1章~転生編~1話 出会い
「ん……んん……。」
顔が冷たい。今は確か6月のはずだ。冬ならともかく、この時期に寒いはありえない。
大山彰は眠い目をこすりながら思った。冬は深い雪に覆われる地元でも6月はここまで寒くない。
何なんだろうと思いながら体を起こした時、異変に気づく。
「地震…?」
今いる場所が揺れてる。横ではなく縦に、上下に揺れていた。
「縦揺れか……?なら、玄関開けておかないと……」
またしても異変に気づく。
目の前が見えない。まさか、目がおかしくなったのか?
彰は目を再びこすろうとしたが手が見えたため目が見えなくなったのではないようだと理解した。
そもそも、ここはどこ?彰がそう思う理由がそこにはあった。
自室の見慣れたフローリングではなく、木の板が張ってあった。そこには白いラインが通っており、あの狭い部屋が極端に広くなってる。
「母さん?まさか、業者に頼んだの?」
寝ぼけながらそんなことを言っても、母からの返事はない。そもそも、いくらリビングが隣にあるとはいえ、ここには無い。
「……え?」
次の異変は音だった。
聞きなれない音。ザザアと、何かが砂を無理やり突き破って進むようだ。
そして、その音が強くなった時、上下の揺れは下に沈み、軽くなったら上に上がる。それを繰り返していた。
「なんなんだよ、テレビのドッキリか?」
愚痴を言いながら広すぎる自分のものでは無い部屋を前にひたすら歩いた。しばらくすると、扇状に前に向かって閉じるように描かれた白いラインが2本目に入った。
「なんなんだよ……ったくよ。」
愚痴を行った瞬間、目の前が少し明るくなった。少し薄暗いところにずっといたため見慣れるのに時間がかかった、そして、更に時間がかかる事が起こった。
「え……?海……?なんで?」
目の前は海。下は鉄。そこには白いライン。横には更に1本ずつ計5本あった。
後ろには、見慣れない建造物。そして……旭日旗。
横を見ると巨大な船。前甲板にある2台の巨大な物体、そこからすぅっと伸びる棒。ビルのような建物があり、その後ろに煙突らしき構造物。その横には前甲板にある物体が小さくなった物、ライトまである。更に後ろには飛行機……飛行機?
彰は悟り、さっき後ろで見た建造物を見た。
「まさか……!?」
時は1942年6月3日、彰は自室ではなく、大日本帝国海軍空母・赤城の上にいた。
「なんでぇぇぇぇぇぇぇ!?!?!?」
叫ぶしかできない。
建造物から複数の人間が降りてきた。足があるから幽霊ではないだろう。
「あの…!」
言葉を発した瞬間、人物の1人に腕を掴まれ、背負投げを受けた。ズン、という鈍い音と同時に背中に激痛が走った。
それに意識を向ける前にこんどはうつ伏せにされ、腕を後ろに回され完全に拘束された。
「いだだだだだだだ!!ちょ、なにすんだよ!あんたらなんなんだよ!」
「それは貴様の方だ!なぜこの船に乗っている!?」
彰は次の言葉を発しようとした時、ある人物が目の前に現れた。
「なんなんだこの男は。見た事のない服を着ているし、見慣れないな。」
その声は、聞いたことがある。自分には出せない声。恐る恐る顔を上げる。
足はOK、腰は…髪がかかってる!?その上にいくと、………なんなんだあの2つの富士山は!?
でかい、とにかくでかい。まるでスイカ(※比喩表現です。)が2つ並んでいるようだ。その上から覗かせる顔。
………………。
「女ぁぁぁ!?」
彰、起きてから2度目の叫びをあげる。
「おい貴様、女とは失礼だぞ。」
本人が言い返してきた。
「あの、あんたは!?」
「私か?私は帝国海軍第一機動艦隊司令長官及び第一航空戦隊司令官、中将の南雲だ。」
彰は絶句した。俺の知ってる南雲…南雲忠一中将は、少なくとも女じゃない!
「なんなん…だ?」
「こっちこそ聞きたい。見知らぬ人間である以上、見過ごすわけにはいかない。艦長室へ連れて行け。」
「し、しかし、長官!」
「話がしたい。連れて行け。」
返事をした部下につられ、俺は艦内へと連れて行かれた。
―――――――――――――
「あの……ここは?」
彰は恐る恐る聞いた。
「ここは空母赤城だ。わからないのか?」
「だって俺、部屋で寝てて……。今は、今日は何日だ!?」
「6月3日だ。」
「年は!?」
「なんなんださっきから貴様は。1942年だ。」
彰は言葉を失った。
2015年の今日、部屋で寝てたのに、気付いたら赤城にいるんだから。誰でもそうなるだろう。
そして、運が悪い事に彰は死ぬ運命へと近づいていた。
「こちらからも聞かしてもらうぞ。貴様は何者だ。」
「俺は大山彰。16だ。」
「では大山。何故貴様はあそこにいた?見慣れない服や靴を履いているが。」
靴?…履いている。何故?だって部屋で寝てたのに……。ふとポケットに違和感を感じた。手を入れて取り出してみると、小型ソーラー充電器とスマートフォンがあった。
「貴様!なんだそれは!爆弾か!?」
部下の一人が拳銃を取り出し彰へと向けた。それは資料で見慣れた形、十四年式拳銃だった。
「良かった、携帯がついてきてたのか。」
「けいたい?何だそれは。」
南雲は話についていけずたじろいでいる。
「ああ、この世界で言う黒電話みたいなものです。もちろん、性能も機能も違いますけどね。」
そう言って、スマホの電源を入れた。
「そういえば、さっき1942年6月3日と言ってましたね?」
「ああ。その通りだ。」
「てことは、MI作戦で進撃中か。」
「貴様、何故その事を!?軍事機密だぞ!?」
南雲は声を張り上げた。日本の意地をかけた、無謀とも言えるこの作戦は極秘であった。それを、見知らずの少年が知っている。
「俺の生まれは1998年の4月7日だ。俺は太平洋戦史が好きで、この作戦のことはよく知っている。ミッドウェー海戦だ。
東京をドーリットル隊によって空襲された日本軍は日本近海に米軍が来るのを阻止しようとこのミッドウェーを標的にした。空母部隊をおびき出し、それを全滅させる。可能ならば、ミッドウェーを占領し、ハワイも取る。」
南雲は何も言えなかった。ここまで情報が漏洩してる事にではない。見ず知らずの、異国の人間に全てが知られている。未来から来たという少年に。
なんだこの感覚は、幼い頃から男として育てられてきた南雲の胸は熱くなっていた。興味が湧いたのだ。
「知ってるのか……この戦いの行方を。」
知っている。全てだ。赤城が沈み…全体で2000人近い人が亡くなることを、日本軍は劣勢になることを。
「……知っている。日本軍はこの戦いで、……劣勢になる。負けるんだ。」
「貴様ぁぁ!!我ら帝国海軍が鬼畜米英に負けるはずがない!撃ち殺すぞぉ!!」
部下の一人が激昂した。無敵を誇る南雲機動部隊が簡単に負けると言ったからだ。当然の反応だろう。
「なら教えてやる。今は薄いこの霧も、この後もの凄く薄くなって、飛龍、蒼龍、榛名、霧島の艦影を見失う。今は徹底してる無線封鎖もそこで受信能力が弱い赤城の為に大和から長波無電で進路が送られてくる!」
こいつ、何故大和を………。
その場にいた南雲と部下…草鹿龍之介は言葉を失った。
最高機密である大和まで知っている。揺るぎ無い事実が今、目の前に存在している。
「草鹿くん。縄と、予備の士官服を持ってきてくれ。」
「長官、どういう事ですか?」
草鹿は反論した。縄までは良かったのだろう。士官服とはどういう事か。
「艦橋に新任の士官として連れて行く。」
「なりません!身分も知らない一般人、いや、密偵かもしれない人物を艦橋に連れて行くなど!!」
「一理あるだろう。しかし、山本長官から聞いたことがあるんだ。アメリカ人は女子供を大切にすると。彼らがこんな子供を、少し良い男ではあるが、密偵にすると思うか?」
「しかし……。」
南雲はため息をついた。
「君は強情だな。だから旦那が来ないんだよ。」
笑いながらからかうように言った。
「〜~~~~~~~~~!!」
草鹿は顔を真っ赤に染め上げるとドアを粗く開けては外に出ていった。
「ははは、彼女は根は優しい。許してやってくれ。」
南雲は愉快そうに笑った。
Sだな。彰は直感的に感じた。
「しかし、いいのか?俺が嘘をついてるかもしれないぞ?」
南雲はそっと耳に息がかかるほど近付いて言った。
「その時は、私が直々に切り捨てる。」
本気の声だった。殺気のこもった声を聞くのは初めてだ。
「取り敢えず、士官服に着替えたまえ。その格好では怪しまれるぞ?」
「でも…」
「君には存分に働いてもらおう。」
思いっきり笑顔で返された。何が待ち受けてるのかはわかる。彼女達を死なせない為に、俺は知識をフル活用しよう。そう思った瞬間だった。
彰は士官服に着替え、部屋を出た。彰は転生して、新たな人生を歩むことになる。
Fin




