七月十一日
仕事を、終えて、秘密屋敷に到着した。
つくもちゃんが、出迎えてくれる。
「お帰りなさい、まさおさま。
ソファ席とカウンター席、どちらにします?」
「ラヒさまに決めてもらって」
「はぁい」
そう言って奥の厨房に向かう。
そして、しばらくして戻ってくる。
「えーと、お姉様は、買い出し中でした」
言いにくそうに言う憑喪神。
彼女の後ろにある厨房へと、眼を向ける。
「奥にいるのは、えーと、わっこさんです」
にが笑いしながら、下手な嘘をつく少女。
苦笑しながら、ソファ席に座らせてもらう。
嘘をつく事は、よくない事。
だが、その原因は、男にあった。
だから、それには、触れず、烏龍茶を頼む。
先客は、二名いた。
カウンター席に離れて座っていた。
烏龍茶が、前に置かれてしばらく経った頃。
「お帰りなさいませ、じゃない、お疲れ様です」
元気な少女の声が、屋敷内を満たした。
そいつは、奥の厨房に入って行った。
そして、小窓からこちらをうかがう。
でかい身体で、身長も高く横幅も広い。
先客が、次々に、出て行って貸切状態になる。
こちらに向かってくる。
普通に大きい。
ソファ席に座っている身としては、見上げるだけ。
さすがに中腰となって話しかけてきた。
「まさおさまですね?」
それに、ゆっくり頷く。
話しは、それほど長くならなかった。
内容は、店員に対する過度な干渉は、ひかえてね。
注意の上で警告、というところだった。
特にお咎めは、無かった。
最初にツイッターDMの件を持ち出してきた。
DMの返信を、店として店員に禁止している。
だから、DMを送るのは、いい。
しかし、毎日送るのは、どうか。
送りすぎでは、ないか?
そんな事を言ってきた。
それに対しツイッターのDM画面を見せた。
《今後、この方にダイレクトメッセージを送ることは、できません。詳細は、こちら。》
「あなたが、したのでは、ないのですか?」
そう聞いてみた。
「いや、コンピュータ関係には、うとくて」
そう言って弁解じみた事を言い始めた。
そして話しを変え、社会の常識とやらについて。
矛先をこちらへ向けようとしてきた。
長くなるのも面倒なので一言だけ言う。
「ここで、連絡先交換など二度とない」
そう断言する。
それに納得するしか無かったようだった。
だいたい、これで話しは、終わりになる。
最後に聞いてみた。
「………さんの夢は?」
「夢?夢ですか?夢は、死なないこと」
「不老不死が、のぞみですか?」
俄然興味を持った。
死なないこと!
なかなか素晴らしい夢だ。
何しろ夢が、ある。
面白くなってきたでは、ないか。
そんな事を考えた。
しかし、すぐに幻滅させられた。
「いや、死なないというのは、事故とかで。
つまり、天寿をまっとうする事でしょうか」
喜びや嬉しさは、消え去った。
「テンジュヲマットウ…」
すっかり興味を失って、目の前の生物を見た。
普通の人間、だった。
他に話す事も無かった。
体の大きい哺乳人間は、厨房に戻っていった。
そして、屋敷から出て行く。
「お疲れ様でした」
つくもちゃんが、そう元気に言う気配。
それに合わせて同じ様に呟く。
(お疲れ様でした)
あの人間に対して、何か言うべきだった?
人の夢に対して、何を言えば良かった?
儚い夢について、色々考える。
ご愁傷様、と言うのもどうか、と、思う。
間違っては、いない、が、どうだろう。
早く叶えば良いですね、も、違う気がする。
安らかにお眠り下さい、これも正しいけど違う。
ご立派な夢ですね、は、馬鹿にしてる感じ?
怒らせたいなら、そう言ってみるべきか?
馬鹿にするのか、と、怒った時は?
馬や鹿に対して謝罪してみるのも良いかな。
お馬様お鹿様、申し訳ございません、と。
激怒させる必要もない。
だから、何も言わなかった。
これから、もう相手にする必要も無い。
後は、闇姫に任せればいいだけの話し。
そんな事を考えながら待った。
やはり、出てこない。
つくもちゃんと、目が合う。
首を傾げながら、よってきてくれる。
「ラヒ姫と、デカチェキ二枚」
「はい、お姉様とデカチェキ二枚ですね」
「タイトルは、『しばしの別れ』」
「しばしの別れ、伝えてきます」
何か聞きたそうな顔になりながら奥へ向かう。
程なくして戻ってくる。
「伝えました」
にこやかな笑顔で、報告してくれる。
「ありがとう」
にこやかに返す。
ティラミス姫の精神状態を、思いやる。
千千に乱れる恋心。
悩み苦しみ辛い思い。
生まれて初めての経験による動揺。
収拾が、つかない気持ちで、胸いっぱい。
何を言えばいいのか、わからない。
どんな顔をすればいいのか、わからない。
そんなところ、と、見当をつけている。
前日までにもう考えは、巡らしていた。
『最後で最初の恋愛物語』
『終わりで始まりの恋愛物語』
『オメガでアルファの恋愛物語』
恋の終わり。
彼女が、この恋に終止符を打つ。
そうしてこそ、最高にして至上の恋となる。
そして、後には、愛が、残る。
愛しか残さない。
魂の全てを注ぎ込んだこの恋。
全身全霊全智全魔を捧げたこの恋。
それを、愛へと完全に昇華させる。
その為に必要な終止符。
恋の季節は、終わりを迎える。
革命の狼煙が、天に昇り始める。
そして、世界は、変貌してゆく。
惚れた女を手に入れる事。
それは、全世界を手に入れる事と、同義。
大義名分を、手に入れ、世界を革命させる。
全ての諸問題を解決し、世界を聖福にする。
その為に、女神様を、現世に召喚する。
それは、聖書における最終局面。
旧約聖書、新約聖書、終約聖書。
三部作からなる『ひと』のお話し。
集大成となり集訳される終約聖書。
その物語のオメガでありアルファ。
『ひと』の歴史を、終わらせる。
黙示から明示されし新世紀の幕開け。
全世界を我ラが、愛で満たす!




