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亀甲天神  作者: 翠條サツキ
2/12

レトロ





 駐車場の隅に自転車を置き、まだ開店していない土産物屋の間を抜けて朱塗りの大鳥居をくぐる。

 緩やかに左にカーブする参道を小走りに駆け抜けていた少女は、総門への階段の手前でその足を止めた。

 振り返った少女の視界に降り注ぐ日の光を乱反射している参道が飛び込んでくる。それはまるで水面のようで、思わず目を細めた。





* *





 玉砂利が敷かれた参道は歩きづらい。

 足下が安定しないため力が入れにくいのは砂浜と同じだったが、コロコロした石は靴の中に入るととんでもなく痛いし、靴はすぐ傷だらけになる。足音はどんな時でも賑やかだし、石に突っかかって転びそうになる。

 神社は子供からお年寄りまで訪れる場所であるのに、参道から本殿前までどこもかしこも足下は玉砂利。万人を受け入れる場所には不似合いな気がした。

 だから尋ねたことがあった。



「どうしてコンクリートにしないの」



 そう言った少女に青年は逆に問い返して来た。



「足下を見ろ。自分が歩いて来た場所を。何が見える?」

「何がって……」



 言われるままに見下ろし、そして背後を振り返る。



「デコボコだね」



 敷き詰められた小石はその上を歩いた人の分だけ乱れ、まるで水に浸食された石灰石のようだった。



「そのデコボコのひとつひとつは誰かの足跡だ」

「足跡?」

「そう。参道は全ての歩みを刻み、覚えている。形を持たない玉砂利だから出来ることだ」



 確かに固まっているコンクリートは受け止めはするが、受け入れはしない。むしろ侵入を拒む性質を持つ。



「それに玉砂利は踏むことで身を清めるという意味もある。神社は神聖な場所だから略式の禊だな」

「へえ、意味あったんだ」



 ただ単に昔からのスタイルをそのまま引き継いでいるだけだと少女は思っていた。



「なくて全国の神社仏閣が一様に参道に玉砂利を敷くわけがないだろう」



 呆れたように言った後、青年は付け足した。



「参拝者全員が手水舎で清めをやるとは限らないから、玉砂利を歩くことで強制的に禊をするという意味もあるけどな」

「それって……」



 知らないところで勝手にやるのは問題ではないだろうか。

 表情の変化から少女の考えを読み取った青年がふっと小さく笑う。



「仕方ないだろう。ここは神社だ、そもそも外とは『場』が違う。清めはどちらにとっても必要なものだ」



 生きている限り、どうしたって穢れはつく。それはもう本当にどうしようもないことだ。

 だからこそ参道が必要になるのだろう。神と対面する身は清浄でなければならないから。



「もっとも、どんな意味があっても参道が不親切であることは確かだ。体が不自由な者には申し訳ないな」

「でも、うちは楼門近くまでなら車で来られるし、楼門からは石畳があるから多少はマシじゃないかな」

「多少は、な」



 改善したくても出来ないことがある。

 残したくても残せないものがある。

 誰であろうと世の中、万事が上手くは回らない。





* *





 早朝の参道は山ほどデコボコがあっても、どこか静かで寂しい。

 でも、あと数時間もすれば、そこには沢山の足跡が刻まれる。

 幅広の階段を小走りで駆け上がり、手水舎へ進む少女の足下で玉砂利が音を立てる。



 じゃりじゃりじゃり。



 意味のある一歩一歩を踏みしめながら、少女は柄杓に手を伸ばした。






旧サイト 2003.10.9UP分を加筆修正


『モノカキさんに30のお題』のひとつ


伊勢旅行で「倭姫宮」の参道を歩いてる最中に浮かびました。

内宮や外宮と違い、歴史も浅く立派な巨木とかないし、林道みたいな参道だけど凄く凄く好きです。


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