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この世界の悪は、吸血鬼の小銭稼ぎにすぎない 〜無慈悲な治癒魔法と血の刃で、獲物を捕食する〜  作者: アム


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0話 最悪との遭遇

「さあ、お仕事です! 悪い人たちは、一人残らずお仕置きしなきゃいけませんよねっ!」


エリート候補の魔法剣士である15歳の少女、ブランは満面の笑みを浮かべていた。

ギルドの常連で有名人。風と氷の魔力を操る天才の彼女にとって、山賊討伐など意外と簡単な依頼だ。対人の討伐経験はまだ浅いが、実力は折り紙付き。何より、彼女には「悪」をこの世から排除したいという、明るくも、どこか底の知れない殺意があった。


森を進み、山賊のアジトである住処へと近づく。


普段は氷と風をサポートに回し、抜群の素早さで蹂躙する。

今日もその戦い方しか考えていない。ギルドの格上は強い世界だが、一方的に負けることなどなく、少なくとも先手は取れるのだ。

正面勝負なら負ける事はあっても、不意をつくなら必勝である。


――そのつもりだった。


だが、そこで彼女が目にしたのは、あまりに予想外の光景だった。

目にする前に漂ってきた血の匂いで違和感を抱き、ブランは目を細めながら木の影からこっそりと確認をした。


「え…っ、あ、あ……」

そこには、自分よりも先に住処を蹂躙した『何か』がいた。

ターゲットの山賊3人組は既に全滅していた。それも、戦って死んだのではない。まるで屠殺場の家畜のように、効率的に、事務的に処理されている。


血だまりの真ん中で、マスタード色の獣耳を持つ少女が、死体の内臓を無邪気に頬張っている。

その隣では、ペールイエローの髪をした少女が、血に濡れた硬貨を一箇所にまとめていた。


「……ぁ…。」

ブランの笑顔が凍りつく。体から変な汗が噴き出し、思わず漏れた声も掠れてしまう。

そこにあるのはただの「食事」と、ただの「作業」。

これまで彼女が見てきた世界のルールが全く通用しないと確信できる、圧倒的な異物感。

よくある復讐のような正義や悪の関係、憎しみといった感情すら全く通じないと本能で悟った。


(逃げよう。)


そんな思考よりも先に、エリートとしての『勘』が警鐘を鳴らす。

体が勝手に逃げるように動いた。

ブランは数歩、静かに後ずさりを始めた。音をできる限り立てないように。


5歩ぐらいだろうか。不安になり、一度そっと振り返ってみた。

――二人の小さな女の子が……いない???


偶然、古い小屋の中に入ったのだろうと思い、再び前に進み始めようとした。


――はずだった。


反射神経よりも先に、不吉な予感に体が嫌でも反応した。

……その時、小さな女の子が一人、剣を抜いて上からかかってきていた。


視界が、不自然に回る。

空中に、見覚えのある装備が舞っている。その先には、つい先刻まで自分の身体の一部だったはずの右腕が繋がっていた。


遅れてやってくる、焼けるような熱。

女の子と目が合った。少女の瞳は、街によくいる子供のように、元気なぐらい明るかった。


「……がっ、あああああッ!!!」

激痛が脳を焼き、平衡感覚が失われる。

地面に叩きつけられた衝撃と共に、ブランの意識は急速に闇へと沈んでいった。


これが、彼女が『人間』としての常識を捨て去り、自身の目的のためにバケモノ姉妹の背中を追いかけ始める、理不尽で最悪な出会いの瞬間だった。


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