46 双子で転生したけど、今は幸せです
「怒濤にも程がある…」
王子の宣言通りプレゼントされてしまった家…というよりちょっとしたお屋敷と言える場所。そのバルコニーにて、杏は走馬灯の様に今までを振り返っていた。色々ありすぎて知恵熱が出そうになった頭を、夜風が心地よく冷やしてくれる。
決戦のあの日からの日々は文字通り怒濤だった。
国民に向けての表だった魔王討伐の戦後処理、裏では重鎮達が納得できるだけの資料作り。それと平行して24時間監視体制をしけるように結婚の準備。それぞれの家に挨拶に行けば、ディガルドはロリコンだったのかと家族に驚かれた。杏の家族は特に弟妹が「おうじさまじゃないー」と大騒ぎ。話せばどちらの家族も快く受け入れてくれたけれど。ちなみにディガルドはロリコン疑惑に肩を落としていたが、強さに憧れる弟からの「かっこいい!」の一言でなんとか浮上してくれた。
「ここにいたのか。冷えてしまうぞ」
「ディガルドさん」
今は、一応婚約中という体裁をとっている。これはディガルドから提案された。
曰く「人生で一番輝かしい時期を、自分との結婚で束縛したくない」とのこと。そのためには牢に入るのも辞さない。むしろそちらの方が自然だとまで言い切った。大変優しい提案ではあるものの、即座に却下したけれど。色々話し合った結果、現在の婚約という形で落ち着いた。他に好きな人ができたらいつでも破棄していい、と言われている。杏個人としては「その可能性は皆無」であるが、同時に大変萌えていたり。
(だって年齢差を気にして「いつでも手を離していいからな」なんて言うオジサンまじで好みドストライクなんですものー!!)
こちらの世界に馴染んで数年間は眠っていたおじさま萌えが炸裂している。
少なくとも、杏からはディガルドの手を離すつもりは毛頭ない。
「なんというか…本当にすまないな」
「謝られる理由がないので却下です」
「…相変わらずだ。君は。
俺は君の人生を束縛する重りでしかないと言うのに」
「まーだそんなこと言ってるんですか?」
若い少女を縛り付けてしまった罪悪感で悩むオジサン。大変好みです。が、そろそろもう少し自信を持って欲しいところだ。杏はもう腹をくくってしまっているのだから。
「重りだというのなら、船の碇だと思っておきます。私はよくあっちこっちフラフラするので帰る場所になって下さい。
それでも罪悪感が拭えないのなら、私にふさわしい旦那様になって下さい。
折角手が治ったんですから一緒に害獣とか魔物退治の旅にいくのもいいですねぇ」
ディガルドの左手は、完治した。魔物を浄化したときにパワーアップした野生の獣になったのと同じ事が起こったのだと思う。ぶっちゃけ杏は決戦時それを狙っていた。ついでに死なないように治癒魔法もかけて。それがどう作用したのかはまだ研究中である。悪用されないことを祈るばかりだ。
だが、結果として現在ディガルドは以前よりも更にうまく剣を扱えるようになっている。もし小細工なしの真剣勝負をしたら絶対に杏が負けるだろう。パラメータで言えばカンストぶち破ったチートな数値だ。そんな勝負が起きないように、ディガルドはいくつか呪いをかけられていた。それについてはもうしょうがないと双方納得している。
「君は前向きだな」
「前向きさと努力と根性が取り柄ですから。
まぁそれもラナがいてくれたからですけれど」
「彼女とは良いコンビなのだな」
「あら、ディガルドさんは私と良いコンビになってくれないんですか?」
「未熟だが、そうなれるよう努力しよう」
「まぁコンビの前に夫婦なんですが。あ、まだ婚約者か」
「す…」
「すまない、とか言わないで貰えます?
もーどうしたもんかなぁ…」
この負い目はたぶん一生消えないだろう。ディガルドさんはそういう性格だ。とはいえ、負い目を持ったままというのも少々気まずい。
「まぁ、先は長いのでゆっくり頑張りましょうか」
幸いなことに、もうあのゲームの展開を迎えることはないだろう。杏も蘭も、国内では不動の地位についてしまった。この二人を敵に回すと国ごと潰れるという噂付で。嬉々としてそんな噂を流す王子の姿が目に浮かぶようだ。
だから、もう双子に締め切りはない。あのゲームとは違うエンディングを迎えたのだ。追いかけられるような悲壮感もない。あるのは、死ぬまでこの世界を目一杯楽しむという目標ぐらいだ。
「君は本当に良いのか?」
「あら、ディガルドさんは何度も乙女からの告白を受けたい人だったんですか?
私割と言葉にも態度にも出すようにしてるんだけどなぁ…」
「い、いや。それはほどほどにしてくれ。疑っているわけではない」
吹っ切れた杏は、ディガルドの罪悪感払拭も兼ねてと今までの後悔を踏まえて、言葉でも態度でもディガルドへの思いを隠さないように努力している。多少羞恥心はあるものの、照れるディガルドを見ることが出来るのでなかなか楽しい。
「良かった。疑われてたらもっと色々頑張らないといけないところでしたね」
「ほどほどに。本当にほどほどにしてくれ。特に人前は」
「ふふ、謝る度に過激にしていくのも楽しそうではありますが…。
でもそうですね。罪悪感が消えないなら、とりあえずディガルドさん、王家の監視がつかないよう功績作りませんか?」
「ん? どういう意味だ?」
「ディガルドさんの罪悪感のうちの一つって、魔王になったってことですよね。そうは扱われてないけどディガルドさんの心の中では「自分は犯罪者だ」って負い目がある。
じゃあ国に「もういいよ」って認めて貰えばいいんじゃないかしら? で、そのわかりやすい目標が、王家からの監視が解除される状況かなーと」
「それは…そうだな」
「国にとって、なくてはならない実力者になれば流石に監視も減るんじゃないかしら? まぁ重鎮として護衛はあるかもですけどね」
少しだけディガルドの表情が明るくなる。
罪悪感を払拭する具体的なビジョンが見えてきたからだろう。
未来の旦那様がそういったことをご所望なら、頑張ってプランニングをするのが妻の役目というもの。まだ結婚してないけれど。あと、杏自身はそういったプランニングはからっきしなので、結局蘭の知恵を借りることになることも間違いない。
「では、君が卒業するまでにその資格を得られるよう努力する」
「えっ! それ結構期間短くないですか?」
もうすぐ杏は二年生になる。丸二年というのは長いようで短い。
「君は自由にしている方が似合う。そう常々思っていた。
だからこそ、自分が縛り付けている状況が情けなくてな。
卒業までという期間は確かに短いが、その分やりがいもあるというもの」
「ふふ。嬉しいです。ありがとうございます。
じゃあ卒業したら国内外旅行とか出来ますね。新婚旅行だ!」
「…出来るかどうかはわからんがな」
「今から弱気ですか?」
「いや、卒業までに国一番の騎士にはなってみせよう。
だがそうではなく…君が長期旅行に行くとなるとその…ラナ嬢が黙っていないのでは?」
「……確かに!」
蘭は現在、早期引退を目標に様々なことを画策中である。というのも、陛下がさっさと楽隠居を決め込もうとアルフォンス王子と蘭が結婚次第王位を継がせようとしているのだ。若くて見目の良い二人なら民衆受けも良いだろう、とかそういう理由で。
アルフォンス王子ともども断固拒否しているが、卒業後即位は逃げられなさそうというのは周囲の見解だ。だからこそ、今から蘭は様々な手を打っているのである。
それに巻き込まれないわけがない。万一巻き込まれないとしても、忙しい時期にウキウキハッピーな雰囲気がテレパシーに乗って感じられればいい気はしないだろう。
「まぁラナにはいっぱい恩もあるし、そこは仕方ないかぁ」
「俺もアルフォンス王子とラナ嬢には多大な恩がある。協力を求められた場合は応じたい」
やれること、やることはまだまだたくさんある。
けれど、今後はディガルドをパートナーとして様々な困難に立ち向かっていけるだろう。
「ねぇディガルドさん。
私だいぶ幸せですよ。でも、私欲張りなので、これからもっと二人で幸せになりましょうね」
双子で乙女ゲームの世界の悪役令嬢とヒロインとして転生したけど、私はとっても幸せです。
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