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亀甲天神  作者: 翠條サツキ
4/12

不適切な表現は控えて下さい(1月中旬)





 週末に降った雪はその後続いた好天にも関わらず、御殿の屋根の上に残り続けていた。

 檜皮葺屋根の端からぽつりぽつりと滴り落ちる雪解け水を掌に受け止めた青年は、濡れた手を軽く振って水気を飛ばすと後ろを振り返った。



「何? 進めれば」



 自分を見つめる複数のまなざしに、長めの前髪からのぞく柳眉な眉をひそめる。それを見ても変わらない周囲の態度にふっと小さく息を吐くと、青年は視線を一身に集めたままゆっくりとした足取りで本殿への階段を背にした定位置に移動すると腰を落ち着けた。



「命様。我々が何をしているのかはご存知ですよね?」

「来月の祈年祭の最終調整、だろ」



 立てた片膝に頬杖をつきながら、ぶっきらぼうに青年が答える。



「そうです。毎年のこととは言え、今年最初の大祭です」

「だから、知ってるってそんなこと」



 4月の例祭、11月の新嘗祭、そして2月の祈年祭の三つを「三大大祭」と言う。

 祈年祭は「トシゴヒノマツリ」ーーー「トシ」は種をまいて刈り取るまで1年を要する稲のことを指し、「コヒ」は請うーーーすなわち穀物の豊穣と国家の安泰を祈る大事な祭事で、全国の神社で行われる。



「ご存知ならば結構です」



 青年の答えに従者は頷くと、集まった仲間を軽く見回した後、言葉を続けた。



「先ほど命様がおっしゃられたように祈年祭の最終調整をこれより行います」



 よろしくお願いします、と一斉に下がる頭達を横目に青年はあくびを噛み締めた。そんな気の抜けた態度に気付いた従者が鋭い視線を突き刺して来る。それに鬱陶しさを隠さずに顔を顰めると、即座に釘をさされた。



「先に申し上げておきますが、不適切な発言は控えて下さいね」

「……お前、俺のことを何だと」

「命様以外の何者でもないと思っております」



 青年に最後まで言わせずに従者が真顔で言い切ると、他の者達も賛同して大きく頷く。



「あっそ」



 下げる時も頷く時も綺麗に揃う従者達に青年が肩を落としながら深々とため息をついても、誰も気にも留めない。

 今年も青年と従者達の果てしない闘いは続きそうだった。






旧サイト 2006.1.24UP分を加筆修正


『セリフ100』様の「ショートバージョン2」のひとつ


残念ながら雪の神宮はサイトの写真でしか見たことがありません。


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