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俺と彼女らの戦闘記  作者: 松ちゃん
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1章9話 それぞれの運命

日本軍はギリギリだった。

空母蒼龍喪失、赤城、加賀が大破、飛龍が健在で、残存航空機は50機程度だ。

パイロットの犠牲も多いが、彰のおかげで全体の8割が生き残った。彼らはこの戦いを胸に刻み、今後の戦いで活躍する事は後にわかる。


米軍は3空母のうちエンタープライズ(中破)が生存し、ヨークタウンとホーネットが喪失、無残な敗北となった。

米海軍の太平洋可動空母は0となり、主導権は日本が握ったままだ。

と言っても、日本は飛龍に加え、瑞鳳、龍驤、隼鷹、飛鷹、鳳翔の軽空母が動かせるだけで、本格的な戦闘は不可能だ。

彰は思考を落ち着かせた。

(米軍は可動空母0になったが、こちらも0に等しい。米軍の本格的な反抗作戦は先延ばしになるだろうが、恐らく次の戦場はあそこしかない……。)

彰の考える次の戦場、そこはガダルカナル島だ。


南太平洋、オーストラリアのちょうど上にあるソロモン諸島のひとつであるガダルカナル島は、熱帯特有の気候とそれを象徴するかのようなジャングルがある。

今ガダルカナル島には約4000名の守備隊がいて、飛行場を建設している。

もうすぐ完成する800メートル級の戦闘機用滑走路はあと1月で完成するという。

米軍は馬鹿じゃない。ど真ん中を突っ切って横っ腹を突かれるような無謀な事はしない。南から必ず来るであろう。

ひとまず、今は1航戦の再建と新戦力の増強だ。今の段階では、もう反撃は無いだろう。


…………そう思っていただけだった。


ミッドウェーでは生き残ったSBDドーントレス艦爆12機が飛龍を仕留めようと、出撃しようとしていた。

多く散っていった仲間の為に、死んでもいいと志願してきた総勢24名がここにいた。隊長はダン大尉だ。1番機はエンジンをふかし、静かに滑走路を滑り始めた。


「ジャップをぶっ殺してこい!!」

「やっちまえ!!!」


滑走路の脇からはそんな声が聞こえてきた。戦争とは、あまりにも非情なものだ。

1番機は恐ろしいほどの轟音を鳴り響かせるエンジンと共に、滑走路を離れた。タイヤを格納すると後続の僚機を上空で待った。

戦いは、終わってない事を教える為に。


     ―――――――――――――


偵察機の情報を元に、駆逐艦に残存航空機のパイロットの救出の指示をしていた。

彼らの中には銃弾が命中し、大怪我を負っている者もいた。駆逐艦はあっちこっちを走り回った。


パイロットは温かい握り飯とラムネを甲板上で頬張りながら、涙を流した。

大多数は生き残ったものの、開戦時から一緒に戦い続けた戦友を失ったのだ。自分の愛機を失ったパイロットも多い。

彼らの眼は復讐に燃えていた。いつかこの借りを、倍にして返してやると。

そんな時だった。


「敵機だ!艦爆だぞぉ!!」


非情すぎる叫びが聞こえた。


SBDは雲に隠れながら飛龍に近づいていた。飛龍を見つけると、6機は飛龍に向かった。

赤城と加賀は既に離脱しており、撃沈したと判断した残りの6機は比叡と霧島に集中した。

飛龍と護衛艦群は高角砲と機銃をこれでもかと撃ち上げ回避行動もとったが、最初に捕まったのは比叡だった。

運がいい事に主砲塔に命中したため、厚い装甲板に跳ね返され、海中で爆発した。

戦艦の命中はそれだけで、2隻は高速戦艦の名を遺憾なく発揮した。

一方の飛龍は3発が至近弾となった。

4番機が爆弾を投下すると、運の悪い事に飛龍後甲板に命中した。

後甲板はりんごの皮のように柔らかくめくりあがり、着艦が不可能となった。格納庫には大した被害はなく、1名が怪我をしただけだった。


「まだやるんだね……。」


山口はため息をついた。


「もうあっちは戦力がこっちと同じようにそんなに無いはずなのに……。」


山口はそう呟いた。

周りでは怒声が聞こえるはずなのに、何故か聞こえない。

それなのに、今までの人生を短い映画にまとめたような鮮明な映像が頭の中で上映されていた。

(なんだろう…?これ……。懐かしい……)

5番機、爆弾投下するも艦首左に200メートルにて着弾する。

(お母さんとお父さんだ…、おかしいな。嫌いなのに、嫌いなのに…どうして涙が出てくるの?)

山口は泣いていた。それは、初めて怒られた時に聞いた言葉以来だった。

(あの時、お父さんもお母さんも私を甘やかしてはくれなかった。私は、両親に甘えたかったのに……)

6番機。爆弾を投下し、機首を上げると海面すれすれで離脱し始めた。


「命中するぞー!!!」

「退避! 退避ーー!!!」

「長官! 長官!! 退避をー!」

部下の声にも気づかなかった。

(でも、独りだと、孤独だと感じたことはない……。だって、側にはあなたがいてくれた…)


「長官ーーー!!」


爆弾が艦橋に命中した瞬間、確かに山口は声に出して言った。


「………ありがとう、いっちゃん。」


彰は、飛龍の艦橋に爆弾が命中したのをただ見ることしか出来なかった。

あそこには確かに山口多聞がいる。なのに、自分は何もできなかった。その悔しさでその場に膝まずき、泣いていた。

飛龍の艦橋は業火にやかれ、しばらくすると崩れ落ちた……。


山口多聞齢15歳、1942年6月5日飛龍艦橋にて戦死。


艦隊は反転を始めた。飛龍は艦隊は崩れ落ちたものの、自力航行可能となり、同行した。

南雲機動部隊が反転後、山本五十六率いる主力部隊と近藤中将率いる攻略部隊が到着、大和を先頭にミッドウェー島への砲撃が開始された。

上陸はしなかったものの、戦艦、重巡の持っている全ての火力で島の地形を変えるつもりだった。


この世のものとは思えない激しい砲撃に、ミッドウェーにいた海兵隊員は全員が戦死。施設は粉々になり、サンゴ礁で成形された島は跡形も無く砕け散り、もはや島ではなくなった。

そして、大和の艦橋では、山本は涙を流していた。


「多聞丸よ。お前の仇は、私と南雲で必ずとる!」


彰が初めて見た生々しい戦場。その光景を忘れることなく、戦いはまた泥沼化していくのだった。

次の戦場は、ガダルカナル。彰は自分の頭の中にある記憶を、忘れない。自分の知識を、誰も死なせない為に使うと決めた。


1章 Fin

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