火力主義の奥さん
料理ひとつ取っても、人はそれぞれ“自分の世界のルール”で生きている。
私と奥さんは、火加減ひとつでまったく別の文化圏の人間だと気づいた。
私は予熱も弱火も信じている。
ガス代だって節約したい。
だが、奥さんには通じない。
彼女の中には、“強火こそ料理”という絶対的信仰があるのだ。
火加減ごときで夫婦の文化差が見えるとは、
人生とはつくづく面白い。
うちの奥さんは、
「予熱で煮る」という概念を一切信じていない。
とにかく強火。
常に強火。
強火こそ正義。
弱火にするなんて発想は存在しない。
鍋を火にかけたら、
ゴォォォォーーーーッ!!!
と爆音レベルで煮立てる。
まるで“料理を煮る”というより“敵を倒している”かのようだ。
私は言う。
「ガスがもったいない。
予熱で十分だよ。
弱火にしたって調理時間変わらんよ。」
でも奥さんは聞かない。
強火の方が“料理してる気になる”のか、
強火の方が“安心する”のか、
理由はわからんが、とにかく強火一択。
まるで、
『火を弱めると料理が死ぬ』
くらいの世界観。
強火は奥さんの性格そのものだ。
勢いがあり、迷いがなく、全力。
それが良い方向に働くときもあるし、
こちらの合理性と衝突することもある。
だが、どちらが正しいという話でもない。
予熱を信じる私と、
強火を信じる奥さん。
火加減はまったく違っても、
同じキッチンに立っていることだけは変わらない。
家族というのは、
こういう “温度差” を面白がれるかどうかで、
案外うまくいくのかもしれない。




