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必ずこのゲームを終わらせてみせる

 誰しも返す言葉が無かった。戦々恐々としている中、バレットの声だけが響く。

「レベル40ぐらいの夢魔を倒すよりも、レベル10の魔法少女を倒す方が得られる経験値は大きい。むしろ、他の魔法少女を倒さないとレベル99なんてとても到達できない。

 経験値が乏しい夢魔を倒させ続けてフラストレーションを溜め、他の魔法少女を倒すという最悪の選択肢に誘導する。あのドルチェと言う魔法少女がまさにドツボに嵌ったというわけね」

「そんな。そんなのって、間違ってるよ。だって、ゲームオーバーになると死んじゃうんでしょ。なのに魔法少女同士で争うなんて」

「そう、間違っている。けれども、多くの魔法少女はそんなに深く考えていない。第一、ゲームオーバーになればどうなるかが巧みに隠されている」

 ネムに聞いてもはぐらかさられるうえ、魔法少女同士で知り合いでなければ、ゲームオーバー後にどうなるかは知ることができない。偶然にもクラスメイトが変身した魔法少女と仲間になれたのは、相当運が良かったというほかない。


「それに、このゲームに参加している連中は正義のヒーローごっこをしようだなんて思っていない。みな、自分の願いを叶えようと躍起になっている奴ばかり。夢魔を倒すよりも経験値を稼ぐのを優先するのは当然のことね」

 半ば吐き捨てると、バレットは腕を垂らした。誰しも口を開くことができずに沈黙が続く。本気で夢魔を倒したいと思っているかと問われれば、素直に応と言える自信は無かった。「願いが叶う」という誘い水に乗ったことは否定できないからだ。


 再び腕を組みなおしたバレットは睥睨する。その姿に憂いなどなかった。

「私がこのゲームに参加している目的を話す約束だったわね。単刀直入に言うわ。このゲームでレベル99に到達し、このゲームそのものを破壊することよ」

 あまりに荒唐無稽な宣言に、三人はざわつく。

「破壊するって、ゲームを終わらせるということ」

「そうなるわね。このゲームは途中でリタイアすることができない。どうしてもリタイアしたければ、わざとゲームオーバーになるしかない。そして、第三者にゲームの存在を話すことも封じられている。こんな状況で新しくゲームの参加者を増やされたら、犠牲者は増える一方だわ。ならば、対抗手段は一つ。レベル99に到達した時の願いで、このゲームそのものを終わらせるの」

 力強い演説に三人は息を呑む。バレットは力強く右手を握りしめた。


「正直、レベル99になって、素直に願いが叶えられるという保証はない。でも、こんな無益な争いを終わりにするには、それにかけるほかない。犠牲者を出さないためにも、私が一刻も早くレベルアップする必要があるの」

 握りしめられた拳を持ち上げる。反論できる者は皆無。そう思われたのだが、ドロシーがおもむろに口を開いた。


「よかった」

 場違いとも思われる発言にバレットは瞠目する。握っていた拳が緩んだ。

「バレットが悪いことを考えていなくて。私と同じだったんだね」

「同じってどういうこと」

 眉を潜めていると、ドロシーは胸に手を当てる。


「私も、このゲームは間違っていると思ったんだ。だって、魔法少女って、みんなの夢や希望を守る存在のはずでしょ。それなのに、魔法少女同士で殺し合うなんておかしいよ。それに、魔法少女になったせいで苦しむ人が出るのも絶対におかしい」

 普段のドロシー、いや、真帆を知る者からすれば別人かと錯覚するほどの演説だった。自信が無く、なよなよとした態度など微塵も感じられない。鉄仮面で武装して説を振るったバレットが仮面を砕かれたぐらいだった。


「私、決めたことがあるの」

 取り出した杖を両手でしっかりと握る。まっすぐに全員を眺める眼に迷いなどなかった。

「私もレベル99になって、このゲームを終わらせる。みんなが悲しむような世界だったら無いほうがいい。99になるには途方もない時間が必要かもしれないけど、それでも叶えてみせる」

「ドロシー」

 どこからともなく彼女の名が呟かれる。それは誰が発した言葉だったか。ディーンは顎を上げて指を組んでおり、サクヤは歯を食いしばっていた。


 バレットはじっと押し黙っていたが、やがて髪を掻き上げた。

「私の考えに賛同するということかしら。ならば、好意はありがたく受け取っておくわ」

「それじゃあ、一緒に戦ってくれる」

 嬉々としてバレットに申し出をする。しかし、バレットは静かに頭を振った。

「残念だけど、あなたと組むことはできない。いや、誰とも組む資格なんてない。私は私のやり方でゲームを破壊してみせる」

 ドロシーが呼び止めるよりも前に、バレットは空間から脱出しようとする。取りつく島のない挙動に、ドロシーは呆気に取られていた。

 しかし、振り向きざま一言だけ言い残した。

「安心して。あなたの味方にはなってあげる」

 一瞬だけ覗かせた微笑みは年相応で可愛らしかった。


 バレットが去ったタイミングを見計らって、ネムが姿を現した。沈黙が場を支配している中、わざとらしく大仰に飛び回る。

「せっかくドラゴンを倒したのにお通夜みたいな雰囲気じゃないか。まあ、無理もない。あんなことがあったばかりだもんね」

 慰めてくれているのだろうか。それにしては場違いなほど明るい声音だった。ドロシーが睨みを利かせると、「ははん」と鼻を丸めた。


「どうやら、バレットに入れ知恵されたみたいだね。まさか、このゲームを破壊しようだなんて考えてはいないかな」

 心の底を盗み見られ、とっさに胸を押さえる。その所作を肯定と捉えたか、ネムは意地悪く迫って来た。

「妙なことは考えない方がいいよ。君たちは素直にゲームに参加していればいいんだ。そうすればいずれ願いが叶えられる。なんら問題は無いはずだろ」


 勢いに負けてすんなり首肯してしまうところだった。しかし、ドロシーは両頬を叩いた。そして、しっかりとネムを指差す。

「私はあなたの思い通りにはならない。必ずこのゲームを終わらせてみせる」

 一切の迷いのない宣告。途端、ネムは笑い飛ばした。嘲笑されてもなお、ドロシーの姿勢は崩れることは無い。


「とんだ戯言をぬかすね。でも、まあ、せいぜい抗うがいいさ。誰しもこのゲームに抗うことなんかできないからさ」

 そういうと、ネムは音もたてずに消え去っていった。彼女たちがゲームの真の恐ろしさに気づくのはまだ先の話だ。それでも、まっすぐに前を向くドロシーはどこか誇らしげに映った。


今回で完結となります。

続きの構想がないわけではありませんが、機会があれば公開ということで。

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