとの女としての差を見せつけてやると言わんばかりの目をしていた。


 アイは顔を真っ赤にして足音も荒く消えていった。


 ◆

 翌日、アイがリュウロウシのもとへ行った。


「広固へ同行させてください。使節団には怪我人の治療が出来る者が必要です。護衛の兵の手当てをする者が必要でしょう」


 リュウロウシはしばらくアイを見てから頷いた。


「許可する。何があるか分からないからな」


「……はい」


 アイは一礼して部屋を出た。廊下に出た瞬間、小さく息を吐いた。リンシに先を越されてたまるかという思いと、本当に治癒士として必要だという思いと、どちらが本音なのか自分でもよく分からなかった。


 ◆

 建康の使節団と合流した。


 東晋の代表として使者に選ばれたのはオウヒツという文官であった。


「悪童が成長したものよ」


 オウヒツは俺の顔を見るなりそう言った。


「おい、ボクシ。あのオッサンは俺のこと知っているのか?」


「え?覚えてないのか。お前の借金を肩代わりしてくれたオウヒツ様だぞ」


 俺が転生する前の話なのであろう。オウヒツは建康で文官になる前は彭城の名士だったという。俺の生家とも関わりがあるようであった。


 俺は元のこの体の持ち主の記憶などなかったが、とりあえず「ああ、そんなこともあったな」と言って取り繕った。


 ◆

 結局、アイも来ることになった。

 俺の両隣には、アイとリンシが並んで馬を進めている。その後ろをボクシたちが続いた。


「両手に花だな。隊長」


 モウチョウが揶揄ってきた。アイは怖い顔をしており、リンシは微笑んでいた。


 使節団は百人ほどの文官であり、それを俺の五百人隊と、別の五百人隊が護衛する。俺はその隊長に見覚えはなかったが、北府の軍なのだという。


「あんたが最近話題のリュウユウか」


 その隊長は近づいてきて、俺のことを頭から足の先までジロジロ見てきた。まるで値踏みしているようだ。


「そうだが、どちら様で?」


「ああ、失礼した。俺はカムキだ。筆記試験を白紙で出して北府に入ったと聞いたが、本当か」


 俺は少しムッとした。それに気づいたのかカムキは馬首を返して自分の隊に戻っていった。


「なんだあいつは?」


「リュウロウシ様の甥だ」


 俺はあいつには負けられないと思った。


「それにしてもリンちゃんのお陰で格好だけは舐められなくて済んだよ」


 俺の言葉を聞きリンシはニッコリ笑った。俺はしまったと思った。右側から強烈な圧を感じる。


 後ろからはボクシやモウチョウの笑い声が聞こえてきた。

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