3.移世界
また短いです。
ごめんなさい。
もっとわらってください。
「目を覚ますと、そこは異世界でし・・・あたしの部屋の天井だ」
期待はずれにも程があるオチに若干怒りを感じながら、今までの事を思い出す。
うん。あたしは謎の貴族とストーカーに・・・・・・何されたんだろ。
「つーか、ここ、家だよね? ・・・・・・ハズッ! 今までの全部夢? ありえない!」
そうだ。そもそもあいつらみたいなファンタジー的存在があるわけ無いだろう。
居たとしてもあたしの所にピンポイントで来るわけないし。
どこのB級映画だよ、ある日突然ファンタジーって。
「は、はは・・・良かった」
あたしは内心ホッとしていた。だって怖かったから、あの男が。
引いてしまう位に整った顔で、厭らしい視線を浴びせてくるあの瞳にはきっと魅了か何か魔法的な物が有るに違いない。
あたしらしくない考えだが、実際あいつの目を見ていると頭がぐるぐるしてきて、ついて行ってもいいかな、なんて気分になる。
何度イエスと言いそうになったことか。
ホッと息づいて、時計を見ると朝の七時半だった。
「やば、急いできがえなきゃ」
「ドウシテ急ぐの?」
「は?そりゃあ学校が・・・!?」
耳元に掛かる息。ここ最近何時も聞くあの厭らしい声。
「ククク、ズイブン驚いているネェ。良いカオだヨ。驚きと恐怖ガ入り混じってイル。アナタのそんなカオを見ると興奮するヨ、クカカカ」
「・・・家に入って良いだなんて言ってません。住居侵入罪は三年以下の懲役または十万円以下の罰金ですよ? あたしが通報する前にさっさと退散する事をお勧めします」
「アナタは賢いネェ。イイヨ。賢い女性は私の好みダカラネ」
「話聞いてましたか? ああ、貴方は話を聞かない人でしたね。それじゃあ、あたし言う事は言ったので通報させてもらいます」
枕もとに置いてある携帯電話に手を伸ばす。ああ、こんなやり取り前にもあったような。
あの時は
「それは困るナァ、クク」
いつの間にか取られたっけ。何なのだこいつは。
「すごい窃盗技術ですね。それを使ってスリにでもなれば良いじゃないですか。そして捕まってしまえばいい」
「アナタにだけダヨ、こんな事するのはネ」
「有難迷惑です。そんな事してあたしが喜ぶとでも思ってるんですか? だとしたら貴方はおそらく一生独身になるでしょう。あたしが言うのだから間違いありません」
「ククク、アナタは面白いナァ。そしてカワイイ」
「あー・・・もういいです。それで、今日は何ですか? また勧誘ですか?」
そうあたしが言うと何がおかしいのか、にやにやにやにや歯をぎらつかせて音もなく嗤った。
「気づかないのかい? ソンナ鈍いトコロも」
「御託を並べなくて結構です。はっきり言って下さい」
強気にこいつの顔を睨むと、観念したのかやれやれと言った風に首を振り、窓を指さした。
「外をミテご覧。サテココハドコデショウ? クククク」
彼の言動を訝しげに見ながら、恐る恐るカーテンを開け外を見る。
「え・・・何ここ・・・は? え? ここあたしの部屋だよね・・・でも外は」
外に広がる風景をあえて言うならば、イメージからなのだが、地獄。戦場。荒地。
そんな、凶悪なイメージのする風景だった。
「ドウだい、アナタにはドウ見える? 美シク見える? ソレとも恐ろしい? カカカカ」
死屍累々。その一言に尽きる。何処だここは。現代日本じゃないのか。
「どこ、ですか。ここ・・・」
「ここはネ、アナタ達で言ウ異世界サ」
「じょうだん、ですよね? どこかの紛争地とかでしょう? じゃなかったら、映画の撮影とか・・・そうですよね?」
嘘だ。そんな事を口にしているがあたしは気付いてしまっている。こいつの顔が真顔だという事に。
そして死にそこなった人間のうめき声。じゅうじゅうとナニカが焼ける音。
窓を開けなくても聞こえて来る音はどれも聞き慣れないが、何故だか偽物とは思えなかった。
「クク、アナタは気付いているはずダ。何せ賢いカラネ・・・イヤ、慣れてないから分からないカナ? ソウダ、近くまで連れて行ってあげヨウ。ソレがいい」
いかにもいま思いつきましたと言わんばかりにはっとした顔になり、にやにや笑いながら、あたしに一歩一歩近寄って来る。
「い、いや。来ないで」
「つれないナァ。エンリョするなヨ。私とアナタの仲ダロウ? アナタくらいなら抱えて行ってあげるヨ」
そんな仲になった覚えは無い。
そうつっこむ余裕があるのだが、逃げれない。腰が抜けてるから。
いつの間にかがしりと掴まれたあたしは、小脇に抱えられなすすべもなく持ち運ばれる。
もはや暴れる気力もない。
こいつはあたしを抱えて窓を開け、そのすらりとしたスラリとした長い足を悠々と窓に掛ける。
「え? ま、まさか跳ぶ気ですか?」
「ウン。あ、結構高さあるカラ、暴れないでネ? 落ちると死んじゃうからサァ・・・・・・ヨッと」
気軽に言ってくれる。あたしは高所恐怖症なのだ。
あたしの事はよそに、こいつはまるでちょっとした段差を飛び越えるように跳んだ。
「あ、ああむりむりむりむりむりむりぁぁあぁ!・・・」
問答無用で紐無しバンジーを体験したあたしは赤子の手首をひねるより容易く気を失ったのだ。