災厄の魔女の裁きと第四の使徒
災厄の魔女ミレイア
人は忘れる。
悲しみを。
苦しみを。
そして、時には大切な思い出さえ。
だが、それは悪いことばかりではない。
忘れるから、人はまた笑える。
失うから、新しい幸せを見つけられる。
王都フェルディア。
栄華を誇ったその場所は、終焉病によって滅びを迎えようとしていた。
誰も悪くない。
誰か一人を責めても、救われる命は戻らない。
だからこそ。
災厄の魔女ミレイアは決断した。
古き王都を終わらせることを。
そして、新しい未来を人々に与えることを。
「苦しみだけを忘れなさい」
「幸せは、これから作ればいい」
しかし。
世界が平和を取り戻そうとしたその時。
終焉神ゼロスの元で、封印されていた第四の使徒が目を覚ます。
その少年が呼ぶのは、一人の兄の名前。
「兄さん……」
それは絶望か。
それとも、千年越しの希望なのか。
誰もまだ知らない。
涙の再会が近づいていることを――。
第三十四話「災厄の魔女の裁きと第四の使徒」
王都フェルディア。
終焉病はもはや止められないほど広がっていた。
第三の使徒リヴィエルは高らかに笑う。
「もう終わりよ!」
「この国は滅ぶ!」
しかし。
「そうかしら?」
災厄の魔女ミレイアが静かに前へ出る。
「終わるのはあなたの悪戯よ」
無数の魔法陣が空を覆う。
ベルゼリオスが青ざめる。
「まさか……」
「禁術か!?」
アイオニアも驚いた。
「ミレイア!」
「その魔法は!」
ミレイアは悲しそうに微笑む。
「この王都はもう救えない」
「なら」
「苦しみの記憶ごと終わらせるだけ」
◇◇◇
タクトは叫ぶ。
「待って!」
「何をする気ですか!」
「新しい王都を作るのよ」
「え?」
「終焉病に侵された土地を消し去り」
「人々を安全な場所へ移す」
「そして」
「皆の記憶を書き換える」
フィリアが震える。
「記憶を?」
「悲しみだけを消す」
「新しい王都で」
「幸せだった思い出を作る」
「それが私の最後の仕事」
◇◇◇
リヴィエルは笑った。
「馬鹿ね!」
「神の領域よ!」
「人間の記憶を変えるなんて!」
その瞬間。
ミレイアの杖が輝く。
「誰に向かって言ってるの?」
「私は災厄の魔女」
「神を呪い」
「神を泣かせ」
「神を叱った女よ」
第三の使徒リヴィエルは恐怖した。
「ひっ!」
「いや!」
「ゼロス様!」
「助けて!」
「駄目」
「悪い子ね」
紫の炎がリヴィエルを包む。
「愛を弄んだ罪」
「病人を苦しめた罪」
「人の心を踏みにじった罪」
「しっかり反省しなさい」
そして。
リヴィエルは涙を流した。
「ごめんなさい……」
「ごめんなさい……」
◇◇◇
空間が崩れる。
古い王都フェルディアは光に包まれていく。
国王アルバートは静かに言う。
「ありがとう」
「ミレイア殿」
「さらばだ」
フィリアは涙を流す。
「お父様!」
「泣くな」
「新しい国で」
「また会おう」
そして。
巨大な光が世界を包む。
数日後。
人々は美しい新王都で目を覚ました。
「今日も平和ですね」
「ええ」
「王都って昔からここでしたよね?」
誰も違和感を抱かない。
新たな歴史。
新たな王都。
新たな未来。
しかし。
レーヴェン家だけは全てを覚えていた。
タクト。
フィリア。
エマ。
レオ。
リリア。
レオン。
セレナ。
エドガー。
アザル。
ベルゼリオス。
そして。
ミレイア。
「これでいいのよ」
「皆が笑っているもの」
◇◇◇
その時。
終焉神ゼロスの神殿。
巨大な棺が開く。
銀色の少年がゆっくり目を覚ます。
「兄さん……」
「やっと」
「会える」
第四の使徒。
その名は――
ノア。
そして。
ノアが見つめる先には。
驚愕するアザルの姿があった。
「ノア……?」
「お前、生きていたのか……」
涙を流す第一の使徒アザル。
第四の使徒ノアもまた涙を流す。
「兄さん」
「迎えに来たよ」
第三十五話「涙の再会と第四の使徒ノア」へ続く――。
第一の使徒アザル
第三十四話「災厄の魔女の裁きと第四の使徒」を読んでくださり、ありがとうございました。
先生。
タクト先生。
僕はずっと思っていました。
使徒になった時から。
もう失ったものは戻らないと。
弟も。
仲間も。
笑顔も。
全部終わったのだと。
でも。
世界は変わっていくんですね。
新しい王都。
新しい未来。
そして、先生たちが守った笑顔。
それを見ていると、少しだけ信じてみたくなります。
……でも。
僕は見間違えませんでした。
あの声。
あの瞳。
あの泣き顔。
「兄さん」
そう呼ぶ声を。
ノア。
僕の大切な弟。
何百年も前に失ったはずの家族。
どうして生きているのか。
なぜ第四の使徒になったのか。
何も分かりません。
だけど。
もし本当にお前なら。
今度こそ。
兄さんがお前を一人にしない。
次回――
第三十五話「涙の再会と第四の使徒ノア」
「兄さん、迎えに来たよ」
千年の孤独。
失われた兄弟。
そして、終焉神ゼロスが隠していた真実。
再会の涙が、新たな運命を動かし始める――。




