ドラクエの村人が勝手に冒険する日
ドラクエの村人が勝手に冒険する日
面白いニュースを見つけた。
なんと、PlayStation 5を改造して、AIを動かすことに成功したという。
しかも、270億パラメータの大規模言語モデルまで動いたらしい。
もちろん、いろいろ制約はある。メモリが足りないのでAIを圧縮したり、ゲーム機を脱獄させたりと、普通の人が簡単にできる話ではない。
しかし、これは面白い。
そもそもゲーム機でAIが動くということは、ゲームそのものにAIを組み込める可能性があるということだ。
そこで、ちょっと考えてみた。
ドラクエの村人は、いつまで同じセリフを話すのか
ドラゴンクエストをプレイしたことがある人なら、誰でも経験があるだろう。
村人に話しかける。
「ここはアリアハンの城下町です」
もう一度話しかける。
「ここはアリアハンの城下町です」
さらに話しかける。
「ここはアリアハンの城下町です」
いや、もう知ってるって!(笑)
もちろん、これはゲームの仕様だから仕方がない。
しかし、ここにAIを組み込んだらどうなるだろう。
「こんにちは」
「おや、見ない顔だね。旅の人かい?」
「そうだよ。魔王を倒しに行くんだ」
「ははは! そりゃ大きく出たねえ!」
「本当だって」
「そうかい。だったら武器屋に寄っていきな。そんな装備じゃ心配だよ」
こんな会話ができるようになる。
しかも、毎回違う会話になる。
村人の性格や口癖、住んでいる場所、知っている情報などを設定しておけば、あとはAIが勝手に話してくれる。
もちろん、ゲームの世界観を壊さないための制約は必要だろう。
しかし、村人一人ひとりのセリフを、開発者がすべて用意する必要はなくなる。
しかも、村人が会話を覚えている
ここからが本当に面白い。
AIに記憶機能を持たせるのだ。
昨日、魔王を倒しに行くと話した村人に、翌日また会いに行く。
「おや、昨日の兄ちゃんじゃないか。武器は買えたのかい?」
「買ったよ。ほら、鉄の剣」
「おお、立派になったじゃないか!」
こうなると、もう単なるNPCではない。
会話を積み重ねることで、共通の話題が生まれる。
仲良くなることもあれば、喧嘩することもある。
何度も話しているうちに、村人が自分のことを覚えてくれる。
これ、昔の『シーマン』どころの話ではない。
しかも、音声合成技術を組み合わせれば、実際に声で会話することもできる。
初音ミクのような歌声合成技術を思い浮かべてもらえば、方向性は理解しやすいだろう。
声優さんにキャラクターの声を収録してもらい、その声を許諾のもとで音声モデルにする。
すると、声優さんが実際には録音していないセリフまで、そのキャラクターの声で話せるようになる。
もはや、ゲームの登場人物と普通に会話できるわけだ。
だったら、NPCも勝手に冒険すればいい
ここで、ふと思った。
NPCは、どうしてプレイヤーが話しかけるまで待っているのだろう。
別に待っていなくてもいいじゃないか。
NPC自身が、勝手にゲームをプレイすればいいのだ。
例えば、アリアハンの酒場。
「今度、北の洞窟に行こうと思うんだけど、一緒に来ない?」
「悪い。今日は別のパーティと約束があるんだ」
「じゃあ、明日は?」
「明日ならいいぞ。魔法使いのミーナも誘っておくよ」
翌日、酒場に行く。
すると、本当に二人が待っている。
「おお、来たか! 準備はできてるぞ!」
これ、面白くないだろうか。
しかも、NPCはプレイヤーが操作していないときにも、ゲーム内で勝手に行動している。
モンスターを倒したり、宝箱を見つけたり、武器を買ったり。
NPC同士でパーティを組むことだってある。
そして、久しぶりに会ったら、
「この前、南の洞窟で珍しい剣を見つけたんだ」
なんて話をしてくれる。
もちろん、その剣は本当に持っている。
単なる会話の設定ではなく、実際にゲーム内で起きた出来事なのだ。
プレイヤーが遊んでいる時間だけ、NPCも遊ぶ
ただし、一つ問題がある。
NPCが24時間勝手に冒険していたら、プレイヤーが寝ている間にもどんどんレベルが上がってしまう。
久しぶりにゲームを起動したら、自分はレベル10なのに、仲間たちはレベル80。
これでは困る。(笑)
だったら、簡単だ。
プレイヤーがゲームをしている時間だけ、NPCも同時にゲームをプレイすればいい。
プレイヤーが10時間遊んだら、NPCたちも10時間活動する。
もちろん、全員が同じレベルになるわけではない。
戦士はひたすらモンスターを倒してレベル15。
魔法使いは魔法の研究をしていてレベル12。
商人は冒険せずに商売をして大金持ち。
僧侶は別のパーティに参加してレベル17。
それぞれの行動によって成長が違う。
しかし、活動時間は基本的に同じなので、プレイヤーだけが極端に取り残されることは少なくなる。
そして、ここが重要なのだが、オンラインである必要すらない。
ゲーム機の中でAIがNPCの行動を決め、ゲームのシステムがその行動を処理する。
プレイヤーがゲームを終了すれば、NPCたちの活動も止まる。
次に起動すれば、また一緒に世界が動き出す。
これなら、オフラインでも実現できる。
NPCから冒険に誘われる
さらに面白いのは、NPCの方からプレイヤーを誘ってくることだ。
「おい、今から北の塔に行かないか?」
「いや、今日は武器を買いに行くから」
「そうか。じゃあ俺たちだけで行ってくる」
そして、本当に行ってしまう。
プレイヤーが武器屋で買い物をしている間に、NPCたちは北の塔で戦っている。
しばらくすると、一人だけ戻ってくる。
「大変だ! 戦士のガルドが倒れた! 助けに来てくれ!」
えええええ!
なんで勝手に行って、勝手にピンチになってるんだよ!(笑)
でも、助けに行く。
だって、仲間だから。
これまでのRPGでは、こういうイベントは基本的にシナリオライターが用意していた。
しかし、AIが自律的に行動する世界では、NPCの判断とゲーム内の出来事が組み合わさって、こういう展開が自然に発生する可能性がある。
もちろん、AIが勝手に何でもできるわけではない。
移動や戦闘、アイテムの取得などは、ゲームのルールに従って処理する必要がある。
だが、そのルールの中で何をするかをNPC自身が判断する。
それだけで、ゲームの世界は大きく変わる。
そもそも、これはゲームなのか?
ここまで考えて、少し疑問が湧いてきた。
これ、ゲームなのだろうか?
もちろん、モンスターと戦ったり、レベルを上げたり、魔王を倒したりするのだから、ゲームには違いない。
しかし、プレイヤーが何もしなくても、NPCたちは勝手に冒険している。
プレイヤーは、その世界にいる一人の冒険者にすぎない。
例えば、魔王を倒すために頑張っていたのに、別のNPCパーティが先に魔王を倒してしまう。
「魔王を倒しに行くぞ!」
「え? 魔王なら昨日倒されたよ」
「誰に?」
「隣町の冒険者たちに」
「俺のゲームなのに!?」
こんなことまで起きるかもしれない。(笑)
もっとも、実際にそういうゲームを作るなら、重要なイベントをNPCにどこまで任せるかは開発者が決める必要があるだろう。
それでも、プレイヤーだけが世界の中心である必要はなくなる。
ゲームの進化は、グラフィックだけではない
ゲーム機が新しくなるたびに、グラフィックは綺麗になってきた。
光の反射がリアルになり、髪の毛が自然に揺れ、遠くの景色まで細かく描かれる。
もちろん、それも技術の進歩だ。
しかし、私は、これからのゲームの進化は別の方向にもあると思う。
画面の中の村人が、自分のことを覚えている。
以前、一緒に冒険した仲間が、別の場所で新しい経験を積んでいる。
久しぶりに会えば、共通の思い出を話してくれる。
そして、こちらが誘えば一緒に冒険し、都合が悪ければ断られる。
時には、向こうから誘ってくる。
そんなゲームができたら、どうだろう。
しかも、これは必ずしも超高性能なAIを必要とする話ではない。
すべてのNPCに常時高度な推論をさせる必要はなく、普段の移動や戦闘は従来のゲームシステムで処理し、会話や重要な判断にAIを使えばいい。
AIの軽量化も、今後さらに進むだろう。
もちろん、記憶の管理や処理速度、ゲームバランスなど、解決すべき課題はたくさんある。
それでも、今回のPS5での実験は、家庭用ゲーム機でローカルAIを動かす可能性を示している。
そして、もしこんなRPGが実現したら……。
私はたぶん、魔王を倒しに行かない。
アリアハンの酒場で仲間と雑談して、たまに一緒に冒険して、また酒場に戻ってくる。
そんな生活を延々と続けてしまいそうだ。
ゲームの中に、もう一つの生活ができる。
そんな時代が来るのかもしれない。
いやあ、これは楽しみだ。(笑)




