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悪霊が精霊になるとき  作者: 旬麗
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8.心の変化

灯が、凪に秘密を話し、拓斗に初めて会ってから1か月が過ぎた。

世間は、ゴールデンウィーク中だ。例年【ikoi】は、ゴールデンウィーク中も世間に取り残されたように、お客さんの出入りには大差がないのだが、今年の【ikoi】は違う。

なぜか、大盛況!!


とうとう、拓斗一人で店を切り盛りすることができなくなってしまった。そこで、呼ばれた凪と灯。

初めてここのCafeにも『ランチタイムサービス』と言うものが存在することがわかり、そちらに手を回せず困っていることを打ち明けられた。

灯の自炊がこんなところで役に立てることができるようになったのだ。


料理苦手な凪は、コミュニケーションをとるのが得意。オーダーとるのは適任!

コミュニケーション苦手な灯は、料理は日常茶飯事。得意分野だ。もちろんキッチン担当だ。

拓斗は、もちろん美味しいコーヒーなどの飲み物担当として。凪や灯のほうにもフォローしてくれることもある。

3人仲良く、程よい距離感を感じている。


【ikoi】は午前10時開店。11時からランチタイムサービス目当てに客足が伸びる。他のお店に引けをとらないコーヒーとセットとあっては、当たり前の事。

店もひっそりとしているはずなのに、この繁盛!

どうやら、口コミが広がっているようだ。そして、お客さんの姿が見えなくなるのは午後3時頃となる。

そうなると、拓斗さんはプレートを持ち、扉にかける『準備中』の札を!


「あ~!つっかれた~!!」


今日も凪は、その言葉と同時にカウンターに顔を突っ伏す。


「ご苦労様」


のねぎらいの声と共に、美味しいコーヒーが二人の前に出てくる。2人はコーヒーを飲むと


「美味し~い!!」


と同じセリフを同時にいい笑いあう。いつもの光景だ。それを確認すると


「さてと!僕はみんなの食事でも。」


とキッチンに消えていく。凪と灯はカウンターで疲れた体を伸ばしていると、まかない料理がでてくる。

今日のメニューは『チャーハンとオニオンスープ』だった。


「二人とも悪いね?せっかくのゴールデンウィークなのに・・・」


「いえ!大丈夫ですよ?

私はこの休みの間、トーヤの事で動くつもりだったのですけど。よく考えてみればゴールデンウィークって病院や施設の人出が少なくなるので、多分行ってもきちんと話が聞けなかったと思うんです。二度手間になるところでした。

それに、こうして手伝えばお金も入ってくるし。

たまには贅沢な食事もできそうです。私には、嬉しいことばかりですよ。」


灯が笑って答えると、拓斗がほっと息を漏らす。

こうして、三人で過ごす時間が増えるたびに人嫌いな凪も、拓斗に自然と微笑みを返すことができ安心できる空気を感じることができる。




そうして、ゴールデンウィークが過ぎ去り、日常が戻ってきたころ3人はある病院の前に立っていた。

そう!ここはトーヤが生まれた病院だ。受付の女性に拓斗が声を掛けると、その女性は、ある男性のデスクの前に立ち、小柄な男性と話をしている。その後、その小柄な男性が3人の前に出てくる。


「事務長をしております。事の詳細を教えていただきたいのですが・・・。」


拓斗が詳細に話を伝えると


「事情は分かりました。少しお待ちください。」


と声いわれ、3人はソファーに座ること十数分。事務長に声を掛けられる。


「ついてきてください。」


事務長の後についていくと三階の突き当りの部屋の扉を開けられ、入室を促される。


「こちらにいらっしゃるのは、ここの院長と師長です。話しはこちらの二人からお聞きください。私はこれで、失礼します。」


事務長はそれだけ言うと、扉を閉め去っていく。

改めて、院長と紹介された白髪頭の小太りの優しい顔の男性と、小柄な院長と同じように優しい顔をした女性に向き合う。


「突然お邪魔して申し訳ありません。」


3人で深々と頭を下げると


「まぁ、座ってください。」


とソファーに座るように促され、座ると院長が口火を切る。


「覚えていますよ。あの当時は珍しいケースでしたから。ずっと気になっていた患者さんですよ。

・・・いきなり、大きなおなかを抱えて来院したかと思ったらもう陣痛が始まっていてほどなく元気な男の子が生まれました。その女性は、一人で出産されたんです。付添人もいなく寂しそうでした。

翌日、夫という方が駆けつけていましたが、何か深い事情があるということがその表情からも見受けられました。


あとは、男性の私よりケアを担当していた師長に話を聞いたほうがいいかと思います。」


そういうと、院長は隣に座る河田(かわだ)師長に目を向け頷いた。師長という河田は、トーヤの母の担当だったと紹介された。

そして、話しが始まる。話は要約するとこういうことになる。


“資産家の娘であるトーヤの母は、父に決められた婚約者と結婚することになっていたが好きにはなれなかった。

しかし、学生の時に好きになってしまった男性がいて、婚約を機にあきらめようと考えていた。

しかし、同窓会で再会。どうしてもあきらめることができず、自分の思いを告げると、お互いに好きだったことが分かった。

両親に反対されるのは覚悟の上で、付き合いを始める。そのうちに妊娠していることが発覚し、駆け落ちしてしまう。

夫と名乗った男性は居るものも、戸籍を移動させると親に居場所がばれてしまうため住まいを転々とし、入籍せずに未婚の母として出産した。”




「でもね・・・。師長さんこの子は大切に育てたいんです。たとえ入籍しなくても親子三人貧しくても仲良く暮らしていければ幸せですよね。

初めて心を許したあの人の子供を、妊娠することができて・・・。

また、こうして出産してとても嬉しいんです。

逃げながらの生活はまだまだ続くんだろうけど、三人寄り添って生きていければ十分なんです。

お願いです。

もし、父から問い合わせがあっても内緒にしていただけませんか?もう少し、この幸せを味わっていたいんです。

それは、贅沢なことですか?」


泣きながら、トーヤの母は話したという。

そんなトーヤの母を見て、河田は心を動かされ守っていきたいと考え、退院後もしばらく付き合いがあったようだ。


「ある時、いつものようにアパートに行ったらいなくなってたの。

いつも帰るときに毎回“今度も会えるかしら”といっていたから・・・。

実際いなくなったら、寂しかった。

そのには、紙切れが残っていてね・・・。それがこれ。

私のお守り。いつどこででも、あの子達が幸せでいますようにって。

いつも、持ち歩いているのよ?」


そういって、紙切れを見せてくれた。それは大事に大事にされているのがわかる。

何重にも包まれていた。


“河田さん

いつもありがとう。

私の母の存在

私の歩く道を照らしてくれる

太陽みたいな人

花であればひまわり

これからの人生に光が差し込めました

私は、頑張れる”


欄外には見落としそうな、小さな小さな字で

“これが河田さんの手元に残りますように”

という祈りの言葉も書かれていた。


それを読んだ、凪も灯も瞳に涙をためて静かに涙が頬を伝う。河田の顔を見つめながらし静かに灯が言葉を発する。


「河田さん、大切なものをありがとうございました。トーヤが大切にされて生まれてきたことはわかりました。

トーヤに変わってお礼を言います。

守ってくれてありがとうございました!!」


河田の瞳からも静かに涙が流れ落ちた。それを、静かに見つめている拓斗の目にも涙が溜まっている。

でも、それは悲しみの涙ではなく温かい涙だ。

それから、三人はその部屋を後にする。玄関まで河田が見送りに出てくれた。


「もし・・・もし・・・もし・・・・・・。

もし、あの子に会えたら、また会いに来てくれるかしら?元気なのか教えてほしい。

そして伝えてください。

娘に会うために、いつでも待ってると。」


何度もためらいながら、河田が最後に声を掛け封筒を灯に手渡す。


「これ・・・」


「あの子に渡してください。私の連絡先です。それから何十年も前の手紙の返事です。」


「確かに預かりました。会うことができたらお渡しします。それまでお預かりして置きます。」


外は、太陽が傾いている。師長と別れると三人とも無言で歩き始める。

トーヤが灯の前に姿を現す。


『トーヤは聞いていた?あなたのお母さんは、あなたを捨てたわけではないみたいよ?』


『聞いてたさ。でも、まだわからないだろう?!』


言葉とは、反対にほんの少しだけトーヤの言葉がやさしく心に響いた。

今回は少し短いです。


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