2章30話 訪問者
「司令官。エスピリットサントを視認しました。」
「了解。12ノットに減速して待機して。」
「先ほどエスピリットサントに向かったパイロットが着陸用意よしと返信してきました。」
「わかった。長門の入港は?」
「検討中とのことです。」
「はいはーい。」
9月28日。この日はムンダ飛行場のバレット大佐の航空部隊を送り届けるために瑞鳳、長門を中心とする艦隊が出撃した。
この作戦に参加した者は武士道としての精神を真っ直ぐに志す者が多く、反対者はいない。むしろ、邪魔をするなら排除してやると意気込んでいる。
(排除って、バレット大佐の目の前で同胞を殺すことになるんだが……)
ちょっとした矛盾だった。
「バレット大佐、発艦の準備を。先ほど向かった部下の方がOKと返事を下さいました。すぐに帰れますよ。」
バレット大佐は笑みを浮かべながら手を握ると、
「本当にありがとう。君のおかげで我々は祖国の土を踏めそうだ。この借りはいつか必ず返そう。」
と言ってくれた。
自ら紳士と言っているだけ、不思議なほどすんなりと受け入れられた。
「まだ未成年なので、4年後奢ってくださいね。」
「ははは! 約束しようじゃないか! その時は部下も連れてきてくれたまえ。みんなで飲もうじゃないか!」
「ええ、楽しみにしてますよ。」
バレット大佐が敬礼をした。彰もそれに答えるとバレット大佐は飛行甲板へと向かっていった。
その後、航空機は全機無事着陸し、長門は入港した。
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「ジャップが捕虜を返還か。」
長門を司令室から眺める一人の指揮官がいる。
「日本人らしい考えだ。それに、あの戦艦は対空火器が少ないな。」
一度くらいついたら決して離さず、時間をかけてでも必ず追い詰める性格で、その獰猛さ故に"ブル"とあだ名された。
「ジャップは嫌いだが、お礼は言わねばならないな。」
彼女の名はウィリアム・ハルゼー中将。海軍いちの切れ者だ。
「遠路ご苦労だった。太平洋軍司令官として、合衆国の代表としてお礼を申し上げる。」
「いえ、当然の事をしたまでです。」
彰は握手を求める。ハルゼーはしぶしぶといった感じで手を出し握りしめた。
ハルゼーはとても美しい髪を持ち、胸もそう悪くない大きさ。完璧とも言える美貌を持ち合わせているがその眼は獲物を狩るように燃えている。
「ハルゼー中将。お話があるのですがよろしいですか?」
……何故私の名前を知っている?
名乗ってはいないはずなのに。
「良いでしょう。司令室までご案内しましょう。コーヒーはいかがですか?」
「それではお言葉に甘えて……あ、砂糖は忘れずに。」
何かを外さない彰だった。
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「それで、お話とは?」
彰はコーヒーを啜った後、小さく苦いと呟いてからカップを置いた。
「早速ですが、僕の正体は未来から来たただの学生です。」
ハルゼーはカップを置く。
「ほぉ……面白い事を言うな。では仮に本当だとしよう。その証拠はあるのか?」
ハルゼーは基本科学で証明出来ないことは信じないタイプだ。納得の行く説明が必要だろう。
「のら、コードトーカーなんてどうでしょうか。」
ハルゼーはカップを口に運ぼうとした手を止めた。
「今なんと?」
「コードトーカーと言いました。これはアメリカ国内の部族語を使用して解読を困難にしようとした暗号で最初に活躍したのはナバホ族。他にも様々な部族が従軍する。現在は暗号の開発段階と言ったところか。」
コードトーカーの源となるアメリカインディアンの部族語を理解出来るのはアメリカ人だけだ。
この部族語は複雑な文法構成、特殊な発音があり、非話者にとって何を言っているのかわからない。その環境で育った者にしかわからないのだ。その英語の頭文字を部族語の単語と当てはめて暗号化する置換暗号を開発している。
日本人がこれの解読に精を出したが知らない人間が解読に成功するなど不可能な事だ。
「僕は何でも知っている。例えば……マンハッタン計画。」
本題に入る。
ハルゼーは目を大きく見開き、何故知っているのだと言わんばかりの形相で睨みつけてきた。
「マンハッタン計画は僕がこの世で一番気に入らない、大嫌いな計画だ。たった一発で数十万人の命が消える兵器なんぞ、絶対に開発させないぞ。」
脅しの口調でハルゼーにせまった。
「君の名前は?」
「大山彰です。」
「なら大山。君はどうやってその計画を阻止するのだ?」
「それはお答えしかねます。ただし、これだけは言えます。」
「聞こうではないか。」
「1945年5月、爆縮方式のプルトニウム爆弾が実験の為にニューメキシコ州アラモゴードから100マイル離れたトリニティ実験場に運び込まれる。これを艦砲射撃で破壊する計画があります。」
「海岸から約680マイル(約1100キロ)離れた内陸に艦砲射撃だと!? そんなの不可能に決まっているだろう!!」
ハルゼーの反論にしれっと彰は答えた。
「可能でありましょう。未来には数百キロ先の標的にも必ず命中させる兵器もありますから。」
ハルゼーは唖然として彰を見つめる。
「少なくとも僕はマンハッタン計画をなんとしてでも阻止します。例え艦砲射撃が不可能でも手段はいくらでもある。」
彰はコーヒーを飲み干すと席を立つ。
「コーヒーご馳走様でした。またいつかどこかで会いましょう。」
彰は微笑むと部屋を後にする。
物語は、再激戦と言われたガダルカナル島決戦へと向かう。
Fin
最後まで読んでいただきありがとうございます。松ちゃんです。
更新日が大幅に遅れた挙句、時間まで過ぎてしまいました。申し訳ありません。
お詫びと言ってはなんですが、ガダルカナル島決戦は8話構成ですので、それを一気に更新させていただきます。
またこんな時もあると思いますが、どうかお付き合いください。
次回は13日夜9時です。お楽しみに!




