8話 着服
気付けば俺はフラフラと誘われるかのように妹パラダイスの暖簾をくぐっていた。実際には暖簾などない。気分的な話だ。
「いらっしゃいませ。お兄さん久しぶりだね」
「本日もお世話になります」
ふう、ここは落ち着くな。髭面の店員の入れてくれた温かいお茶が実にうまい。ひょっとしてこの味は玉露だろうか・・・サービスのいい店だな。
待て、なぜ俺はまたここに来ている。
「こちらの用紙をどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
前回も見た記憶のある呪われた質問用紙だ。相変わらず質問項目が多い。口コミでは糞みたいな評価が多かったがすっごく褒めてた人もいたんだよな。なんだろう?わかる人にはわかる!的な独特の味のある店な気がする。けっして一般受けはしないが嵌まる人はすっごい嵌まる。そんな感じの店だ。
とりあえず来てしまったし用紙に記入するか。なにせ金はあるしな、所詮はあぶく銭だ。家にもまだまだあるが手元にあるだけで50万程あるからな。
あの廃ホテルでの戦闘は死闘だった。
そしてビルはあの女が着けたであろう炎で燃えていた。
建物全てが燃え尽きたわけではないが、中の一部は燃えた。
つまり、俺の懐にある金はあのホテルの中で全て燃えたのだ。きっとそうだろう。なんせこの紙切れはよく燃えるからな。不幸な出来事だったよ。
・・・つまり、そういうことだ。
さて、とりあえず呼び方はどうでもいい。相談上手な子、あるいは話上手な子を選ぶか。
今後、関わることのない無関係な人間に気楽に話せる。知り合いは駄目だ。無関係な人間がいい。混乱しつつもそういう判断だった。
・・・・・・・・・・
「ご指名ありがとうございます。初めまして」
「本日はお日柄もよく宜しくお願いします」
なぜだろう。妹っぽいキャラが売りの店・・・のはずなのだが。目の前の相手は確実に40歳は越えている。あるいは50歳を超えているかもしれない。
妹・・・妹とは?
「汁婆パラダイスの節子と申します。本日は精一杯対応させていただきますね。宜しければセッちゃんとお呼びください」
店名が違った。明らかに違う店だ。そしてパラダイスだけは共通している・・・そういうことか。これは・・・系列店だ。
「おきれいですね、すごくそそられます、セッちゃん」
気付けばとりあえず俺は目の前の相手を褒めていた。
「あらあら」
満更でもないらしい。
実際、きれいではあるんだよな。年齢は年上ではあるんだが。なんだろう。あの急に壊れたみたいに告白してきた女よりはマシな気がする。
気付けばあの女の脳内で夫婦になっていた。怖い。ひたすら怖い。
「今日はセッちゃんに相談がしたくて」
「あら、そうなの?合体はしなくていいの?」
「合体はしません」
「そう、残念ね。で、どんな相談かしら?」
「行かなくては行けない場所があるのですが、行くと危険なことが起きる可能性があるのです」
「うんうん、そうよね逝くとデキちゃうもんね」
「そうです。行かなくては行けないのです。どうやれば危険を避けれるでしょうか?」
「うーん、やっぱりゴムじゃない?あるいは避妊薬を飲むとか」
どうやら話が通じていなかったようだ。途中までは通じていた気がしたが俺は避妊の話はしていない。
「いや、シモの話ではなくて。これから危険な島に行かなくては行けないんですよ。でも、その島にはとても危険な人がいるんです。ひょっとしたら殺されるかもしれないんですよ、その人に」
「・・・お客様、お薬とかされてますか?」
節子は明らかにひいていた。
「違います。薬はやってませんし、妄想でもありません」
「お客様、暴力団関係者の方は・・・困るのですが」
「誓って、それも違います」
あの女は暴力団関係者ではない。悪魔崇拝者かもしれないがな、嘘は言ってない。
「お客様、あまりイメージがわかないのですが、危険な場所や人には近寄らないのが世渡りの基本ですよ」
節子と名乗った女は丁寧にだが、一般的な話をしてきた。
「わかってます。でも、行かないと不利益が多すぎて行かないと行けないのです」
「それは、貴方にとって命の危険と比べても我慢出来ない不利益なの?」
「そうです、島にいかなければ到底受け入れることのできない不利益があるのです」
「・・・・・・」
節子と名乗った女の表情が真剣になった。ようやく話が少しは通じたか。
「お客様、その危険な相手はどうしてあなたを害そうとするのですか?理由はわかりますか?」




