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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
4章:クレセート

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277:ラス・イコメク-4-2

「何が……起きて……」

 この時点で私はこの無意識の領域下で自分の体を操っている人格がエオナ=クイーンである事を自覚する。

 まあ、考えてみれば当然か。

 他の人格は表に出ていく人格であって、無意識の領域……言い換えればエオナと言う存在の根っこの部分を制御する人格ではないのだから。

 だから、無意識の領域に何かを仕掛けられたなら、私が出てくるのは必然である。

 ま、この件については大して重要な事ではない。

 今はそれよりもだ。


「なんだこれは、何が起きて、ね。随分な物言いじゃない」

「っつ!?」

 私の無意識の領域に土足で踏み込み、荒そうとした不躾な者を無礼討ちにする方が先だろう。


「産み直そうと考えている者に対してその物言い。底が知れると言う物だわ」

「あ、ああ、そうだな。妾とした事が……」

 私は虚空に立つ人形のような大きさのラス・イコメクを睨み付ける。


「黙れ」

「ーーーーー!?」

 そしてただ一言告げるだけで、ラス・イコメクは茨によって締め上げられ、身動きできなくなる。

 此処は無意識の領域であって、物理的な領域ではない。

 だからこそ、こうして言葉一つで拘束が出来るのは、それだけの実力差がある事を示しているとも言える。

 しかし、ラス・イコメクの心を折るにはまだ足りない。

 故に私は告げてやる。


「私の祖、ヒューマン=コンプレークスを馬鹿にすることを許す気はない。彼は心の底から人を愛し、認め、信じ、理解していて、だからこそ神ではなく人として死ぬ事を自らの意思で選んだ。その芯の通った意志を貶す事は誰にも許す気はない」

「……」

「そして、他の親族たちが真っ当な人間として暮らせている以上、私とG35が人の輪に馴染めないのは個人の問題であり、神の血が助けとなる事はあっても、害になる事なんてのはあり得ない。これは曽祖父様の知識の一端を受け継いだ者として断言させてもらう」

「……」

「そもそもとして、私は他者に理解してもらおうなんて思ってはいない。友も、仲間も、信徒も、家族さえも自然に生まれる者であり、自分から作りに行く必要なんてないものよ」

「……」

 お前の考えは間違っている。


「ヤルダバオトが私に懸想をしているかどうかなんて、至極どうでもいい。代行者としての力と地位は利用させてもらうけど、向こうが勝手に押し付けたものだから対価を払う気もない。私は利用できるだけ利用するだけよ」

「ーーー」

「異教の徒どうこうなんて、それ以上にどうでもよい話。祈るだけならば誰が相手であっても悪ではない。悪とは現実に行動を起こして、初めて罰する対象となるものであり、思うだけならば私はそれを悪とは捉えないし、それを悪と捉えて動く者こそが真の悪であると私は捉える」

「ーーーーー」

「私は荊と洗礼の反逆者でもある。故に、如何なる信仰も祈るだけならば許し、敬い、庇護する。荊をもって打ち据えるのは誰かに対して害をなしてからで十分よ」

「ーーーーーーー」

 お前の言葉は的外れである。


「スィルローゼ様を貶すのは論外中の論外。私はスィルローゼ様に向いてほしいからスィルローゼ様に対して祈りを捧げているのではない。魔法を使うのも、剣を振るうのも、教えを説くのも、役目を果たすのもスィルローゼ様を助けるためであって、スィルローゼ様に振り向いてもらうためではない」

「ーーー!」

「私はこの身がどうなろうとスィルローゼ様を信じ崇めると決めている。ただそれだけの事。走狗大いに結構。世界の果てまで駆けてスィルローゼ様の敵を封じましょう。倉庫大いに結構。世界に仇為す敵をこの身一つで抑え込めるなら誉れですらある」

「ーーーーー!」

「悪神の代行者、大いに結構。正しき力だけでこの世を守り切れるなどと言う夢想はとっくの昔に捨てている。我が祈りに歪みを生まぬのであれば、何も気にする必要は無い」

 お前の言葉に聞く価値はない、と。


「故にもう一度告げよう」

 私は自分の胸の前へと認識している部分に、手だと認識している太い枝を持っていき、祈りの姿勢を取る。


「我が信仰と祈りは茨と封印の神スィルローゼ様の為にある」

 私の言葉と祈りを切っ掛けとして、木気を示す青い光と、薔薇の花を思わせる様な真紅の光が手に集まっていく。

 それは祈りを深めると共に強まり、大きくなり、輝きを増していき、まるで太陽のような輝きを放ち始める。


「リベリオン=コンプレークスなどと言う叛乱を起こすしか能が無い神に作られた、世界を滅ぼさんとする偽神、万産界・皆産みの魔鬼王ラス・イコメク如きに捧げる祈りなどない」

 ラス・イコメクはこちらを向いたまま、動きを止めている。

 震えてすらいない。

 だが、私のやることに変わりは無い。


「故に私は私の役目を果たすために鉄槌を振り下ろす」

 私はゆっくりと腕を頭上へと持ち上げていく。

 そして限界まで持ち上げたところで……


「欠片も残さずに砕け散り、退去せよ。ラス・イコメク」

 振り下ろす。


溢れる(フル・)信仰よ(フェイス・)零れ落ちろ(オーバーフロウ)


 私の無意識領域が光で満たされ、侵入してきたラス・イコメクの力は消滅した。

12/19誤字訂正

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