迷惑かけるのはライフワーク!
カフェ"BLACK CAT"は外装は入りづらさがあったが、店内は落ち着いた作りになっており、思った以上にゆったりと出来た。メニューもこだわり抜かれたシェフの一品で、また来たいとさえ緋那は思った。
優も満足したようで、いつも以上に笑顔が輝いている。2人は店を出ると腹ごなしにと近くの公園まで行くことにした。
「はいってよかったでしょ、ひたな」
「そうだな」
えっへんと効果音が聞こえてきそうに胸を張る優に緋那は正直に答える。
外観で決めつけていれば一生知り得なかった、いい店を見つけた。同志が多いのか、男性1人客もチラホラと店内にいたのを思い出し、改めて不服だが優に感謝した。
緋那が肯定すると、優は嬉しそうに笑う。そして近くの公園まで来ると、優はニコニコとブランコに向かった。
「緋那もやろうよ!」
ブランコを漕ぎながら優は緋那を呼ぶ。緋那はため息をつきながら、空いている隣のブランコに向かった。
「懐かしいよねー、小学校の頃に好奇心にませて上まで漕いでる状態で両手離してブランコから落ちたことあったなー」
「あー、あったな。大怪我しなくて本当に良かったわ」
懐かしそうに緋那は思い出す。盛大にこけた後に、「そうか、手を離したらそりゃ落ちるよね」と大爆笑して平然に立ち上がり、またブランコを漕ぎ出したことに。普通はブランコから落ちたら怖がって、乗るのをやめるんじゃないのか? と子どもながら戦慄したのは強く記憶に残っている。
普通だったら軽くブランコがトラウマにならないか? 今更ながらそんな事を思う。
「明日から高校生だねー。私はまた3年間ひなたに迷惑をかける予定だから、高校でもよろしくね!」
威張りながら言う優に緋那は殴りたくなる衝動を抑えた。そうだった、忘れていたが優とは同じ高校に進学する事が決まっており、彼女の両親から娘を頼むと散々頼まれていたのだった。こんな性格なのに勉強は出来、自分より頭が良いというのは納得がいかない。
「もう高校生になるんだから、人に迷惑をかけるのをやめようとは思わないのか」
優に並んでブランコを軽く漕ぎながら緋那は呆れたように言う。
「えー、ひなたに迷惑かけるのは私のライフワークだし」
「なんつう、恐ろしいこと言い出すんだよ、お前!?」
高校入学前から頭が痛くなる。また優が問題を起こして、職員室に呼び出される生活が始まるのかと、憂鬱な気分になる。
「入学式までまだ日にちあるけど、今まで9年間同じクラスの腐れ縁だから、今年もきっと一緒だよね」
「恐ろしいこと、言わないでくれないか」
良い加減、クラスだけでも離れたい。学校にも安息の時間が欲しい。そう思いながら緋那はまたため息をつく。
「そんなにため息ついてると幸せ逃げるよー」
にひひと笑いながら優は楽しそうだ。能天気なお前が羨ましいよと思いながら優を眺める。
「そういや、安東が思い出せって言ってたけど、なんだ?」
「えー、それはひなたに思い出してもらわないと」
ニコニコと笑いながらも優は答えない。俺は何を忘れているんだ? 緋那は胸に突っかかりのような違和感を覚える。
しばらく無言でブランコを漕ぐ。ギコギコと錆びた音のみが公園内に響く。
「よいしょっ……と」
掛け声と共に優がブランコから前に飛ぶ。そして、両足で上手く着地でき、両手を上に上げて「10点!」と楽しそうに笑う。
「……っ!! 危ないだろ」
緋那はゆったりと漕いでいたブランコを止め、優の方に走る。
「いやぁ、飛びたくなってさ」
親指を上げながらいい笑顔で優は緋那に向かって詫びれもなく言う。
「あんまり危ない事するなよな」
心配性の保護者のように言う緋那に優は変わらないなぁとまた笑う。そして緋那の後ろを見ると「あっ……!!」と声をあげて、走り出す。
「黒猫だぁー。可愛い」
優の視線の先には黒猫がいた。人懐っこいようで、みゃーうと優に気持ちよさそうに喉を撫でられている。
「おい、野良猫かもしれないからあんまり近づくな」
「酷いよ、ひなた。こんなに可愛いのに。ーーねぇ?」
そう猫にコテンと首を傾げながら同意を求める。猫はそうだと言うようにみゃうみゃうと鳴く。猫含めた2対1の構図になんだこりゃと思いながら緋那は本日何度目かのため息をつく。
それから優が満足するまで猫と戯れていたのだった。
そして猫と戯れて満足した優は、そのまま緋那の家についてきて、サラッと夕ご飯を平らげてから家に帰って行った。
緋那は優花の言っていた忘れている事がなんなのか考え続けるも思い出せず、優と何か約束していたか? と狐に摘まれた気持ちになりながら就寝した。
♢♢♢♢
4月1日。まだ入学前だが今日から高校生だと緋那は気合を入れる。元々昨日のうちに今日は優雅予定があり、来ないと聞いており、久しぶりの1人の時間を満喫していた。昨日読む予定だった本を読んでいると気づけば午後になっていた。流石に喉が渇いたなとリビングまで降りて、冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出す。そして、飲みながら部屋まで戻る。
部屋に着くと携帯がなっている事に気付く。慌ててペットボトルを机に置き、着信を確認すると優の母親からだった。
また何かやらかしたのか? と思いながら緋那は電話に出る。
「こんにちは、おばさん。何かあったんですか?」
『緋那くん、久しぶり』
その声はどこか固く緊張感がある。嫌な予感を感じながら優の母親の言葉の続きを待つ。
『一応伝えておいた方がいいと思ってね、さっき優が倒れて病院に運ばれたの』
最初、何を言われたのか分からなかった。倒れた? 誰が? 病院? そのすべての単語が優と結びつかない。病気とは無縁の超健康優良児で熱すら出した記憶がないと豪語していた優が?
緋那は混乱した。今日はエイプリールフールだ。しかし、優の母親がこんなタチの悪い嘘をつくとは思えない。優も母親にそんな嘘をつかせるとは思えない。
となると本当に倒れたのか? 緋那の混乱を感じ取ったのか電話口から落ち着いた優の母親の声が聞こえる。
『心配しなくても大丈夫よ。もう意識は戻ってる。ただ原因がわからないから検査入院って形でしばらく入院する事になったから、緋那くんには伝えておいた方がいいと思って。とりあえず、今日は家族以外面会禁止だからどうしようとも思ったんだけど』
「そうですか。それは良かったです。お大事にと優に伝えといてください」
忙しいと思いますのでこれでと緋那は入院先の病院名のみ確認して電話を切る。
通信履歴から今の会話が嘘ではない事を確認するも、緋那はどこか現実感がないようにしか思えなかった。
ここまでお読み頂き、ありがとうございます。ストック分はこちらで終わりとなります。
これからは執筆しながら更新していく形になる為、更新頻度は落ちますが、彼らの物語をたくさんアウトプットできるように頑張る所存です。
今後は【毎週 土曜日の 20:00 頃】に、優と緋那の367日間をじっくり更新していく予定です。
また、平日の20時には別作品の『ぱんどら』や『境界の管理人』も更新しておりますので、お暇な時にぜひ私のマイページから覗いてみてください。
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