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転生スキル『貪食』  作者: とまてるの
第四章贄の儀式
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第86話最後に残るのはお前だ

ベンジャミンは退院当日、看護師達から貰ったお土産を持ちながら病院の外の出入り口に立っていた。


「もうお別れだねー」


看護師達と別れの挨拶を交わし終えた後、クララは一人でベンジャミンと話していた。


「そうだな」


クララはモジモジしながらベンジャミンの事を見つめており、ベンジャミンはそれに気が付く。


「どうした?」


「そ、その……」


クララはポケットに隠していた紙を、ベンジャミンに差し出した。

ベンジャミンは黙ってそれを受け取り、紙を開く。


「これは?」


「わ、渡そうか迷ってたんだけど……よ、よかったら、その……」


そこには番号と番地が書いてあり、ベンジャミンは笑顔を見せ、紙を優しくポケットに入れた。


「必ず連絡するよ」


「ほ、本当?本当に!?」


「もちろん」


その時、突然強い風が流れ、クララの顔が髪の毛で隠れる。

ベンジャミンは髪の毛を指でクララの耳に掛け、クララを見つめる。


リンゴ。

少女。

幼少期。

血。

死。

恋。


ベンジャミンの指先に少しだけ力が入る。

左手に魔力を集中させ―――


「また会おう」


ベンジャミンは生成した短剣をチリのように消し、クララに背を向けて立ち去って行った。


「ねえねえ、クララさん。ちゃんと渡せた?」


「う、うん」


ベンジャミンが向かっている先には、真っ黒で豪華な装飾が施された貴賓馬車が待機していた。

馬車の扉を開けると、そこにはゼルヴァインが座っていて、ベンジャミンは対向席に座る。


「今から向かう場所は?」


ベンジャミンは張り詰めた緊張の中、気安くゼルヴァインに話し掛け、ゼルヴァインは貴賓馬車に魔力を流し、馬車は空を浮かび始める。


「我が城がある、イーネェヴィア大陸だ」



----



外で激しい雪が降り積もる。

照明も何もない部屋。

夢の中、俺は聴覚を頼りに、誰かと戦っていた。


敵はもう一人の自分と戦っているみたいだが、少しだけ違う。


そして俺はその敵に蹴り飛ばされ、窓から突き落とされた。

ゆっくりゆっくり、自分が窓から地面へ落ちていく過程が流れていく。


俺じゃない笑い声が、鐘のように響き渡る。


そして俺は、地面に背中を強打した。


「うっ……!!」


目が覚めると、俺はベッドから落ちていた。


「お、おい、大丈夫かよ」


ニコは倒れている俺に駆け寄り、俺は棚を掴んで起き上がった。


「カイってそんな寝相悪かったか?」


「知らねぇよ……」


「起きてくれたし、丁度いいや。今さっきハンがやって来て、準備が出来たから行くぞって」


「わかった」


そのまま出掛けようとする俺に、ニコは不満げな顔をして見つめて来た。


「なんだ」


「鎧とか……ちょっとした装備買わないのか?」


「ああ、そうだな」


俺は軽装の鎧を生成し、余った手で革のベルトを作って装着した。


「便利だな」


「色々食ったらそうなる」


ニコは札や色々な物を背負い、チェックインしてニコと共に宿を出た。


「猛吹雪とか……集合場所は?」


「アルダが言うにはそういうのは大丈夫、集合場所は北出入り口の門だってよ」


「わかった」


集合場所へ向かっている間、自分の肉体の変化に気が付く。

隣にいるニコの心拍、ましては周りにいる人間の鼓動や呼吸がまるで耳元にあるように聞こえる。


ニコの鼓動だけがやけに速い。


「な、なあ、カイ。宴の時の夜さ、俺達……何もなかったよな?」


「ん?」


「だ、だから……その……」


「俺は覚えてない」


「よ、酔わないんじゃねぇのかよ!」


「わからない。昨日の夜を覚えてないんだ」


「なんだよそれ……俺だけ恥ずかしいじゃねぇか………」


「なんて?」


「……何も」


そうして俺達は門へ辿り着き、ハン、アルダ、静と合流し、そのまま徒歩で向かう事となった。


そして―――


「今日はここで泊まる」


日が傾いた頃、ハンがそう言った。

視線の先には、小さな街がある。

王国の一つ手前にある中継地点らしい。


「出発は明後日にする」


「猛吹雪か?」


「そうだ。宿は俺とアルダ、静で別れるから、二人は好きにしろ」


「ちょ、おい!」


ニコはただ歩いていくハン達を見つめ、ハンはニコに向かって、手助けしてやったぞ、と言わんばかりにウインクをした。


「か、カイ!なんとか言ってくれよ!」


「最近はブタ箱だったり、変なヤツにボコされたり、色々あったから寝たい」


「……そう、だよな」


俺達が歩き始めた時には、既に三人の姿は見えなくなっていた。

俺とニコは適当な宿に泊まり、二つのベッドがある部屋に入る。


「なあ、どうして二人用の部屋にしたんだ」


「そ、それは……料金が安く済むからな」


ニコの高ぶった心拍、乱れた呼吸。

五感を変化させなくても分かる。


「注意事項として、俺の骨は丈夫だ。多少の乱暴は平気だが、その代わり体重がクソ重い」


「一回それでベッドを壊し掛けた」


俺はニコを見つめる。

ニコは溜め息を吐き、何かおぼつかない感じで、腕を俺の頭の後ろに回し、彼女の呼吸は浅くなった。


その間、俺はニコの鼓動で耳を塞がれた。



----



ニコが眠った後、俺は使っていない片方のベッドに置いていた服と下着を履く。

宿を出ると、少しだけだが雪が降っており、落ち着くために酒を飲もうと店に入った。


鈴の音が鳴り、中には少ないが人が酒を飲んでいた。

席に座ると、自然と愚痴や将来の夢、明日の魔物の討伐依頼の会話が聞こえてくる。


鼓動の音がうるさくて密かに苛立ちを覚える。


「すみません。なんでもいいので、美味しいお酒をください」


「わかりました」


店主が何かを作ろうとすると、少し間を置いて横にいた男が、店主に何か呟いた。

店主は慣れた手付きで作り始め、あっという間に提供される。


「隣のお客様からの提供です」


そう言われ、俺は左を向く。

男は顔を見られたくないのか深くフードを被っていて、俺と目線が合うと、席を移動してすぐ側にやって来た。


「ありがとう」


「いやいや、どうってことないさ」


酒を一口飲む。

ほんのり甘く、あとはストレートな酒がガツンと来る。

初めて酔えると思った酒だった。


だがそれと同時に―――

男の匂い、鼓動、声。


俺が気付いた頃には男は、フードを外していた。


「よお、カイ」


「会えて嬉しいよ」


「ベンジャミン、なんでお前がここにいる」


「それは今進む道を辿って行けば分かるさ」


進む道を辿れば分かる……


「名無しの帝か」


「賢いな」


ベンジャミンは手から金貨を生成し、コイン遊びをし始めた。


「俺はな、お前を殺す前に言いたい事があったんだ」


「前の女のように、今のいずれ壊れる」


「俺にも出来た」


「白い髪に、宝石のような青い瞳をしてる」


白い髪に青い宝石のような瞳。

いるはずもない、自分が殺した女性の後ろ姿が見えた。


「気を付けろよ?ニコ、アルダ、ハン、静。最後に残るのはお前だ」


「早くニコの元へ帰ってやりな」


「"貪食者"」


ベンジャミンはコイン遊びをしていた金貨をカウンターに置き、立ち上がる。


「お釣りはいらない」


「え、あ、お客様!?」


「安心しろ、俺は"善人"だからな」


ベンジャミンは店から出て行き、俺は酒を飲み干して立ち上がった。


「美味しかったよ、酒代はあの男の金で払っといてくれ」


俺は急ぎ足で店から外へ出る。

聴覚や嗅覚を変化させ、周りを急いで見渡すが、誰もおらず、優しく降っていた雪は激しくなり始め、俺は走って宿屋へ戻った。


気配が消えた。だが、アイツが必ず最初に向かう場所なら分かる。


雪も払わないまま、俺は借りた部屋に駆け足で向かい、扉を強く開けた。


そこには、ただ普通に寝ているニコがいた。

いつものように警戒心のない寝顔。

日中は耳障りな鼓動は、ニコを見ると静かになる。


「俺がわざわざ部屋にいるとでも?」


背後から声が聞こえ、俺は振り返り様に背後へ肘打ちをする。

ベンジャミンは肘打ちを避け、咄嗟に後ろに下がって距離を空けた。


「続きをしよう」

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