Recollection-70「約束の帯」
11月11日。
この日はある者の誕生日だ。
日曜日で訓練生達の世話係も休みで暇を持て余している癖っ毛を後ろで結った、榛摺色の瞳の一際背の低い、口の悪い女の子がソワソワとしていた。
(参ったなぁ、誕生日の贈り物買ったのはいいけど、渡し方がわかンない、、。マリーに相談に行くか、、、。)
ノーアは朝早くからマリーアンナ宅まで相談に行く事にした。そう、イグナに渡したい贈り物があるのだが、渡すきっかけに頭を悩ませていた。
あれこれと考えていると、いつの間にか友人宅前に立っている。
コンコンッ
「おはようござぁーっす!マリー、いるー?」
奥からパタパタと誰かがやってくるのが聞こえ玄関が開くと、マリーアンナの母が顔を覗かせた。
「あら!ノーアちゃんおはよう。ごめんねぇ、ウチの子、今日は父さんと隣町まで出かけてるのよ、、。何か言伝ある?」
長い黒髪を背中で結った、榛摺色の瞳、若い見た目のアントワ・トトがノーアに伺う。
「あっ、、そうですか、、いえ大丈夫っす!また来ます!」
「そう?悪いわねぇ、また必ず来てあげてね?」
ノーアが笑顔で頷くと、アントワは手を振り「またね」と言いながら玄関を閉めた。
(ンンン、、困ったなぁ、、イェットやシンには相談できないし、トーラやエーキスに相談した日にゃぁ学び舎で言いふらされるに決まってる、、、ンー、、困った、、。)
「あれ?もしかして、、どこか行くのかいノーア⁉︎」
トボトボと考え事をしながら歩いていたノーアを呼び止める声がする。
「、、あ、、。」
ノーアが意外な人物に言葉を詰まらせていると、
「誰このチビ?」
「ちっせー!」
「胸もちっせー!」
「髪の毛くりくりだね!」
「よく見ると可愛いね?」
「、、、いやブスだろ。」
「おいおいお前達、失礼だそ?ちゃんと朝の挨拶をしなさい。ほら!皆!」
兄であろう男に促され、おはようの合唱をする、小さな男の子と女の子達。
「ごめんな!まだ皆小さいから、思った事口に出しちゃうんだよ、、、あ、いや!本音じゃないと思うぞ⁉︎ほらあの、、可愛い子だと気持ちとは裏腹な事言うだろ⁉︎、、、、、ごめんノーア、、。」
彼は滑らした口を立て直そうと何とか頑張ってはみたが上手くいかず諦めた。
「、、いやブスだ。」
その中でも2番目に大きな男の子、10歳前後と言った所か。反抗期なのか口が悪い。
「おい、そんな事言うなよ、兄さんの知り合いなんだからな、ニス!」
「、、るせぇな!兄貴面すんなよな⁉︎」
そんな捨て台詞を吐き、ニスと呼ばれた男の子は1人走って行ってしまった。
「プロディさン、、、おはっす、、。なかなかの口の悪い奴等ですね⁉︎」
ノーアは「胸もちっせー」が1番引っかかっていたが、拳骨を喰らわせる訳にもいかない、、。
プロディテオ・カートゥが朝の散歩で弟と妹を連れていた。
「まさかこんな所を見られるとは、、恥ずかしいな。皆にはシークレット、内緒にしてくれよなノーア?」
「いーっすよ全然!朝から兄弟のお世話なンて偉いっすね。どこ行くンすか?」
「町外れの公園だよ、コイツ等が連れてけってうるさくてさ、、はは。」
プロディテオは困り顔で笑う。
「あ!私も一緒に行っていいすか⁉︎、、ちょっと相談したい事が、、。」
「相談?、、、イグナの事だね?ビンゴだろ?」
「!!、、、、はぃ。」
町外れにある公園。とは言っても、遊具があるわけではなく、丸太や小さな山がある位の場所だ。
兄弟達を自由に遊ばせている間に、ノーアの相談事を聞くプロディテオ。
「、、、なるほどね。イグナの性格からすると、皆がいる所では渡さない方がいいね。アイツああ見えて気配りが出来る分、そういう事には人の目を気にするって言うか、、、。まぁ、照れ屋だね、イグナは!」
「ふむふむ!じゃ、じゃあ、どの様に贈り物を渡したらいいンすかね⁉︎」
ノーアは前のめりに質問する。
「うん、、やっぱり2人きりがいいと思うな。他の人がいて変に囃し立てられるとケンカになりそうだからな、、。思い切って、家まで行って素直に渡すのが効果的、、かもね。あくまでも「かも」だからな⁉︎、、ノーア次第だよ。」
「そ、そ、そっか!プロディさンあざっす!その通りだと思います!、、、私、今から行ってきます!」
「え⁉︎今からプレゼント渡しに行くのか⁉︎いきなりすぎじゃ、あ!ノーア⁉︎」
プロディテオが少し落ち着かせようとした時には既に駆け出していたノーア。彼は立ち上がり彼女を引き止めて作戦を練ろうとしたが間に合わなかった。
「ふぅ、、、。」
(何してるんだろうな俺は、、、。)
プロディテオはその場の丸太に座ると自分の頬をパチンと叩いた。
ハァッ、ハァッ、
猪突猛進な彼女は気付けばイグナの家まで来ていた。肌寒い11月に汗をかいてまで。
(、、よし、もう引けないぞ私!頑張るンだ!マリーみたいに私も、、。)
息を切らしながら震え始めた右手でイグナ宅の玄関をノックしようとした時だった。
ギイッ
「じゃあ頑張ればまだ蜜草採れる可能性があるって訳だな⁉︎行こうぜぇ⁉︎、、、て、アレ?ノーアの旦那じゃん?、、お?どしたん?」
「あれノーアじゃん⁉︎おはよう。」
「おはよウ、寒そうだネ。大丈夫?」
ハァッ、ハァッ、、
(お、終わった、、。)
ノーアは息を少し切らしながら、残念そうな表情をする。
それを見ていたイェットとシンは顔を見合わせて頷く。
「僕達先に行って探してみるよ。イグナはゆっくり来なよ。」
「ノーア、風邪引かない様にネ。じゃあイグナ、またナ。」
2人はそう言うとサングイネンバ川方面へ走り出した。
「待ってぇ!兄さん私も、、っ!」
奥からイオが顔を出して一緒に行こうとしたが、ノーアを見て身を潜める。
(きっとノーアちゃん、兄さんの誕生日だから来たんだ!邪魔するのはよそぅ、、。)
イオも兄譲りの鋭さで気を遣う。なんていい子なんだお前は。
ハァッ、、、ハァッ、、
「どしたノーア?、、お前汗かいてんじゃん?ちょい待ってろよ。」
そう言うとイグナは一度家に戻り、直ぐに出てきた。
「ほら、風邪引くぞ?馬鹿は風邪引かない筈だけど、お前がいないとつまんねぇからよ⁉︎」
そう言いながらイグナはノーアの顔や首回りを手拭いで拭く。それから羊毛を編んで作ってある肩掛けをノーアに着せた。
普段ならこんな物言いをしようものなら怒りそうなものだが、しおらしく後ろに手を回して斜め下側を向いて俯いている。
「、、お、、。」
「ん?どした?お前も一緒に行
「お誕生日おめでとうイグナ!、、これ、、よかったら、、あげるよ。」
ノーアは口を波線の様にしながらつぶらな瞳を更に円にし、斜め下を向いて贈り物を差し出す。
「!!ノーアお前、、覚えてて、、くれてたんだ。」
イグナは驚きつつ、袋を受け取る。
「開けていいか?」
「、、、うん。」
ノーアは両手を後ろにやり力強く握っている。
イグナが袋を開けて中身を取り出すと、美しい青色の糸で編み込まれた紐状のものだった。
「、、、?これは、、?」
イグナは正直何か分からなかった。
「あ、こ、これは『みさんが』って言ってね、私も着けてるンだけどさ、腕や足に結ンでつけておくンだよ!でな、変な話なンだけど、切れた時に願い事が叶うンだってさ!、、、って、、露天商の人が、、。」
そう言いながら、ノーアは右手首に着けている同じ色の『みさんが』を見せる。
「じゃあノーア、俺の左手首に着けてくれよ。」
「、、、え?、、着けて、、くれるの?」
「ったりめぇだろ⁉︎お前が選んで、決めて、俺の為に持ってきてくれたんだろ?なんなら食うぞ?あーん、、。」
「ばっ馬鹿やめろ!、、、着けたげるからさ、、。」
ノーアはイグナから『みさんが』を受け取ると、照れながら左手首にしっかりと結びつけた。
「いいな、これ!、、、願い事、しとくよ。その、、ありがとな、ノーア。」
イグナはノーアの頭を優しく撫でた。
「、、、うん。誕生日、、おめと、、。」
「『おめと』ってなんだよ噛むなよ⁉︎、、2人でって訳にゃいかんけど、、お前も一緒に来いよ、蜜草採りによ?」
「、、え?、、いいの?」
ノーアは瞳を振動させ震える声で言う。
「ったりめぇだろ⁉︎何言ってんだよ、ほら、行こう?、、すまねぇが、イオも一緒に行くけど、、ごめんな?」
イグナはこの時、自分でも何故ごめんなと謝ったのか分からなかった。いや、分かっていながら分からないフリをしたの方が正しい。
(本当は。こんな時ゃぁ2人きりの方が、、いや、俺自身がハッキリしてねぇから駄目だ、、。)
「何謝ってンの?いいに決まってンでしょ⁉︎イオちゃンも一緒に行こう!イオちゃーン、蜜草取りに行こーよーっ!」
「あ、うん!行くぅ!」
奥から全てを覗き見していたイオは知らぬ存ぜぬ顔で出てくる。恐ろしい子!
3人がサングイネンバ川方面に向かい始めたのを、やや近くから覗いていた翡翠と金髪。
「あっヤバ!こっち来た!シン早く!矢の如き速さで先回りしなきゃ!」
「イェットさン、中々イグナさンもやりますナ⁉︎」
「何言ってんだよホラ!早く早く!はははっ!誰だよそれ⁉︎」
「エ⁉︎、、ワッキだヨ。ヤヤ!イェットさン、急いでますネ?」
「馬鹿馬鹿!急ぐよはははは!似てなさ過ぎて笑える!」




