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新しい魔法を覚えたのだろう

 ドロシーがドリームワールドを訪れるようになってから数週間が経過した。連日のように参加しているおかげか、段々とゲームのコツを掴めるようになった。

 このゲームは相手のレベルが予め分かるのが肝だ。力量差がある相手では、いかに魔法を放とうともろくにダメージを与えることができない。それどころか、一方的に蹂躙される危険性もある。


 なので、レベルが低い相手を探し出して、着実に経験値を稼いでいく。この日もLV1の夢魔スライムを「シューティングスター」で撃破したところだった。正義の魔法少女に憧れる彼女としては、いかなる強敵が相手でも逃げるのは避けたかった。だが、彼女は身の程をわきまえている。泣かぬなら放っておこうホトトギス。それが彼女の主義である。


 そのせいでレベルアップはままならない。レベルが低い相手では経験値が雀の涙なのは当然だ。それでも、先ほどの戦いでようやくLV3へと上昇した。

 すると、レベルアップ音のファンファーレとは別に、音階の違う祝福の音が鳴る。戸惑っていると、鼻歌を鳴らしながらネムが通りかかって来た。なんとも都合のいいタイミングである。


「ネム。レベルアップしたら変な音が鳴ったのだけれど、私、変なことをしちゃいましたか」

「心配することは無いよ。おそらく、新しい魔法を覚えたのだろう。ステータス画面を見てごらんよ」

 言われるがまま、使える魔法の一覧を表示する。すると、「シューティングスター」の項目の下に、新たに「スターシールド」という文字が浮かび上がっていた。

「魔法少女がレベルアップすると使える魔法が増えるんだ。その魔法は敵の攻撃から身を守ることができる、いわば防御魔法のようだね」

 そういえば、チュートリアルでそのようなことを言っていた覚えがある。攻撃一辺倒ではなく、防御技も使えるようになったのはありがたい。それに、レベルが上がったことで、心なしか力も上がったような気がする。尤も、ゲームの割に攻撃力や防御力といったパラメーターが無いので真意は不明だが。


 新しい魔法を覚えたのなら、試してみたくなるのが人の性だ。スキップを踏みながらドロシーは大通りを進む。しばらくして、真っ向から闊歩してくる獣人と鉢合わせした。

 顔つきからして犬だろうか。人間と同じく二足歩行しており、右手には短剣が握られている。ドロシーの存在を認めると、低い唸り声を発した。


 ステータスでは「夢魔コボルトLV5」と表示されている。以前のドロシーだったら忌避する相手だ。レベル差からして勝てない相手ではないだろうが、レベルが1違うだけでも魔法の効き目が段違いである。それに、武器を持っている相手に丸腰で挑もうなんて度胸は持ち合わせていない。杖を持っているのだが、鈍器としての活躍は期待できないからである。


 しかし、レベルアップした高揚感から、ドロシーは杖の先端を突き付ける。宣戦布告と受け取ったのか、コボルトも似たような仕草で応じる。双方合意で一騎打ちの舞台が整った。


 先陣を切ったのはコボルトである。予測通り、短剣を用いての切り裂き攻撃。ドロシーは杖を両手で持ち、真横に構える。

「スターシールド」

 発動したのは新たに習得した魔法だ。ドロシーの十数センチ先に星形の盾が形成される。突然出現した壁に慌てふためくコボルトだが、突進は急には止められない。


 シールドに激突してダメージが発生する。ドロシーは無傷などころか、逆に相手を自滅させることができた。新たな魔法の威力に酔いしれる。

 しかし、戦闘中に気を抜くのは御法度だった。壁にぶつかっただけでは致命傷になりえない。おまけに、ドロシーとの距離は切迫している。短剣を主戦力としている夢魔が有利な間合いだ。


 吠えながら短剣が切りつけられる。凶行に直面し、まともな判断ができない。

「シューティングスター」

 闇雲に放った攻撃魔法。だが、これが功を奏した。


 切りかかろうと胸元を開けたところに、ぴったりとドロシーの魔法弾が炸裂したのだ。至近距離から遠距離魔法を受け、コボルトの体力が半分近く削られる。やはり、レベルアップしたことで魔力そのものも上昇しているようだ。

 アニメの主人公よろしく、びしりとポーズを決める。

「人々を苦しめようとする夢魔。あなたたちの好きにはさせないわ。覚悟しなさい。シューティングスター!」

 別に口上はいらないのだが、そこは気分と言うやつである。回転を加えながら飛ばされた星形魔法弾はコボルトの胸に命中する。


 それが致命傷となったのか、ファンファーレとともに夢魔は消滅した。強敵を倒したことで跳ね上がるドロシー。この調子なら楽にレベルアップできる。

 そんな希望は儚く砕け散ることになる。そこかしこから聞こえる獣の唸り。不安が助長され、杖を抱きしめながら右往左往する。姿は視認できない。けれども、複数体の敵が潜んでいることは本能が察知している。


 一目散に逃げだそうにも、底知れぬ恐怖から足がすくんでしまう。それが命取りだった。続々と姿を現したのは先ほど倒した夢魔コボルト。レベルは同じく5だが、同じように倒せるとは思えない。なぜなら、東西南北から都合四体が同時に出現したのだ。


 いわば「夢魔コボルトの群れ」ということだろう。野生動物でも群れで行動するものがいるから珍しいことではない。しかし、討伐するとなると厄介なことこの上なかった。第一、一対四ではあまりにも分が悪すぎる。

「卑怯だよ。こっちは一人しかいないのに」

 不平を訴えたところで、獣に人間の常識など通用しない。いかなる手段を用いようと、獲物を狩ることができたものが一番偉い。それが野生の世界での掟なのだ。


 逃げ道を塞がれ、もはや殲滅するしか生き残る術はなくなった。どうすべきか行動を決めかねているドロシーをよそに、コボルトたちは着実に間合いを詰めてきている。四方向から同時に攻撃して確実に仕留める。そんな算段なのはドロシーとて読めていた。肝心なのはどうやって対処するかである。あいにく、そちらは全く思い浮かばなかった。


 うろたえるドロシーの周りを取り囲み、一斉に短刀を掲げる。パニックに陥ったドロシーは魔法の使用すら覚束なかった。そして、凶刃がドロシーの首元へと迫る。


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