第七話~時を司る神の力~
ユウたち5人が街を歩いていると、宿場町のような通りがあった。少し大きめの宿に泊まることにする。
宿代は幸いにも一部屋単位での支払いだった。
「一番大きめの部屋にしてくれ」
と店主に頼むと、最上階のワンフロアが一つの部屋となった場所に通される。食事などの細々としたことが伝えられ、腰を落ち着ける。
「す、凄い!お座敷に露天風呂まで付いているではありませんか!」
「部屋広〜い!」
とミアとガイアがはしゃぐ。ユウもかなり疲れていたので座布団に腰を下ろす。和風のスペースが妙に落ち着いた。宿主は日本人なのだろうか…などと思っていると、カオスが
「ゆっくり休むまでに少し話しておこうかの」
と言って、場を鎮めた。
「そうだな…あ〜クロノ?って呼んでもいいかな?」
「お好きなように、わたくしは貴方の奴隷ですので」
やはり気が強いみたいだ。
「じゃあクロノまずはこれを見てくれ…」
と言ってカチューシャを外す。
「え……?猫人族ではなかったのですか?」
「あぁ、俺は神人族だ、そしてここにいるカオスは俺に宿った神だ」
「…カオス……あの原初の神ですか?」
「そうじゃ、儂は原初にして最古の神じゃ!」
胸を張って言った。知られていることが嬉しかったらしく、嬉々としていた。流石元姫様だなと思っていると、
「で、でもその証拠が無いと、そんな突拍子も無いこと信じられません!」
それも一理あるな、と思い右手の刻印とフェンリルのカードを取り出した。
「……ホンモノなのか確かめさせていただきます!」
と言って手をかざす。次の瞬間驚愕に目を見開く。ふと、ユウは気になって言った。
「その手をかざしただけで分かるってのはどうやるんだ?」
「……はい、これは賢人族特有のスキルになります。手をかざすと対象についての情報が分かるのです。」
そういえば、城の受付の女の人もクロノと同じような尖った少し大きめの耳を持っていた。
「賢人族ってのは何なんだ?」
「私達はエルフという種族のチカラを宿しています。具体的には先程の能力や智力の増幅などのチカラを宿すことが多いみたいです。」
「成程、ありがとう。脱線させ悪かったな…本題に戻そう。」
ミアに目で合図すると、説明を始めた。
「私達は魔人族の王ディアボロスを倒すために旅をしています。神人族は魔人族に勝てる唯一の種族ですから…そしてユウさんはご覧のようにカオス神のチカラを宿しています。私が聞いている限りではユウさんが出来ることはプロセスを飛ばして答えを得る能力、そして、神獣を手に入れた時に発動した、神獣の存在を身体に封じ込める能力、あと神々の力を人に与える能力ですね。現にあそこにいるガイアは名前通りガイアのチカラを宿しています。ただよく使いこなせていないのが現状です。私達は戦力の増強のために奴隷の中でも神の力に耐えうる人を探して、貴方に出会ったのです。」
「そこで、クロノにも手伝って欲しいんだ。勿論危険な旅になるだろうから断っても構わない。でも少しでも力を貸してくれるとありがたい。」
「……そんなことが…」
と暫く呆然としていたが力強く頷く。
「私もディアボロスに父を殺され、奴隷に身分を落とした身です。そのような事情ならば喜んで何でも致しましょう」
初めて見せた、反抗以外の表情に少しドキッとした。
「では早速じゃが、お主にはクロノスの力をさずけたい。これは人間には到底扱い切れるものではない、と思っていたのじゃがお主の器の大きさには目を開くものがあるのでな、では良いか?」
と右手を出し、クロノに向ける。
その瞬間、空気が変わった。光の筋の中を舞っていたホコリから、窓から見る人までが一斉に動きを止めた。数秒後、その緊縛された時間が溶けていった。
クロノが右手を抑え呻く。
「これがクロノスの力、時を支配する能力じゃ、余りにも強大なチカラ故にいくつかの制限を掛けたがの。」
「こ、これが神の力……」
「あぁ、だがガイアにも言えることじゃが、まだチカラの千分の一も出せないだろう。これからは使っていくうちに慣れていくじゃろう。」
「じゃあ、明日は東の街 エストへ行こう。」
とユウが言った。
「なんでですか?」
とミアが尋ねる。
「そこにディアボロスの配下の一人のベルゼビュートがいるんだろ?」
「唐突ですが、そうです。しかしベルゼビュートは四天王の一角でも最強です。まずは南の街の領主ルキフゲ・ロフォカレから崩しに行きましょう。」
「分かった。」
こうして一行は南の街ソルトに出掛けることになる。
だが、そこでは過酷な試練が待っていた…