或る村人のはなし
数話で終わる短編です。
100%コメディです。
俺の名前はロス。どこにでもいる様な田舎者――でさえ田舎者と嘲笑うような、地図にも載っていない辺鄙な田舎に住む、謂わば、田舎者の中の田舎者。田舎者界のサラブレッドと言っても過言ではない程の、超普通の人間だ。
顔はフツー、力もフツー、頭もフツー。特出したものの無い、ごく普通の一般人。
それを嫌だと思ったことは一度も無い。だって俺は、平和を愛する田舎者だからだ。
平和万歳!!普通最高!!
だから――
……ちっ!さっきからわんころが煩いな。ちょっと大人しくさせて来るか。
……で、なんだったっけ?
ああ、そうだ。うちがどれだけ田舎かって話。
基本ウチは自給自足。米や野菜は自分で作るし、牛やら馬やら羊やらも世話しているし、肉は森で狩ってくる。
服だって村の女たちが縫うし、装飾品だって自分で作る。
だから王都や街どころか、普通の田舎にだって行く事は稀なのだ。
街の噂が届くまで数年。王都で流行った遊びがウチまで届く頃には、遊んでいた子供は既に大人になっているし、実は王の顔どころか名前すら知らない。
でもそれを不自由に思ったことはないし、知る必要もないと思っている。
そんなド田舎に、数十年ぶりに勇者が現れたとの噂が流れて来た。
性格にいえば、国の予言者だか魔法使いだかの託宣があったらしい。
勇者と成るべき者が生誕した――と。
――という事は、多分生まれたのは十年以上前だろうし、続いて流れて来た魔王出現の噂も、多分同じくらい前の話だろう。
それを聞いた村人たちの反応も、「まあ凄いわねぇ。それより聞いたかしら?隣のおじいちゃんがまたぎっくり腰に――」なんて反応だったりする。
勇者なんて知らない人間の話より、おねしょの数までしっている少年の恋路の行方の方が気になるし、魔王よりも天災の方が怖い。
だから、勇者なんてもの、俺達には関係ないのだ。
――喩えその「勇者」が俺の事なのだとしても……。
「さ、家に帰るか」
ぐうと伸びをして、さっき大人しくさせたわんころ(魔物)を担ぎあげる。
このわんころ(魔物)は、肉は旨いし牙は高く売れるし毛皮はなめして衣料に出来るしで、実に無駄のない生き物だったりする。
「今日……はもう無理だろうけど、明日の夕食は豪華だろうな~」
俺は明日の夕食に思いを馳せ、鼻歌交じりに家路につく。
既に頭の中からは、「勇者」という単語は消え失せていた。