Recollection-89 「可能性」
(『双睛羇旅』、、1ヶ月後には出発か。準備する物は健康な身体と精神でいい、、。どんな旅になるんだろう。)
イェットは期待と不安が五分五分といった所だった。
誰でも初めて何か行う時は不安だ。それは何が起こるか分からない未知の領域に踏み入るからだ。
しかし終わってみれば、苦楽共に経験となり、自身の未来に活かせる。
彼は気楽に考える様徹した。
サングイネンバ川に高所から飛び込んだ時。
四神と謎の男が出会った時。
先生隊長に入団を申し入れた時。
フォエナさん、オスクロさんと初めて出会った時。
『海』を初めて見た時。
戦場へ赴いた時。
初めて人を斬った時。
君と出会えた時。
全ては初めての経験で、今では自分の糧、力となっている。
だからこの旅もきっとそうだ。自分にとって新たな糧や力となるだろう。
淋しいのは一時だけ。
記憶は一生残る。
また、皆には必ず会える。
そうだ、未来にはどんな自分になるのか、なれるのかは自分次第、選択次第なんだ。
この時漸くイェットの内に不安より高揚感が強くなった。
そうだ、僕は変わる、変われる。
強くなる、強くなれる。
護る、護れる。
イェットは自分の右手の掌を見つめ、強く握りしめた。
やるから、出来る様になる。
やらなければ、いつまでも出来ない。
イェットは自分の中で何か確固たる答えを見つけられた気がした。
(今だけに囚われるな。先を見るんだ。僕はやる。)
イェットは顔を上げた。その表情からは心許なさは消え、ただ真っ直ぐに未来を見据えていた。
「イェット君?」
聴き覚えのある声に振り向くと、幼馴染みが手を後ろで組み、少し俯き加減でこちらを見ていた。
「マリー、どうしたの?何かあった?」
マリーアンナは少しだけ逡巡としながらも、思い切った様に口を開いた。
「あの!、、、今日、お家に遊びに行って、、いいですか?、、ほらあの、先にちゃんと言わないと、、怒るかなって、、。」
イェットは少しだけ驚いた表情をしたが、直ぐに笑顔になり応える。
「うん、いいよ。僕もマリーに話をしておきたい事があるしね。待ってるから、いつでもおいで?」
「!、、う、うん!行きます!じゃあ、また後で!」
マリーアンナの表情は水を得た魚の様に活き活きとした。そして彼女は急いで帰り支度を始めた。
その一部始終を見ていたイグナ、シン、ノーアの3人。
「おいぃ、、マリーの奴大胆な行動にでたなぁ、イェット君も隅に置けねぇなぁ、えぇ⁉︎シン先生よぅ⁉︎」
イグナがシンを見ると、今までに無いくらい酷く暗い顔で落ち込んだ様子だ。
「いいサ、イェットの奴メ、、楽しむがいいサ!、、、、、泣きそうダ、、、。イグナ、殴っていいかナ?」
「いやよくねぇよ⁉︎何で俺が殴られなきゃならんのよ⁉︎」
(あちゃぁ、、マリーの奴、何もこんなトコで、、。ったく世話の焼ける奴等だなぁ⁉︎)
イグナは困り顔で頭をポリポリと掻く。
ノーアはシンの仕草を見て意外に思っていた。
(いつも涼しい顔しててシンの奴、マリーの事、、、。コイツも相手が悪いよなぁ、よりによってマリーとは、、。皆には悪ぃけど、気づかなかった事にしとこ、、。ごめン、マリー!)
「そ、そうだ!シン、ノーア、今から『ウドゥン』食いに行かねぇ?俺ご馳走しちゃうから⁉︎ね⁉︎」
イグナは何とか空気を変えようと藁にもすがる気持ちで提案する。
「おぉう!いいねイグナァ、いやぁ私丁度『ウドゥン』食べてみたかったンだよー、な⁉︎シン行こう⁉︎」
イグナとノーアはシンの肩を掴み揺らす。
シンはゆっくりとイグナの方を向く。
「、、、、、この気持ちを鎮めるにハ、、大盛りでもいいかナ?」
(コッコノ野朗、この状況で嫌とはいえねぇ事分かってて、、!)
「あ、あぁ勿論だよシン先生⁉︎大盛り食べちゃおうよ⁉︎啜ろう?チカラ強く啜りに行こう?」
眉を吊り上げながらも目は笑っているイグナ。
ゆっくりとノーアの方を見るシン。
「、、、卵と『アヴラーゲ』付けていイ?」
(な、何で私に言うンだよ⁉︎メンド臭ェなこの金髪イケメン馬鹿!)
「ぃいいよぉ⁉︎それはもう死ぬ程乗っけなよ?私がオゴる!で、イグナが払う!な⁉︎」
(はあぁ⁉︎私のオゴりで俺の支払いって何だよ⁉︎聞いた事ねぇ技使うなよこのチビペチャパイがぁ!んだよワケわかんねーよ?俺が払うのにノーアのオゴりって、無敵じゃねぇか⁉︎クソッ‼︎)
、、と、イグナは思うに留めた。
「よシ!行こウ!ほら何してんノ⁉︎いやア一度食べてみたかったんだよネ、『ウドゥン』!」
シンは笑顔になりズンズンと先へ進む。
「ほラ、置いてくヨ?」
イグナとノーアは顔を見合わせる。
「なぁイグナ、シンて性格変わったンかな、、?」
「、、、いや、きっと目の前で起きた衝撃に耐えられなかったんだ、、。行くぞノーア。お前にもご馳走してやるよ!」
「本当か⁉︎嬉しいありがとう!」
ノーアはイグナの左腕に抱きついた。
「‼︎⁉︎」
この時、イグナは衝撃の事実に直面した。
ノーアには、意外にも胸がある事に。
着痩せ恐るべし。




