我が家のITトラブル
ITが生活に深く入り込んだ今、
トラブルの原因が技術にあるとは限らなくなった。
メールが届かない。
ログインできない。
容量がいっぱい。
どれも珍しくない話だ。
だが、そこに人間関係が絡んだ瞬間、
問題は別の次元へと移行する。
これは、
家庭内で起きた、ごくありふれたITトラブルの記録である。
そして同時に、
「正しいことを言うことの危険性」についての、
私なりの覚え書きでもある。
ITトラブルにおいて、いちばん危険なのは「正しいことを言う人間」だ。
これは長年生きてきて、ようやく確信した真理である。
今回の発端は、奥さんのメールが届かない、という話だった。
証券会社にログインするための認証メールが来ないらしい。
結果から言えば原因はほぼ確定していて、OneDriveの容量がいっぱい。
写真と動画をハードディスクに移すか削除するかすれば、多分メール届くよ。
なんて、私がいうもんなら、
写真なんて一枚もアップロードなんてしたことない!
って怒られる。
良かれと思って言ったんだが、私が悪者扱い。
写真か動画が自動アップロードされて、メールが止まっていた。
私は知っている。
普通に生活していて、写真だけであの容量が埋まるわけがない。
絶対に動画だ。
──などと、心の中では思っている。
しかし口に出すと死ぬ。
これは比喩ではない。
家庭内において、正論は凶器である。
しばらくして、奥さんが言った。
「来た!メール来た!」
言われた通り、作業したのである。
このあたりがかわいい。
しかし、ここが第二の罠だった。
証券会社の認証メールは、発信時刻が命である。
古いメールを開けばログイン失敗。
それを三回やると、アカウントは一時停止。
私は反射的に言ってしまった。
「新しいメールだからね。
発信時刻ちゃんと見て。
3回失敗したら止まるから気をつけて」
内容は100点満点だった。
しかし、タイミングが最悪だった。
人は焦っているとき、助言を「ノイズ」として受け取る。
そしてノイズを出した人間を、原因として記憶する。
数秒後。
「間違えちゃった」
「メール消しちゃった」
「声かけるからだ!」
「あんたのせいだ!」
はい、完成である。
原因
→ 本人の操作ミス
責任
→ なぜか私
このロジックの飛躍は、ITでは説明できない。
これはもう心理学か、宗教の領域だ。
私は何もしていない。
むしろ助言した。
正しいことを言った。
それでも責められる。
ここで私は悟った。
ITトラブル対応における最適解は、
「正しいことを言わない」 である。
・原因を知っていても言わない
・証拠があっても出さない
・数字があっても見せない
聞かれたら
「落ち着いたらやって」
それ以上は言わない。
これが生存戦略だ。
家庭内IT事故は、
技術の問題ではない。
感情の問題であり、タイミングの問題であり、
そして何より、誰が口を開いたかの問題である。
私は今日も学んだ。
正論は人を救わない。
沈黙は、ときに命を救う。
南無南無。
ITトラブルにおいて必要なのは、
知識よりも距離感なのかもしれない、ということだ。
原因を知っていることと、
それを口に出していいかどうかは、
まったく別の話である。
正論は、
相手が落ち着いているときにしか機能しない。
そして家庭内では、
その「落ち着いているとき」が
永遠に来ない場合もある。
だから私は今日も、
知っていても言わず、
分かっていても黙り、
南無南無と心の中で唱える。
これが、
私なりのリスク回避であり、
生存戦略である。
読んでくれた方が、
もし同じような場面に出くわしたなら、
この文章を思い出してほしい。
正しいことを言わない勇気も、
ときには必要なのだと。




