七月九日後編
気づけば、右手が、彼女の左手に添えられていた。
いつのまにか、触れ合い、握りしめた。
離すことが出来ず、そのまま。
離したくない、という思い。
初めてのシャンパンで、テンパっている。
彼女は、気づいているのか、いないのか?
笑顔だ。
愛しい。
愛する秘密の婚約者。
惚れた女のために死ぬのは、男の本望。
彼女のために、死ねるし、生きる存在。
約束は、交わした。
背後で、物音が、した。
手を引っ込める。
誰かが、後ろを通る。
見られた?
見られてないかもしれない。
こちらは、見られても特に問題は、無い。
何も問題無い事も無いが、大した問題でも無い。
問題なのは、彼女の立場。
さて、どうする。
多分、今が、幸せの絶頂。
この恋におけるクライマックス。
彼女に、全てを捧げる事を宣言した。
それから、全力全開で、恋をして愛した。
正気を保ち、狂気の恋愛道を、堕ち続けた。
同時に魔導の法を、積み上げていった。
好きと愛を日々積み重ねていった。
充実したシアワセな毎日。
楽しくて嬉しくてシアワセな至福時間。
出逢えて良かった。
大切な想い出。
過ぎ去った時間は、二度と戻らない。
繰り返しの日々なんてものは、この世に無い。
昨日と今日は、どんなに似ていても別物。
もう限界だったのか?
既に限界突破していたのか?
好きで好きでたまらない感情。
愛して愛してやまない感情。
愛する秘密の婚約者への想い。
始まりが、あれば、終わりが、ある。
恋は、燃え始め、やがて、冷める。
永遠に燃え続ける恋は、無い。
恋は、猛烈な活力。
やがて、それは、愛に。
質量保存の法則や熱量保存の法則は、真理。
盛者必衰の理。
等価交換。
不変で普遍の原理原則。
当然、それらは、恋にもあてはまる。
それだけの事。
LINE交換を、彼女に持ちかけた。
表情が、強張る。
概念社会において、それは、禁忌。
プライベートに踏み込む事は、禁則事項。
絶対にしては、ならない行為。
もしもそういう事が、あれば上の者に報告。
そうするよう義務付けられているはずだった。
念のため、携帯電話の番号も紙に書いて置く。
綺麗だ。
可愛い。
素敵だ。
『愛してる』
見送る彼女を目に焼き付ける。
この次に帰ってくるのは、木曜日。
明後日の十一日。
その日が、彼女の次回給仕日。
令和になって、彼女の全給仕日に帰宅している。
平成終わりごろからの絶対習慣。
「木曜日、仕事が、終わったら帰ってくる」
「待ってます、今日は、ありがとうございました」
初めてのシャンパンのお礼なども言われる。
手を振って出発した。
次に逢う日を約束するのは、これで最後。
そうなるのは、間違いなかった。




