Recollection-85 「選択」
美しい翡翠色の長髪を靡かせながら、端正な顔立ちのアトレイタス総隊長が訓練参観に訪れた。
その傍には、以前出会った隻腕の中年男も一緒だ。
(!、、あの人は⁉︎)
イェットも見覚えのある男、いや、隻腕という特異な外見を忘れる筈もない。
「、、、皆集まれ!」
フォエナ鴇ノ雛隊隊長が声を上げ、全員が総隊長の元へ走り寄る。
「ありがとうフォエナ。皆もそんなに畏まらなくて大丈夫です。私もそんなに長居はしませんよ。それから、、。」
アトレイタスはそう言うと、エリーナの方を向き、更に説明を続けた。
「彼はエリーナ・ゴメスさん。これから各雛隊の特別指南役となります。皆も彼から色んな技術を学んで下さいね。」
アトレイタスはにこりと笑顔でそう言った。
「、、、え?」
イェットは勿論、イグナとシンも青天の霹靂だ。
まさか、この男が特別指南役⁉︎
イグナがつい思った事を口にする。
「あ、あのぉ、先生隊長⁉︎、この人ぁ先のたた
「ただの特別指南役、ですよイグナ。それ以上でも以下でもありません。彼が何者であろうとも、学ぶべき事はある筈です。」
先生隊長は続ける。
「動物と違い、唯一我々人間だけが己で『選択』する事が出来ます。彼が何者かを詮索し無下にするも、彼が持つ知識・技術を学び成長するも君達次第です。私はただ機会を与えるだけ、、。無責任に思うかもしれませんが、自分達で考え行動しなさい。」
先生隊長は優しくも鋭い眼差しでイグナの目を見て言う。そして他の雛達にも同様に目を合わせる。
「エリーナさん、何かお伝えしたい事はありますか?」
「アトレイタス殿、ありがとうございます。、、、私はエリーナ・ゴメス。隣国出身だ。クァラーテと剣術が得意だった。それでも君達少年には伝えられる事は全て伝授したい。、、その、、、宜しく頼む。」
エリーナは深々と頭を下げた。下げても下げたりない事など承知で下げた。
「、、、もしかして、この模擬刀、エリーナのおっさんの考えか⁉︎」
イグナは普段通り嫌味なく彼に接した。
「、、、うむ、そうだ。イグナ少年にお誂え向きかと思ってな。」
エリーナはイグナを真っ直ぐ見据え伝える。
「、、成程な、、。よし、、やってやろうじゃねぇか、、宜しく頼むぜ?エリーナのおっさん!」
イグナは笑顔を見せてそう言う。まだ、彼の中にも蟠りはあったかもしれない。しかし彼は、『強くなる事』を選択した。
「それからさ、、イグナ『少年』っての、やめてくれる?俺もう15だし、、。ね?」
そう言われたエリーナは、少しキョトンとした後、こう切り出した。
「わかったイグナ。宜しく頼む。、、、頼みついでと言っては何だが、、俺からも1つ頼みが、、。」
エリーナはそう言うと、アトレイタスを一瞥する。
アトレイタスは笑顔で頷く。
「その、、、、エリーナって呼ぶの、、、止めて頂けたら、、、幸い、、かな?」
「んえ?なんでよ⁉︎」
イグナが素で質問する。
「、、、、、エリーナって、、、、女みたいだろ。、、恥ずかしいから、、、な?」
エリーナは左手で頭を掻きながら少し照れている。
ポカン、、、。
その場にいた全員が一瞬だがポカンとした。
どっ!
皆が一斉に笑ってしまった。ガタイの良い金髪で青い瞳、白髪まじりの髭を蓄えた中年男が、己の名前が恥ずかしいと言うのだ。
アトレイタスも、フォエナも、オスクロも、プロディテオも、ドルチスも、シンも、イグナも、そしてイェットも笑った。
「、、そんなに可笑しいかな?、、、がははは、、。」
「ひぃーっ!おっさん、わかった!ゴメスのおっさんだな⁉︎ははは!そんな事気にしてたのかよ⁉︎」
そう、人は唯一『選択』が出来る生き物。間違える事だってあるだろう。しかし、その後の選択次第で人は新しい道を模索出来る、新たな可能性がある。
我々は毎日が『選択』の連続だ。悔いのない様、、思い残す事のない様、、。
たとえそれが『運命の選択』だとしても、、、。




