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1.不審者との遭遇

所謂処女作です。

緊張してます。

どちらかというとライトノベルよりなので、純文学が読みたい人には向きません。

更新は遅めだと思います。


わりと作者のテンションによって書かれたものなので、あまり期待はしないでください。


以上を踏まえて、どうぞ読んでやって下さい。


「ちょっとそこ行くお嬢サン」

「へ?あたしですか?」

 塾からの帰り道の周りには外灯の灯りしかない路地裏で、突然あたしは声を掛けられた。


「ええ、そうデス。アナタですヨお嬢サン」

「はあ、えっと、何でしょうか?」


 顔を上に向けないと顔が見えない長身。


「アナタ、私が見えますカ?」


 浅めにかぶったシルクハットに、奇術師の様な燕尾服。


「はあ?え、えっとはい・・・見えますけど」


 お金持ちのお年寄りが掛けていそうな片方しかない眼鏡。


「では声ハ」

「・・・・・・こうして会話してるじゃないですか」


ハロウィンのお菓子の様な形のステッキを、器用にくるくると回す。


「ククク・・・気のお強いお嬢さんダ」

「それはどうも。もう帰っていいですか?」


 愉快そうに細められた瞳はエメラルドグリーン。軽薄そうな笑みを浮かべるその顔はそこら辺の男たちとは一線を画すほどに整っている。


「それはダメだヨ。アナタは私と一緒に来なくてはならナイ」

「・・・・・よく人から回りくどいって言われません?」

「クク・・・厭味な性格は嫌われるヨ?」

「じゃあ嫌って下さい。そしてそのまま去って下さい」


 やれやれといった風に溜め息を吐き、肩のあたりで切りそろえられた亜麻色の髪は彼の頭の動きに合わせてだらりと垂れさがる。

 そして虚空を向いて独り言をつぶやいた。


「もしもし、キミかい?・・・あぁ、中々に難しいネェ・・・・・・えぇ?・・・・・・ダメダメダァメ。彼女は私が育てるンだからネェ。キミに干渉の余地ナシだヨ・・・・・・ソレはズルいナァ・・・・・・仕方ないナ、少しだけだヨ?」


 誰かと会話しているのか、怪しさこの上ないが。彼に育てられる子は可哀相だな。


「ゴメンネ、ほったらかしてサ」

「いえ結構です。このままずっとほっておいて貰っても構いませんでした」

「クク、そう言ウ割には律儀に待っていてくれていたじゃあないカ」

「家の家訓に、人との会話は最後までっていうのが有るので」


 すまなそうな素振りなど僅かも見せずに、一層笑みを深めて、頬をしゃくる。


「イイナァ。私のホームにもそういう家訓が欲しいナァ。話を聞いてくれナイ奴が多いンだヨ。私のホームにはネ」


こいつには家族が居たのかという事に軽く驚愕しながら、こいつも話を聞かんやつでは無いかと内心呆れてしまう。


「それは大変ですね。じゃああたしはこれで」

 そう棒読みで言ったあと足早に彼の横を通り過ぎようとするが、にゅっと長い腕が伸びてきて通せんぼうする。


「つれないナァ。もう少しおハナシをしないカ?イイモノをあげるヨ?」

「知らない人から物をもらっちゃいけないんです。常識ですよ?あたし非常識な人は嫌いなので。腕を退けて下さい」


 彼の腕を掴み、力いっぱいに振り払おうとするが、余程彼の力が強いのか、私が弱いのか、ビクともしなかった。


「・・・・・・だいたい、何ですか?こんな時間にそんな格好でこんないたいけな少女の通行の邪魔をする変質者って。警察呼びますよ?ここで叫びますよ?いいんですか?」

「いたいけナ少女は自分でいたいけだナンて言わないヨ」


 目に力を入れて、呆れ顔の彼の目をじっと見る。その間にも鞄の中に手を入れて、携帯電話を探すが、見つからない。


 私の顔に、焦りの表情が浮かび始めた頃。彼はにたりと勝ち誇るように嗤った。


「アナタの探シ物はコレかい?ククク、コレじゃあ警察に電話できないネェ、クククク」


ストラップに指を掛け、ぷらぷらと見せびらかす様にあたしの携帯電話を持ち上げる。


「なら叫べばいいんです。貴方馬鹿ですか?どうやったかは分からないですけど、ケータイ取ったぐらいでいい気にならないで下さい」


 そう強がったが、理解の範囲外の事が起きているなか冷静で居られるほどあたしは強くない。恐らく声が震えていただろうし、背中は汗でびしょ濡れだ。


「クカカカ、強がらなくてもイインダヨ?怖ければ怖いと泣けばイイ。か細い腕でその身を抱きしめ、神にでも母にでも助けを請うが良イ。だがこの世は無情ダヨ。こんな人通りのナイ路地裏では母に声は届かナイし、まして神など降りてきやしナイ。神は平等ダ。アナタの所にダケ来るなんてエコ贔屓しないヨ」


 益々目を細めると、あたしの顔にずいと顔を近づけ、カラカラと楽しげに嗤った。

 こいつは相当な性格破綻者だ。あたしが負の感情を見せれば見せるほどこいつの喜びは増してゆく。


「あたし共産主義なので」

「なんというナルシストッ!」

「どうとでも。自分の素晴らしさをひけらかして何が悪いんですか?」

「別に悪いなんて言ってないサ。ただ――」

「ただ?」


 突然にやにやと笑っていた顔が真顔になる。

 すっと細められた瞳。北欧人じみた高い鼻梁。一文字に結ばれた唇は、男のくせに艶めかしい。顎に手を添え、ものを言わぬこいつは驚くほど美しい。こんな出会い方をしていなければ一目ぼれをしていてもおかしくは無いだろう。


 ふいに、艶やかな唇が小さく開いた。



「アナタ、カワイイネェ」



 

 ――気持ちが悪い。


 猫なで声に似た様なゾッとする声を出し、にぃぃ、と犬歯が見えるまで口角を上げ、瞳は爛々と見開かれている。


 やばい。こいつは本物の危ない奴だ。


 踵を翻し、駆け足で逃げる。だがこいつはそれを許さなかった。


「ダメダメダァメ。逃がさないヨ。言っただろウ?アナタは私と一緒に」

「行きま、せんっ!」


 五十メートル走校内二位の実力を持つあたしの俊足に、平然とした顔をしてついて来る。

 それどころか必死で走るあたしの横に並んでべらべらと喋る余裕さえある。

 底の知れない奴だ。


「ドウシテ逃げるんだい?」

「当たり、前、ですっ!」

「ドウシテ当たり前ナンだい?」

「・・・っ」

「ダンマリはあんまりだナァ」


 そこの曲がり角を曲がれば人通りのある交差点に着く筈だ。

 残り僅かな体力を振り絞り、全力で走る。


「っは・・・・・・!?」


 無い。交差点がどこにも無い。


 目の前に広がるのはさっきまで居た外灯のある路地裏。

 振り返ってみたが、今まで通って来た道だ。ゆっくりとあいつが歩いて来る。


「なん・・・で・・・」

「ダカラ言ったじゃないカ、逃がさないとネェ」


 にやにやと厭らしい笑みを絶やさず、歩み寄ってくる。

 こいつはこの顔しかできないのか。もしそうだったら可哀そうな話だ。


「しつこい男は嫌われますよ」

「それじゃあ引いてみようカナ」

「賢明な判断です。それじゃあどっかに行って下さい。そして二度と来ないで下さい」

「ウーン・・・・・・それじゃあまた明日ネ」


 ばいばい、と変わらず粘着質の笑みを浮かべて手を振り、足から徐々に消えていった。

 こんな体験をしたのはおそらくあたしぐらいだろう。

 緊張が解けたせいか、へなへなとその場にへたり込んで、独り呟いた。



「帰り道変えよう」


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