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転生者は斧を極めます  作者: アーマナイト


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4-18 死花兵、藤骨兵、桜霊兵

 周囲の不気味な赤い彼岸花を踏みつぶしながら私は慎重に動き、相手をしている頭が彼岸花で土気色の肌をした死花兵の動きを観察する。


 前世のゲームのモンスターのように死花兵の動きが単調であるなら、こちらの対処も単調になるか?


 答えは、状況によるだろう。


 現状の私は神経をすり減らしている。


 死花兵が一体なら、対処は容易だ。


 けど、複数が同時に襲ってきたら?


 死花兵のベルセルク以上の力とウールヴヘジンの以上の速さは、動きが単調でも数が増えると脅威だ。


 味方と敵の位置と状況の把握と、展開の予測と自分の行動の選択で、頭のなかのリソースは限界。


 しかも、時間経過で状況は悪化している。


 何故か?


 死花兵を倒すと、すぐに次の死花兵が地面から飛び出してくる。


 というか、倒すより死花兵が追加される速度の方がわずかに上回っているようなのだ。


 死花兵は、アンデッドであり植物でもあり伐採スキルが通用するから、まだなんとなっている。


 私が死花兵を一体倒す間に、ハイラムは二体倒す。


 エルフのハルルフェントのホーリートレントの枝と聖銀で作った矢も効果的に死花兵を仕留め、ハルルフェントを狙う死花兵は獣人のチャルネトがダークトレントの杖で守る。


 しばらく見ない間に、チャルネトもかなり強くなっていて、一対一で死花兵を倒せるだけの実力になっていた。


 二十体の死花兵を倒しても、死花兵が追加されるペースは減らない。


 戦い続けて、いくつかわかったことがある。


 事前にハイラムから教えてもらった通り死霊樹には直接的な攻撃手段がない。


 死花兵を地面から呼び出して戦わせるだけ。


 まあ、派手じゃないけど、攻略するのは容易じゃない。


 なにしろ、まだ、こちらは死霊樹に一撃も直接叩き込めていないのだ。


 それでも死霊樹がトレントやバロメッツとは方向性の違う強力な魔物なのは間違いない。


 もっとも、手詰まりというわけでもない。


 伐採と斧スキルが植物系の魔物に強い影響なのか、死花兵の動きが段々とより理解できてきたような気がするのだ。


 剣と槍で武装した死花兵の位置と間合い、味方の位置と状態を確認して、先の展開を予測して、予測して、予測する。


 予測したタイミングにズレないように深紫色に赤い毛細血管の模様のある破魔鋼の大斧を振るう。


 複数から同時に攻撃されないように位置を調整しながら、最小の動きで回避すると同時に攻撃して死花兵を倒していく。


 死霊樹が死花兵を呼び出す速度を、私たちの死花兵を倒す速度が徐々に上回る。


 死霊樹もアンデッドで植物系の魔物だから、斧との相性がいい。


 ハイラムの攻撃でも死霊樹にダメージは入るけど、死霊樹への攻撃は私が担当したほうが良いだろう。


 死霊樹へのルートが開かれ、一直線に私は駆け出し、斧と伐採スキルを起動して破魔鋼の大斧を振るった。


 破魔鋼の大斧に切られた傷口から死霊樹は赤黒い不気味な粘度の高いドロッとした液体を噴き出し、斧を謎の液体が押し返す。


 手ごたえとして、魔樫よりは硬いけど、トレントよりはかなり伐採しやすいように感じる。


「キィイイイイィィィーーーー!」


 死霊樹が悲鳴を上げるように音をたてる。


 女性の魂からの悲鳴と、不快になるようにアレンジしたサイレンを混ぜたような音だ。


 不気味だし、聞いていると心がどうにも落ち着かない。


 ハイラムの事前の説明だと、死霊樹から噴き出す赤黒い液体は触れても、状態異常やダメージにはならないそうだ。


 とはいえ、不気味なので積極的に触れたいとは思わない。


 さらに追撃をしようとしたら、地面から飛び出した槍に後退を強制される。


 槍を地面から突き出したのは、死花兵じゃなかった。


 槍を装備した二メートルくらいの大きさの骸骨。


 異様だ。


 一目見ただけで私の生理的な嫌悪感を刺激してくる。


 これが、槍を装備しただけの黒い骨の二メートルのスケルトンなら、こうはならないだろう。


 目の前の魔物は、胴体に黒い蔓がぐるぐると巻き付いて骨が見えず、四肢にも胴体ほどじゃないけど蔓が巻き付いていて、なぜか頭蓋骨が二つあり両目の部分からそれぞれ藤の花が咲いているのだ。


 藤棚になっているスケルトンという見た目だけど、気持ち悪い。


 どうにも、生を、人を冒涜されているような気分になってしまう。


 この魔物のことは、ハイラムから事前に聞いている。


 名前は藤骨兵。


 死花兵より少し強いらしい。


 確かに、藤骨兵はリーチが長くて、攻撃の速度は死花兵以上。


「クソ! 切れないか」


 藤骨兵の黒い蔓に覆われた胴体に破魔鋼の大斧を叩き込むけど、刃がまったく通じない。


 ハイラムの説明によれば、藤骨兵の黒い蔓は斬撃と刺突無効。


 斧が武器の私と藤骨兵の相性は最悪だ。


 私が一人だったら勝ち目はない。


 ……まあ、負けることもないけど。


 藤骨兵の攻撃は速いけど、対処できないほどじゃない。


 とはいえ、斧で倒せない藤骨兵も、次々に追加の援軍が地面から死霊樹によって呼び出される。


 藤骨兵の槍を避けて、藤の花を眼窩から咲かせた二つの黒い頭蓋骨に、破魔鋼の大斧をぶつけた。


 藤骨兵の二つの頭蓋骨が簡単に砕けて動きが一瞬止まるけど、一秒後には頭蓋骨が再生して何事もなかったように攻撃してくる。


 藤骨兵を倒すには黒い蔓で覆われた胴体のなかにあるコアを破壊しないとけいないけど、こちらの通常攻撃だと藤骨兵の蔓を破壊できない。


「焼く!」


 ハルルフェントが弓で、火の精霊の力を付与した矢を放ち藤骨兵を焼く。


 藤骨兵の胴体などを覆っていた黒い蔓が、油を染み込ませたロープであるかのように一瞬で燃え落ちて崩れる。


 藤骨兵の肋骨のなかに浮かぶコアである闇い色に輝く球体が見えた。


「ファイス!」


 ハルルフェントの声に、合わせるように私は踏み出して、即座に破魔鋼の大斧を振るい、藤骨兵の胴に浮かぶ闇色のコアを両断した。


「ゴァワアァァァ!」


 獣の唸り声のような低く野太い悲鳴を上げて藤骨兵が崩れた。


「キモい、キモい、キモイ!」


 ハルルフェントが青い顔をしてブツブツとつぶやきながら、火属性の精霊の力が付与された矢を次々に放つ。


 視線を近くのチャルネトに向けたら渋い顔をしている。


 二人ともうっすらと涙を浮かべているように見えるのは、気のせいだろうか?


 どうやら、頭が彼岸花の死花兵や頭蓋骨の眼窩から藤の花が咲いている藤骨兵は、彼女たちにとって他のアンデッドの魔物よりも生理的に無理なようだ。


 まあ、そこには私も同意する。


 花の混じったアンデッドがここまで生理的な嫌悪感を刺激するとは思わなかった。


 それはともかく、藤骨兵の斬撃と刺突が無効の蔓は厄介だけど、ハルルフェントの援護があるなら、対処は可能だろう。


 しかし、物理攻撃に強くて火に弱い藤の蔓。


 まるで、三国志演義に出てくる藤甲兵のようだ。


 名前も似てるし、関連しているのだろうか?


 けど、関連しているなら、その理由は?


 エンドレスインフィニットクロニクルというゲームの制作者には三国志演義の知識があり、この世界の神々とも関連がある?


 あるいは、シミュレーション仮説のように、ここは高度なコンピューターがしているシミュレーションに過ぎない?


 ……ダメだ、思考が飛躍しすぎている。


 それに、今は考えても答えは出ないだろう。


 自分の足元の地面に違和感を感じて後ろに飛びのくと、槍を突き出すように藤骨兵が出現した。


 死花兵の出現する数が半減した代わりに、藤骨兵の出現する数が増えている。


 藤骨兵は蔓を燃やせれば簡単に倒せるけど、燃やせるのは私たちのなかだとハルルフェントだけ。


 厄介だと舌打ちしそうになったけど、藤骨兵の黒い蔓に覆われた胴に、真横から振るった破魔鋼の大斧を叩きつけたら、藤骨兵が簡単に吹き飛んだ。


「……軽い?」


 黒い蔓で覆われた藤骨兵の胴を切断することはできないけど、藤骨兵は体重が軽いから破魔鋼の大斧の攻撃の衝撃で簡単に吹き飛んだ。


 頭が彼岸花の死花兵より面倒かと思ったけど、切れなくても衝撃を殺されないならやりようはある。


 立ち塞がる藤骨兵を破魔鋼の大斧で吹き飛ばし、別の藤骨兵や死花兵にぶつけて妨害したりと戦術の幅が広がった。


 とはいえ、死花兵や藤骨兵がベルセルクより強いのは事実で、ザコというほど弱いわけじゃない。


 あくまでも、なんとか天秤をこちらに傾けて優勢に進めているだけだ。


「キィイイイイィィィーーーー!」


 なんとか、死霊樹の幹に破魔鋼の大斧を叩きつけると、赤黒いドロっとした液体を吹き出す。


 死霊樹はトレントのように回復しないからありがたい。


 ハイラムによれば、この死霊樹にも回復能力もあるらしいけど、そこまで強力な回復効果じゃないようだ。


 次の瞬間、嫌な気配を感じて後方に大きく飛ぶ。


 すると、さっきまで、私がいた空間を上から伸びていた黒い魔力の光が襲った。


 魔法防御力高いダークバロメッツの毛皮のマントを装備していても、あの黒い魔力の直撃を受けたら大ダメージは避けられない。


 ……それはいい。


 ただの魔力による攻撃だ。


 それよりも、問題なのは黒い魔力の攻撃をしてきた奴のほうだろう。


 …………それを、視界におさめた瞬間に、心の奥から全力で叫んで、嘔吐してしまいたかった。


 見ているだけで、ジワリジワリと気持ち悪くなり、吐き気が強くなる。


 ハイラムから、この魔物の名前と形状は事前に聞いていた。


 奇怪な形状の魔物なのだと覚悟していたけど、実物はそんな生易しいものじゃない。


 生命への冒涜を狂った芸術家が探究して形にしたようで、一秒でも直視したくない。


 この魔物の名は桜霊兵。


 宙に浮かぶ一メートルほどの球体で、その球体は心臓や腸を適当につなぎ合わせたような脈うつ臓物で構成されていて、ところどころに人の顔がある。


 臓物の球体に浮かぶその顔の口は必ず眼球や心臓を咥えていて、目がある場所から死霊樹のように枝が伸びて桜が咲いている。


「アッバガアアアァァァーーー」


 しかも、桜霊兵は脈絡もなく、魂を圧迫するような不快で気持ち悪い叫び声を上げるのだ。


 しかも、桜霊兵は物凄く臓物臭い。


 この花園のエリアの利点だった、花の匂いが桜霊兵の悪臭で汚染される。


 桜霊兵を直視したハルルフェントが、その場で膝をついて嘔吐してしまう。


「チャルネト!」


 ハイラムの言葉に、チャルネトが素早く反応してハルルフェントをカバーする。


 その間、私とハイラムが奮戦してなんとか戦線を支えた。


 ハルルフェントの気持ちはよくわかる。


 私も状況が許すなら、色々と感情とか胃の内容物とかぶちまけたい。


 さらにいうなら、ハイラムに気晴らしでこんな場所を指定するなといいたくなるけど、無意味な繰り言なので沈黙する。


 まあ、ハイラムとしても、鬱屈した思いから解放されるために、倒したことのない死霊樹を倒してみたかったのかもしれない。


 フラフラで青い顔のハルルフェントに、桜霊兵が宙に漂いながら、黒い闇属性の魔力の光線を放つ。


 間髪入れずに、私はハルルフェントの前に立ち破魔鋼の大斧で、闇属性の魔力の光線を迎撃する。


 それなりの衝撃と魔力を食らう痛みが流れ込んできたけど、無視して桜霊兵に向かって跳躍した。


 ハイラムの説明によれば桜霊兵はかなり厄介な魔物だ。


 桜霊兵は実体のない魔物だから、純粋な物理攻撃は無効。


 魔法や私やハイラムのような魔力に干渉できる武器ならダメージは与えられるけど、かなりダメージが通りにくい。


 植物系の魔物でもあるアンデッドの桜霊兵を倒すには、伐採スキルが必須だとハイラムに説明された。


 だから、ハイラムはいままで桜霊兵を倒したことがなく、死霊樹も倒せていないらしい。


 そもそも、伐採スキルはほぼ木こり専用のスキルだ。


 けど、桜霊兵クラスの魔物と戦えるジョブが木こりの者はかなり珍しいだろう。


 実際、私よりも高レベルの木こりに出会ったことはない。


 桜霊兵はダメージが通りにくいこと以外、動きが速いわけでもないので私にとっては死花兵や藤骨兵よりも戦いやすいといえる。


 伐採スキルが桜霊兵の狙うべき場所をなんとなく教えてくれた。


 表面に、無数に浮かんだ顔のなかの一つが口に咥えた心臓。


 狙いたがわず桜霊兵の心臓を両断すると崩れて消えて、死霊樹までの障害がなくなる。


 着地と同時に踏み込み、死霊樹に破魔鋼の大斧を強撃で振るう。


 でも、死霊樹を倒しきれない。


 死霊樹のわずかに残った幹が倒れることを拒む。


 地面から複数の槍を突き出した死花兵が飛び出してきて、私は後退を強制される。


 次の瞬間、


「キィイイイイィィィーーーー!」


 悍ましい悲鳴を上げて死霊樹が消える。


 死花兵、藤骨兵、桜霊兵も同時に魔力の粒子となって消えていく。


 後には、青い大剣を突き出した白銀の騎士のようなハイラムだけ。


 ハイラムはタイミングよく死霊樹の隙をついて止めを刺したらしい。


 伐採スキルなしのハイラムの攻撃で倒せたということは、死霊樹は本当にギリギリだったようだ。


 美味しいところをハイラムに奪われたという思いが皆無じゃないけど、それ以上に安堵している。


 吐くほど追いつめられてるハルルフェントのことを考えれば、死霊樹とこれ以上戦わなくていいのは喜ばしい。

次回の投稿は5月22日金曜日1時を予定しています。

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