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信仰値カンストの神官、我が道を行く  作者: 栗木下
4章:クレセート

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229:情報交換-5

 失敗した。


 爆発と同時に頭の中に最初に浮かんだ言葉がそれだった。

 だがそれは矢が防げなかった事や、私の頭が吹き飛んでいることに対する感想ではない。

 攻撃を仕掛けてくる相手の悪辣さを舐めていた事に対する感想だ。


「エオナッ!?」

 私の頭に突き刺さった矢が秘められた力を発揮して爆発を起こした瞬間。

 矢を放った人間の全身が魂ごと炸裂して、高位の蘇生魔法をもってしても引き戻せない死を与えられていた。

 しかし、そこまでならば自爆と言う人を捨て駒にしか見ていない手法で攻撃を仕掛けてくるような相手なのだから、私の想定範囲内である。

 想定外だったのは……


「敵は……」

 矢は私が死ぬまで私の体を爆破するように作られており、その燃料として私に対して負の感情を有した人間の命をランダムに消費するという、極めて悪辣な仕掛けが施されていたことだ。

 だから私は即座に動いた。


「何処に……」

 首から上の無い体を操って魔力を放ち、スィルローゼ様への信仰心をもって矢に簡易の封印を施す。

 時間にして三秒ほどであり、その三秒の間に私の体は更に三度の爆発を起こして、胴体に幾つもの大穴が開く。

 そして、簡易の封印程度ではこの矢を抑えきる事は出来ないのだろう。

 既に封印を内側から無理やり破ろうとする形で矢は動き出している。


「タイホー様!」

「エオナ様!」

 だが一瞬でも時間は稼げた。

 だから私は『フィーデイ』にある体を『エオナガルド』で待機させている体に入れ替える事で、完全な肉体を取り戻す。


「『スィルローゼ・ウド・エリア・アルテ=スィル=エタナ=アブソ=バリア・ツェーン』!」

 私の体から茨が放たれて、矢を包み込む。

 矢から力が放たれて、私の体が十ヶ所近く爆破される。

 そして封印完了と同時に爆発が止み……


「「「ーーーーーーーー!!」」」

「「「!?」」」

 外から凄惨な光景の発生を思わせる悲鳴が数え切れないほどに上がりだす。


「ごほっ、げほっ」

「『サクルメンテ・ウォタ・サクル・エクステ・ツェーン』!『サクルメンテ・ボイド・ワン=デバフ・エクステ・ツェーン』!!」

 私の張ったスィルローゼ様の究極封印魔法を見たタイホーさんが即座に魔法を詠唱。

 結界の強度を引き上げると共に、効果時間を大幅に延長する。


「エオナッ!追撃は任せろ!」

「お願い!『スィルローゼ・サンダ・ソン・コントロ・フュンフ』!」

 お互いに説明をしている暇がないことは理解している。

 だからタイホーさんは万が一の追撃に備えて防御用の魔法を張り直し、私は体を入れ替えた影響で解除された補助魔法をかけ直して、封印を行っている茨を自己の体の一部と認識。


「磨り潰しなさい」

「「「!?」」」

 その上で封印の内部空間にメンシオスの黒い霧を出現させて、矢に込められている魔法を浸食し、破壊し、粉々にしていく。

 だが……


「ぐっ……これは長引くわよ」

 矢に込められている力が破格なのだろう。

 私の様に無効化するほどではないが、メンシオスの黒い霧による浸食のスピードがかなり遅い。

 これは無力化するのに数時間はかかりそうだ。


「分かった。拙僧が補助魔法を延長する」

「お願い。でもその前に……」

 私は爆発直後に部屋の中に踏み込んできた神官たちへと顔を向ける。


「私たちは大丈夫だから、今すぐに街中へ移動!一人でも多くの住民の命を救いなさい!!」

「「「う、承りました!!」」」

 私の言葉を受けて神官たちが駆け出す。

 大半の者はドアから外に出て、普通の道筋で現場に向かうが、何人かは窓から直接飛び出て、屋根伝いに移動することで、騒ぎが起こっている場所へと向かっていく。


「くっ……」

「ツラそうだな」

 神官たちを見送った私は直ぐにいつもの補助魔法をかけ直していき、タイホーさんがそれを延長、強化していく。


「ツラいというよりは不甲斐ない、ね」

「……。つまり犯人は既に死んでいるわけか」

 タイホーさんが窓の外を見る。

 恐らくだが、この騒ぎの中心に居るのが実行犯で、実行犯は複数居たと思っているのだろう。

 だが事実はそうでない。


「実行犯は一人よ。そして、今騒ぎになっている現場の中心に居るのは、ほぼ全員が何の関係もないただの一般人よ」

「何っ!?」

 タイホーさんが大きく目を開いて、こちらに向き直る。


「だから不甲斐ないのよ。何十人、いえ、場合によっては何百人と言う無辜の民を巻き込んでおきながら、得た成果は私が桁違いの悪意と技術を以って狙われたという事実と使われた矢の一本だけなんだから」

「なるほど……拙僧も甘く見ていたな……そこまでの外道だとは……」

 タイホーさんが微かに震える手を強く握りしめ、歯も噛み締める。

 どうやらタイホーさんは既にこの矢がどのような代物であったのかが、だいたい想像できてしまったようだ。


「詳しいことは矢の完全無力化とルナたちが戻ってきてからするわ」

「分かった。エオナは矢の無力化に集中していろ。円と維持の神サクルメンテ様の名に懸けて、作業が終わるまでの守りと補助魔法の延長は拙僧が受け持つ」

 タイホーさんの頭上に光り輝く輪っかが生じ、これまでよりも強力な魔法が周囲に敷かれる。

 どうやらサクルメンテ様の御使いモードを起動したようだ。


「お願い」

 これならば次の攻撃の心配はしなくていいだろう。

 私は矢の無力化と可能な範囲での調査、それとクレセートの中で特異な反応が無いかを探り始めた。

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