第拾壱話 次の段階へ
度重なる連続時空ジャンプから、「照和の時間軸」に戻って来た雪子は、さすがに疲弊していた。
彼女は実験ブースから出て来ると、すぐにシャワーを浴びて、ドライヤーで髪を乾かしながらベッドに倒れ込んだ。
そしてそのまま死んだように眠った。
しかし3時間程で回復し、ベッドから立ち上がった。
これじゃあ、まるで「時空ジャンプ・ハイ」だな。
雪子は自分でもそう思った。
彼女はカロリーメイトをかじりながら、ソファーに腰かけて、これからの行動について考える。
「昭和の時間軸」の過去を探るなら、「昭和の研究所」の実験装置を使いたい。
そこを起点にすれば、何かトラブルが起きても、保険が効くような気がするのだ。このアイデアは、理屈抜きの彼女の直感だった。
まずこの「照和の時間軸」から、「昭和60年4月7日の日曜日」に飛ぶ。
そしてその「昭和のラボ」から、両親の出会うところ、私が死ぬところ、雪村が1歳のころ、3歳のころに連続ジャンプして、その後「昭和のラボ」に戻ろう。
全て滞りなく進められたら、一度「昭和」から「照和」に戻って来よう。
雪子はそう決めた。
これはまるで、「夢の中の夢」或いは「劇中劇」に入るような試みだった。
因みに、クリストファー・ノーラン監督による映画「インセプション」や「テネット」の公開はそれぞれ2010年と2020年のことである。
雪子は早速、戦闘服のセーラー服に着替える。
予備の服は常に10着、クローゼットの中に用意してあった。
まず目指すは、「昭和のラボ」だ。
約束はしておいたから、杉浦鷹志が出迎えてくれるはずだ。
都合が悪ければ、雪村が代理で来るはず。
ちょっと人遣いが荒すぎるかもしれないな。
と、少しだけ雪村に悪い気がして反省しかける雪子。
でも、報酬は充分あげてるからいいわよね?…そう思ったりもする。
雪村だって、まんざらイヤそうじゃなかったし…。
それに雪村は、私の変異体なんだから、いつか私の後を継いで、並行宇宙の謎を解き明かすような存在になるかもしれないじゃない。
コレはその練習よ。そうよ訓練よ。いずれあの子のためになることだわ。だから、何も気をつかうこと無いのよ。彼女は結局、そう考えることにした。
つまり雪子もまた「典型的な姉体質」なのだった…などと表現すると、「令和7年の時代」では、コンプライアンス的にアウトになってしまうのかな?
まあ、コレはあくまでも「昭和」にまつわる物語なので、どうかお見逃しいただけたらと思います。




