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無能だから追放された俺、実は何もしてないのに世界を救っていたらしい

作者: カルラ
掲載日:2026/04/20

 ――悪いが、お前はもういらない。


 酒場でそう言われたとき、俺は「そうか」とだけ返した。


 驚きはなかった。

 むしろ、やっと来たか、という感じだった。


 俺はこのパーティで、一度も目立ったことがない。

 剣も振るわなければ、派手な魔法も使わない。


 前に出ることもなければ、決定的な一撃を放つこともない。


 だから「何もしていない」と思われるのは、まあ当然だろう。


「足手まといはいらねえんだよ」


 リーダーのガイルが言う。


 周囲の反応も似たようなものだった。


 剣士のレオは露骨にため息をつき、弓使いのミナは笑っている。

 魔術師のカレンだけが、少しだけ目を伏せていた。


「いいよ」


 俺はあっさり頷いた。


「抜ける」


「……あっさりだな」


「引き止めてほしかったのか?」


「別に」


 それで終わりだ。


 揉める理由もない。

 俺にとっても、彼らにとっても、これが自然な流れだった。


 俺は席を立ち、そのまま酒場を出た。


 翌朝、町を出た。


 特に行き先は決めていない。

 とりあえず、適当に歩いていればどこかに着くだろう。


「まあ、なんとかなるだろ」


 今までもそうだったし、これからもそうだ。


 俺はそう思って、歩き出した。


 昼過ぎには、小さな町に着いた。


 特に特徴のない、どこにでもある町だ。


 宿を取り、飯を食い、ギルドに顔を出す。

 やることはそれだけだ。


「最近、この辺は平和なんだってな」


 飯屋の店主が言った。


「ああ。魔物も減ったし、商売もしやすい」


「へえ」


「前はもう少し荒れてたんだがな。急に落ち着いた」


「急に?」


「理由は知らん。だがまあ、いいことだ」


 確かに、その通りだ。


 平和なら、それでいい。


 一方その頃――


「おかしいだろ、これ!」


 森の中で、レオが叫んでいた。


「魔物の数、多すぎるって!」


「たまたまだ!」


 ガイルが言い返す。


 だが、その声には余裕がなかった。


 すでに三度目の戦闘だ。

 本来なら、一日で一度あるかどうかの頻度なのに。


「来るぞ!」


 カレンが叫ぶ。


 次の魔物が飛び出してくる。


 レオが剣を振るう――が、わずかに遅れた。


「なっ――」


 かすっただけの一撃。


 その隙を突かれ、肩に傷を負う。


「レオ!」


 ミナが援護するが、動きが噛み合わない。


 ほんの少しずつ、すべてがズレている。


「なんだよ、これ……!」


 誰も答えられなかった。


 俺はギルドの掲示板を眺めていた。


 簡単な依頼ばかりだ。


「とりあえずこれでいいか」


 薬草採取の依頼を一つ選ぶ。


 難しくもなんともない。


 森に入って、指定された場所で採ってくるだけだ。


 それだけ。


 森に入ると、妙に静かだった。


「……あれ?」


 違和感はあったが、深くは考えない。


 魔物の気配が少ないのは、むしろありがたい。


 そのまま歩き、目的の場所に向かう。


 途中、何度か足を止めた。


 地面の痕跡を見て、ルートを少しだけ変える。


 倒れた木を見て、別の道を選ぶ。


 風の向きを見て、立ち位置を変える。


 ――特に理由はない。


 ただ、なんとなくだ。


 その方が楽だと思っただけ。


「はあ……はあ……」


 その頃、元パーティは疲弊していた。


「数が減らねえ……!」


「なんでこんなに……!」


 魔物の群れは、異常だった。


 そして何より――


「連携が……合わねえ……!」


 レオが歯を食いしばる。


 今までなら、自然に噛み合っていた動きが、まるで別物のようにズレる。


 タイミングが合わない。

 位置取りが狂う。

 判断が遅れる。


「一旦引くぞ!」


 ガイルが叫ぶ。


 だが、その判断も遅かった。


 背後から、別の気配が迫る。


「後ろ!」


 振り向いた瞬間、爪が振り下ろされた。


 ガイルの脇腹が裂ける。


「がっ……!」


 血が飛ぶ。


 その瞬間、全員の動きが止まった。


 ほんの一瞬。


 だが、それが致命的だった。


 俺は薬草を採り終えて、町に戻っていた。


 特に問題はなかった。


 魔物にも会わなかったし、道にも迷わなかった。


「楽だったな」


 依頼を終えて報告すると、受付の女性が少し驚いた顔をした。


「もう終わったんですか?」


「ああ」


「この辺、最近は危険なんですけど……」


「そうなのか?」


「はい。急に魔物が増えてて……」


「へえ」


 特に実感はない。


 俺が見た限りでは、むしろ少なかった。


「運が良かったんですね」


「多分な」


 そういうことにしておく。


 数日後。


 町に、噂が流れ始めた。


 ある冒険者パーティが壊滅した、という話だ。


「聞いたか? あの有名なパーティ」


「知ってる。結構強かったはずだろ?」


「それが全滅寸前らしい」


 酒場で、そんな会話が交わされる。


 俺は特に興味もなく、聞き流していた。


 さらに数日後。


 町の外れで、見覚えのある顔を見た。


「……お前」


 ガイルだった。


 怪我だらけで、やつれている。


「久しぶりだな」


 俺は軽く手を挙げた。


「……なんで」


 ガイルの声が震える。


「なんでお前、平気なんだよ……」


「平気って?」


「この辺、魔物が……」


「ああ、なんか増えてるらしいな」


「らしいな、じゃねえよ!」


 ガイルが叫ぶ。


「あんなの、普通じゃねえ……! 前と全然違う……!」


「そうなのか」


 本当に、よく分からない。


 俺にとっては、特に変わったことはなかった。


「……なあ」


 ガイルが、縋るように言う。


「戻ってきてくれ」


「は?」


「お前がいなくなってから、おかしいんだよ……!」


 その言葉で、ようやく少しだけ理解した。


「ああ」


 なるほど。


「……偶然じゃないか?」


「そんなわけあるか!」


「でも、俺は何もしてないぞ」


 事実だ。


 俺はただ、普通に生活しているだけだ。


「ふざけるな……!」


 ガイルの目が揺れる。


 怒りと、恐怖と、焦りが混ざっている。


「お前、何かやってただろ……!」


「別に」


 俺は首を振る。


「何もしてない」


 ただ――


 なんとなく危なそうな場所を避けて、

 なんとなくタイミングを見て、

 なんとなく全体を見ていただけだ。


 それだけ。


「……そうか」


 ガイルは力なく笑った。


「そうだよな……」


 何かを諦めたように。


「俺たちが……勘違いしてただけか」


 それ以上、何も言わなかった。


 ふらふらと歩いていく。


 止める理由もない。


 その後、俺は普通に生活を続けた。


 依頼を受けて、こなして、飯を食って、寝る。


 それだけだ。


 だが、不思議なことに――


「最近、この辺やけに安全になったよな」


「確かに。魔物が減ってる気がする」


 そんな声を、よく聞くようになった。


 理由は分からない。


 ただ、まあ。


「平和ならいいか」


 俺はそう思って、空を見上げた。


 特に何もしていない。


 本当に、何も。


 ただ――


 そこにいるだけで、少しだけ世界がうまく回っているらしい。


 それがどういうことなのかは、よく分からないけど。


 まあ、別に困ってないし、いいだろう。


 今日も、依頼を一つこなすだけだ。


 それだけの、普通の一日だった。


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