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悪役令嬢は良い人でした  作者: Y.ひまわり
☆番外編☆
80/80

祝賀晩餐会の休憩タイム

第二章エピローグの、その後のお話です。

ミシェルがメインです。




 ヒヤリとした空気が、火照った顔に気持ちがいい。

 ミシェルは、先客を見つけると声をかけた。


「父上、こんな所で何をされているのですか?」

 

 ガブリエルはグラスを片手に、一人静かなバルコニーに佇んでいた。

 ミシェルに気付くと、フッと笑う。


「少し、休憩をしていた」


 要人への挨拶まわりもひと段落し、束の間の休息なのだろう。ミシェル自身も、そのつもりでやって来ていた。


 王太子ステファンと、王太子妃になったカリーヌの婚礼式典後のパーティーなのだから、身内としては息つく暇もなかったのだ。


 昼間から行われている、国をあげてのお祭りは数日に渡る。

 そして、今は貴族に向けた国王主催のパーティー中だ。


 ――沙織の横にはシュヴァリエが居た。


 シュヴァリエは優秀な魔導師として、帝国へ籍を変えた事になっている。そう、友好の証として。

 これは、互いの国の混乱を避ける為。ガブリエルとシュヴァリエが決めたことだ。

 当然、国王や皇帝は受け入れた。


 今回、帝国の代表として招待された、王子サミュエルと、王女イザベラの案内役として、一緒にやって来たのだ。

 皇太子としては、シュヴァリエはまだ顔出ししていないので、誰も疑問に思わないだろう。


「それにしても、彼はやってくれましたね」と、ミシェルは少し棘のある言い方をする。


「まったくだ。あの姿で、学園に現れてくれるとはな」

 

 ガブリエルは苦笑した。

 卒業式のダンスパーティーに現れたシュヴァリエは、なんと青龍の姿だったのだ。

 ミシェルは、チラリとホールの中に目をやった。


「まあ、アレクサンドル殿下の卒業生からの記念品として、丸く収まりましたけど……」

「そうだな。ステファン殿下が陛下用に作った投影魔道具(あれ)のお陰だ」


 青龍の姿を残せれば……と国王陛下の一言で、実現した魔道具だった。結局、国王よりも先に学園へ贈られることになったのだが。

 魔道具での映像。これで、あの青龍が実際にいたとは思うまい。


「サオリ姉様の、案ですよね? プロジェクションなんとか……」


「次から次へと、面白い」と、ガブリエルは穏やかな表情を見せる。


「さて、私はもう行こう」

「では、僕も」

「いや……、ミシェルは彼女の相手をしていてくれ。大事なサオリの友人だ」

「もとより、そのつもりです」


 とはいえ、そろそろお開きになる時間だ。また明日も続くのだから。

 ガブリエルが、ホールへ戻って行くのを見送ると、入れ違いにやってきた、黒髪の女性に声をかけた。


「チヒロ様も休憩ですか?」

「はい! もう、眼福で……ヤバいです」

「そうですか、良かったですね」


 興奮で頬を赤く染めている千裕の言葉を、さらりと流す。

 沙織の親友の千裕も、カリーヌの希望もあり、ガブリエルとステファンの配慮で招待されたのだ。

 ミシェルも、向こうの世界で会っているので、この変わった話し方にも慣れてきた。


「サオリ姉様は?」

「ふふ……。シュヴァリエ様と庭に行きましたよ。なかなか会えないみたいなので、邪魔したくなくて」


 千裕の言葉に、ズキッとミシェルの胸は疼く。


「あ……、ごめんなさい」


 千裕は、ミシェルが沙織を好きな事を知っていたのに、軽率だったと後悔した。美しい表情を崩さないが、ミシェルの性格は知っている。


「何がでしょうか?」

「いえ、何でもありません。私、龍王様が推しだったんで、つい」

「推し?」

「えっと……。まさか、カワウソが……じゃなくてリュカが。そう、リュカがシュヴァリエ様だと知って、応援したくなっちゃって。私、小動物好きなんです」


 千裕は、自分で何を言っているのか分からなくなり、焦りまくる。


「ああ、リュカの正体を」

 

 千裕はコクコクと頷いた。

 向こうの世界で、シュヴァリエはリュカの姿だった事を思い出す。


「チヒロ様は、サオリ姉様が居なくなって……寂しくはないですか?」


 ふと、聞いてみたくなった。

 

「そりゃ、さみしいですよ〜。でも、沙織が決めた事だし、こうして会わせてもらえたら充分です。ミシェル様は……」

 と言いかけて、千裕は止めると話題を変えた。


「私、やりたい事が見つかったんですよ」

「やりたい事ですか?」

「はい。保育系に進もうと思って。えっと、こっちでは確か、無いですよね? 小さな子供だけの学校って」

「小さな子供の学校ですか? ありませんね……」

「私達の世界には、幼稚園とか保育園とかがあって。私、その先生を目指してみようと」


 この『乙女ゲーム』の、龍王覚醒イベントで知ったシュヴァリエの過去。それがきっかけだったとは、口には出来ないが。千裕なりに、考えるところがあったのだ。


 へへっと笑った千裕は、きっと子供に好かれるだろうとミシェルは思う。

 その学園ではない、小さな子供の為の学校に興味を持った。貴族には必要ないかもしれないが、平民の間にはどうなのだろうかと。

 そして、詳しく千裕に教えてもらう。


 ミシェルは、次期領主の顔になって食い入る様に話を聞いていた。


「ミシェル様が私の世界に来たら……今度は、私が案内してあげますよ」

「それは、いい案ですね」

「あ、でも! その時は、外見を変える魔道具をステファン様に借りて下さいね! 尊死が続出したら困るんで」

「尊……? わかりました」


 よく分からないが、沙織と千裕の外見と違うと言いたいのだろうと理解した。


「では、チヒロ様。明日は、王都の祭りを案内しましょう」

「はいっ、お願いします!」


 ミシェルは手を差し出すと、千裕をエスコートして会場へ向かう。


 胸の疼きは、いつの間にか和らいでいた――。

 




ここまでお読みいただき、本当にありがとうございました!


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― 新着の感想 ―
[良い点] ・乙女ゲームモノをベースにしながら、意表を突いたアクション・ファンタジー系の展開で進めながらも、やっぱり恋愛小説で、大変面白かったです! ・ヒロインが、(自覚ないながらもちゃんと)乙女ゲー…
[良い点] 基本的に召喚で連れてこられた人たちは2度と元の世界に戻れない、が基本だったのでいつでも還ることが出来るのが一番良いですw [一言] とてもとても面白かったです。良い点にも書かせていただきま…
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