七月九日前編
令和70日目!
七月九日。
初めての添い寝リフレから一週間後。
その日二度目の帰宅。
ソファ席で、ラブレターを書く。
自分自身に誓う、そんな言葉をならべる。
そして、カウンター席に移る。
なんだか浮かない顔をしている婚約者。
何かあった?
探りを入れる前に、ちょっと聞いてみる。
「何食べたい?」
ティラミスは、昨日の時点で全部完食。
「まさおさまは、何食べたいですか?」
そう聞かれても、特にない。
メニューをめくる。
アレコレ話すが、決まらない。
なので、先に、さっき書いてた手紙を渡す。
「えっ、あっ、わぁ、良いんですか?
ありがとうございます」
喜んでもらえて何より。
「で、どしたん?」
最初は、言いよどんでいた。
だが、思っている事を吐き出してくれる。
「えっ、あ、いや、私って人気ないのかなって。
雪見ちゃんのイベントで、シャンパンあけるって、
そんな事さっき話したり聞いてたりして。
いつか、特別な日に、
まさおさまに、
シャンパンあけてもらいたいなぁなんて…」
雪見姫のイベントは、七月二十七日。
まだ、しばらく先だ。
シャンパンは、通常メニューに無かった。
今まで、秘密基地で見た事が、無いメニュー。
秘密のメニュー?
アルコールを飲まないように言われている。
飲んだら報告する、という事を、伝えてある。
目の前の彼女に。
「どれ?」
「あっ、ちょっと待って下さい」
そう言って、向こうに行き戻ってくる。
A4サイズのポップメニューを持ってきてくれる。
『芳醇なノンアルコールシャンパン』
『ポールジロー』
『プレミアムスパークリングジュース2018』
「あっ、コレ私が、書いたんですよ。
まだ、飲んだ事、無いんですけど」
上から下まで見る。
9行ほどだ。
『限定!二年ぶりの待望入荷!!!』
『売り切れ必至』
『〜年に一度のスパークリング〜』
『スパークリンググレープジュース』
などの言葉が、書かれていた。
「いつから?」
「去年ですね。
まだ、ここに入りたての時に書きました。
ヒトミシリしてた時です」
「なるほど、じゃぁ、コレ」
「えっ?????
いや、今日は、別に特別な日じゃ無いですよ?
ちょ、大丈夫ですか?
ノンアルコールだから大丈夫ですけど、えっ?」
ワタワタする彼女。
「えっ、ちょっと、良いんですか?本当に?」
キョドキョドし始める。
「アレ?ちょっと待って、あるのかな?」
在庫の確認を、始める。
「あった!アレ?これで最後の一本?」
そう言って大事そうに、ボトルを見せてくれる。
それを見て頷いて笑いかける。
「えっ本当に良いんですか?
大丈夫ですか?」
頷く。
バケツみたいなのを探すが、見つからないらしい。
ジュースなので、グラスに氷を入れてくれる。
お互いに、初めてのシャンパンデビュー。
感極まる。
デルタちゃんとつくもちゃんにも祝杯してもらう。
彼女に愛してる事を伝え、愛する事を伝えた。
「ツイッターに載せてもいいですか?」
シャンパンを注文してもらった出来事の報告。
それをツイッターで、皆んなに知ってもらいたい。
そう言った事を言われる。
ツイッターで、つぶやいてくれるのは、嬉しい。
こちらとしては、嬉しい限り、だが、どうだろう。
「刺されるかもしれない」
「えーそんな刺されたりしないですよ。
私が、まさおさまを守りますよ」
嬉しい事を言ってくれる。
まぁ、刺されたりする可能性は、低いと思う。
もっと別の事を、色々考えてしまう。
シャンパンの注文は、初めての経験。
悪魔は、もちろん、奥方様にも無い。
いろは王女にさえしていない。
アルコールを普段飲んで無かった。
だから、誰も勧めてこなかった。
だから、今まで注文していなかった。
誰かが、注文してるのは、最近も見た事がある。
アイドルミーツやルイーズベルナードの厨房で。
他のコンカフェでも見させてもらった。
大抵は、イベントの時だ。
店内中に、報告されたりして、盛り上がる。
祝杯が、あげられる。
空気が、変わる。
盛り上がる一角を暗い目で見る者達が、いる。
そういった者達には、営業がかけられる。
そして、注文すれば、彼らが、もてはやされる。
酒を飲む習慣が、今は、もう無い。