Recollection-69 「空からの使者」
エトナ祭も無事に終了し、早2週間が過ぎていた。
11月に入り肌寒さが際立ってくる。人間も動物も草木も冬支度を始めている。
そんな肌を刺す寒さの中、サングイネンバ川の側にある広場に て1人汗を流し訓練に励む若者がいた。
(父さんが『海』を見に連れ出してくれた日に見せてくれたあの動き、、。父さんは一瞬で相手の背後に立っていた。あれが出来れば、、。)
イェットは『現幻』会得の為、試行錯誤していた。
(刻削は基本的に直線的な動き、歩法技術だ。纏霞が出来なければあの動きは体現出来ない、、。先ずは先生隊長の言っていた通り、纏霞を2秒間出来る様にならなければ、、。)
イェットは自分なりの強さを手に入れたくて足掻いていた。しかし、彼は「その先」も想像していた。
(よし、刻削に入る前の予備動作を如何に早くするか練習しつつ、纏霞を使える様に、、)
ドスーン!
「⁉︎な、なに⁉︎」
イェットは突然後ろから何か重いものが落ちた様な音を耳にして驚き振り返る。
「Ouch!...Damn it! It's gonna be bruise on my knee...FUCK! It's bleeding....」
「??、、あの、、大丈夫ですか?」
(何だ⁉︎何を言ってるんだろ?)
イェットが駆け寄ると、見た事のない、緑を基調とした規則性のない模様のマントとフードを身につけた女性が倒れていた。
「⁉︎、、、、。」
イェットに話しかけられても黙っている女性は少し歳上位だろうか、頭巾はめくれ露わになっているその風貌は、赤く長い直毛で毛先はギザギザとしている。瞳は灰色で鼻筋は通り唇は厚めで美しい顔立ちをしている。
少し身体を起こし、座った姿勢から片膝を立てている。スラリとした色白の足を見ると、どうやら出血している様だ。
イェットに気付かれない様に右手を腰の後ろに回し、何かを握る。
「あ、血が出てる、、待ってて!」
イェットはそう言うと、サングイネンバ川へ走り持っていた手拭いを濡らし、戻ってきて傷口を軽く拭く。
再度川へ行き手拭いを洗い、よく絞り広げた後、直ぐに鞄から薬草を取り出して傷口に塗り込み、手拭いを軽めに巻く。
纏霞の練習をすると、大体足の裏の皮がめくれる為、常備していたのが幸いだった。
「!!、、ぁぃた、、。」
「痛みますか?でもこれで大丈夫、、の、筈です。歩けそうですか?」
イェットは言葉が通じるか不安だったが、怪我をした女性を放っておく訳にもいかない。
その女性は顔を伏せ口もきかないのに、イェットが余りにも普通に対応するので困惑している様だった。
右手に握っていたものを静かに手放す。
「、、、あなた、私の髪の色見てもクソ驚かないのね?」
「!!、、、話せるんですね。よかったぁ、、。髪の色は、、僕の方が変だから。」
そう言うとイェットは自分の前髪を摘み苦笑いした。
「、、、フフ、確かに珍しいわ。あなた、いくつ?」
女性は少しだけ笑い、ゆっくりと身体が無事か確かめる様に動き始める。両膝を抱えて座り直した。
「僕は14歳です。」
「クソ若いわね!私の2コ下か、、、そっか、、、。」
女性は何故か少しだけ辛そうな表情を見せた。傷口が痛むのかもしれない、そうイェットは思った。
「、、あ!私のバッグ⁉︎クソ、、、どこかな?」
はっと彼女は辺りを見渡し始めた。何かを探している。
「『ばっぐ』?、、何ですかそれ?」
イェットは聞き慣れない言葉を耳にして質問した。
「あ、あぁ、、かばん、鞄よ。折角集めたのに、、、あ!あった!Ouch!....」
彼女はそう言うと立ち上がろうとするが、足が痛むのか動けずにいる。
イェットが辺りを見渡すと、外套と同様の模様をした鞄が草むらに落ちていた。これではなかなか見つからない。
「僕が取ってくるから待ってて!」
イェットは足早に彼女が『ばっぐ』と呼んでいた鞄を取りに行き、彼女に手渡した。
「はい、これ。中身は落ちてなかったから大丈夫だと思うよ。」
「、、、色々ありがとう。もう少しで動けるわ。クソドジっちゃったよ、、。」
彼女は舌を少しだけ出して苦笑いした。とても可愛らしい子だ。
「かば、、『ばっぐ』には何か大切なものが入ってるの?」
「大切って程のものじゃないわ。薬などになる草をとってたのよ。ほら。」
そう言うと彼女はバッグを開けて中身を見せた。
「へぇ、、色々あるんだね、、あ!蜜草⁉︎こんな時期に⁉︎」
「『みつくさ』?何それ?」
「これだよ。美味しいんだよ。食べたことない?」
イェットは蜜草を指差す。
「えっ⁉︎食べるの⁉︎」
「うん!もらっていい?」
「いいわ。手当てのお礼にどうぞ。」
そう言うと彼女は2本あった蜜草を手当てのお礼代わりにイェットへ渡した。
イェットは蜜草の根っこ部分を噛みちぎり、ペッと威勢よく吐き出し煙草の様に口に含む。
「ほら、こうやって吸うんだよ。美味しいよ?」
「へぇ!どれどれ、、。」
彼女もイェットの真似をして根をかじり指で根を口から取り出すと、同じ様に口に含む。
「!!、、yummy!!何コレ!クソ甘い!すごーい!」
初めて食べた蜜草の甘味に感動している彼女。
イェットも笑顔でそれを見ていた。失礼ながら心のどこかで彼女がシーヤだったらもっと嬉しいかな、楽しいかなと思っていた。
2人で思いがけず蜜草を味わえたのは幸運だ。どうやら彼女の探索能力は優れている様だ。
「、、、よし!身体ももうクソ大丈夫そうだわ。君、本当にありがとう!、、、同じ人間だもんね、悪い人ばかりじゃないよね。」
彼女はそう言うと立ち上がり帰る準備を始めた。身長はイェットとほぼ一緒だ。
「そんな、当然だよ。それに蜜草貰っちゃったしね。こちらこそありがとう。」
イェットも彼女が大丈夫そうで一安心する。
「君、名前は?」
「イェット・リヴォーヴ・エトナ。君は?」
「!、、、私はセンク。また、どこかで会えたら、、、。」
「うん、センクさん帰り気を、、!
センクと名乗った彼女は、イェットの頬に口づけをした。
「、、ありがとう。この恩はクソ忘れないからね。」
にこりと美しい笑顔を見せると、背を向けてセンクは森の中へと消えていった。
イェットは初めてのお礼方法に驚きと困惑を隠せなかった。
(えっ⁉︎どゆコト、、?と、言うか、あの人どこから現れたんだ?転んだ、、のか?)
森に入り、ある程度イェットから離れて完全に姿が見えなくなる所まで来たセンクは立ち止まる。
トン、トンとその場で軽く跳躍する。
(it's all right.)
ドヴァッ!
彼女の見せたその動きは『刻削』を彷彿とさせる、、。
トンッ! トンッ!
木から木へと飛び移り移動するセンク。
(あんな所でジェイドグリーンヘアの民に遭遇するなんて、、、私とした事が目を奪われて足を踏み外したわ。イェット、、クソいい子だった、、。避けては通れないのかな、、。運命の歯車は戻せないのね、、。)
センクは苦悶の表情を浮かべ北へと向かう。




