1章2話 戦闘開始
あの後、彰の言うとおりになった。艦隊は濃霧に突入し、僚艦の姿を見失った。しはらくして、大和より返信せよとの長波無電が入り、南雲を驚愕させた。
5日。南雲機動部隊はミッドウェー島第1次攻撃隊を発進させた。
友永丈市大尉指揮の零戦36、九九艦爆36、九七艦攻36の108機だ。近藤中将の攻略部隊(第2艦隊)がミッドウェーに到着するのが7日に決定されてるため、それまでに戦闘力をミッドウェー島から奪わなければならない。
目標は航空機となされた。副目標として防空陣地や滑走路、航空施設だ。滑走路を長期間使用不能にするのは不可能であることがわかっているため、先に滑走路上の航空機を破壊。
艦爆隊は対空火器による損害が大きいことが支那事変でわかっているが、命中率の高さから採用。800kg爆弾も効果の高さから採用された。
この時点で残った戦力のうち、1航戦は艦攻に魚雷を装備して待機、2航戦はセイロン沖海戦の戦訓から陸上・対艦どちらにも対応できるように未装備状態で待機した。
この時偵察隊も後に出発させたが、重巡利根と筑摩からの出発が遅れた。南雲は嫌な予感がしたが、5分後にしっかりと出発したという報せを聞いてほっとした。
「大尉、ジャップの偵察機です。」
PBYカタリナ飛行艇を操縦するダディ大尉は部下からの報告を受け、これはいるな。と確信した。
「きっと近くにいるぞ。探すぞ。」
カタリナ飛行艇は15分飛行し続けると、海面に白い線を引く物体が複数現れた。
「タリホー!見つけたぞ!我敵艦隊発見!空母1、ミッドウェーの320度、150海里!」
ダディはそう言ってすぐに反転させた。下から零戦3機がせまっていたからだ。今日は運がいいことに雲が多く厚い。
雲を巧みに使い、とうとう零戦はダディ大尉機を撃墜できなかった。
「見つかりましたね。」
草鹿が少し不安げに言った。
「どうせいつかは見つかるんだ。少し早かっただけだ。」
南雲はそう答えたが、彰はそれを黙って見てはいなかった。
「これから気をつけて。今のは恐らくダディ大尉機
だ。同じ進路を遅れてやってくるチェイス大尉機が空襲部隊を発見してミッドウェーに報告する。ミッドウェーはそれを受け、迎撃隊とこの艦隊への攻撃隊を出撃させるよ。」
「そうか、忠告ありがとう。しかしにわかには信じられない事だな。私はまだお前を信じたわけではない。」
言い返された。それもそうだ、反論できない。彰はただ黙って見るしかできなかった。
報告を受けたミッドウェーでは彰の言ったとおり、迎撃隊と攻撃隊を出撃させていた。
迎撃隊はF2Aブリュースター・バッファロー戦闘機20機、F4Fワイルドキャット戦闘機6機を上空にあげ、攻撃隊としてTBFアベンジャー雷撃機6機、B-26マローダー爆撃機4機、SB2Uビンジゲーター急降下爆撃機12機、SBDドーントレス急降下爆撃機16機の計38機が参加した。
B-26は爆弾の代わりに魚雷を搭載している。そこまでして攻撃に出すということは、ミッドウェーの航空隊はそこまで多くないということを意味する。 両攻撃隊はそれぞれの目標へと向かっている。
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最初に接敵したのはミッドウェー防空隊だった。艦攻、艦爆、零戦の順でやってくる日本軍を奇襲で迎え撃った。
たちまち多数の艦攻が火に包まれたが、零戦が逆襲のごとく反撃し始めた。両軍の戦闘機は入れ混じり、まさに混戦となったが10分をすぎるとその差は歴然としてきた。
米軍のバッファローは1代前の戦闘機で、零戦には敵わない機であった。米軍機のその殆どが叩き落とされ、戦闘は15分で終わった。
帰還したのはバッファロー7機、ワイルドキャット4機だけだった。
しかも、着陸失敗や損傷により更にバッファローが5機、ワイルドキャット2機が使用不能になった。事実上の壊滅である。
邪魔者を排除した攻撃隊は暴れ始めた。水平爆撃隊は慎重に狙いを定めて爆弾を落とした。小さな珊瑚島はたちまち爆炎と瓦礫に包まれ始めた。
急降下爆撃機も高度5000から真っ直ぐに突っ込んできて、すごく低いところで爆弾を投下し、地面すれすれを通って離脱していく。
引き上げるときは物凄いGがかかり、ひどい時は9Gもかかる。熟練者でも失神するほどだ。しかしそれを普段の訓練でやっているのだから、相当のタフであることに間違いはない。
友永大尉は通信機が先程の空戦で故障したため2番機に黒板を使って中継していた。あらかた攻撃は終わりそうだが、十分ではないと判断した大尉は母艦に、
「カワ、カワ、カワ」
と打電させた。
これは第2次攻撃の要ありという意味だ。発電所や対空砲台、戦闘指揮所を破壊し打撃を与えたが、滑走路の被害は小さく、死者も20名と少なかった。第1次攻撃隊は変態を組むと帰還していった。
空襲部隊がミッドウェーを攻撃している間、日本艦隊も空襲を受けていた。最初に接敵したのはTBF6機とB-264機の10機だ。
彼らは戦闘機の援護もなしにここまでやってきたため、迎撃にあがった零戦にたやすく叩き落とされた。攻撃に成功したのは2機だが、全て投下後に撃墜。3機はその前に撃墜され、帰還したのは1機だけだった。
B-26も悲惨で、回避されたあげく2機が撃墜され、帰還した2機も損傷がひどく、破棄された。
しかし、彼らの攻撃はこれだけではなかった。
その頃、日本軍の本命、アメリカ海軍空母部隊はミッドウェーからの報告により日本艦隊をほぼ確実に場所を特定し、レイモンド・スプルーアンス少将率いる第16任務部隊(空母エンタープライズ、ホーネット基幹)からF4F20、SBD68、TBDデバステーター雷撃機29機の計117機が発艦した。
この後、フランク・フレッチャー少将率いる第17任務部隊(空母ヨークタウン基幹)はF4F6機、SBD17機、TBD12機の35機が日本空母に向けて出撃した。運命の時間は、少しずつ確実に近づいていたのだ。
Fin