14. エピローグ
レイチェルの足音が、遠く遠く離れていく。
高台に残されたのは、風に揺れる草の音と、一匹の変な生き物。
そして、少女の胸の奥に灯っていた静かな気配だけだった。
『そろそろか・・・』
膝の上から跳び下りたゴンゴンが、ポツリと呟く。
『うん・・・』
エミルナは、ただそれだけを答えた。
『・・・レイチェルに別れは言わなくていいのか』
『告白の結果を聞かなくてもいいのか』
ゴンゴンの問いかけに、エミルナの返答は変わらなかった。
(・・・いいのよ。これで)
透き通るようなエミルナの声が、秋の風に溶けていく。
(あたしが守り切れなかったこのコロニーを・・・レイチェルが、仲間と一緒に取り戻してくれたんだもの)
10歳で命を落とし、砕けた魂となって妹の中に残り続けた。
絶望と孤独のなかで立ち尽くしていたあの日から、まだ数年しかたっていないのが信じられない。
かつて守られるだけだった幼い妹は、もう自分の足で立ち、自分の言葉で想いを伝える強さを手に入れた。
自分がいなくても、もうあの子は大丈夫だ。
エミルナはそれを、確信していた。
悔いがない、と言ったら嘘になる。
もっとレイチェルと一緒に笑い合いたかった。
あのアレクシスと約束した未来を、この目で確かめたかった。
だけど――誰かのために戦い、誰かを守り、そして懸命に足掻き続けた。
笑って、泣いて、傷ついて、それでも前を向いて。
そして――短かったけど、最後まで、生きた。
(ゴンゴン・・・ありがとね。あたしたちの物語を、ここまで繋いでくれて)
『ハッ・・・礼を言うのはこっちだ。最高の相棒だったぜ、エミルナ』
琥珀色の小さな光が、エミルナの魂からひとひら、またひとひらと溢れ出し、抜けるような青空へと溶けて消えていく。
いつか誰かが、あたしたちのことを思い出してくれるなら。
それだけで、きっと十分だから。
――さようなら。
風が吹き抜け、高台には穏やかな陽光だけが残された。
そこへ、息を切らしたレイチェルが胸騒ぎを感じて走って戻ってくる。
赤くなった頬をそのままに、胸の奥の「温もり」が静かに消えていったことに気づいた少女は、ふと足を止めた。
「・・・お姉ちゃん?」
空を見上げる。
どこまでも広がる空にはもう、偽りの境界線は存在しない。
少女は涙を拭うと、寂しさを抱きしめるように、けれど力強く微笑んだ。
「ありがとう・・・エミルナお姉ちゃん」
風が優しく彼女の頬を撫で、髪を揺らした。
それは未来へと続く、新しい季節の風だった。




