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空瓶  作者: 菜河
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5

 小屋に駆け出したときベッドに放り出していた瓶を拾い上げる。

 なんだ、場所を移動しても特に何も起きないんじゃない。やっぱり祖父は大袈裟に言っただけなんだ。

 それでも何だか落ち着かなくなり、最初に瓶が置いてあった扉の前に瓶を据えた。

ここだとドアを開けたらぶつかるなあ。

 そんなことを考えながら、今度こそベッドにダイブする。色々ありすぎて疲れた。頭がガンガンしている。


 そういえば、結局アルトが何者なのか確認するの忘れた。わかったのは祖父を名前で呼んで、祖父が孫である私の存在を伝える程度には仲が良かったこと。そして、二人ともクドーさんを良く見ていないと思われること。

 祖父の気持ちを優先して、クドーさんにはこのまま見せない方が良いのだろうか。それとも、もうこの際二人のことは無視して私の好きなように行動してしまおうか。


決められない。


「かおり、寝てるの?」


目を閉じて考えを巡らせているうちに、眠り込んでしまったらしい。目を開けると夕闇の中、母が私を見ていた。


「もう、布団かけないと風邪ひくわよ。日が暮れればまだ寒いんだから。あら、きれいな瓶ね」

そう言って電気のスイッチを入れる。急に部屋が明るくなって、目をしばたいた。眩しい。

「もうすぐ夕飯出来るから、降りてきなさいね」

寝起きのボーッとした頭のままうんと頭を縦に動かした。


「あ、瓶」

母の足音が一階にたどりついたころ、ドアの前に置いていた瓶の存在を思い出した。母によって机の上に動かされたようで、瓶はベッドのすぐ横にある机の上からこちらを見下ろしている。そっと手に取りどこか割れていないか、ひびが入っていないか確認する。幸いどこにも傷はないようだ。瓶を机の上に戻し、起き上がった。


「ねえ、私の机にあった瓶のことだけど、ドアにぶつけなかったよね?」

それでも心配で、キッチンで忙しなく動き回る母に一応確認する。

「瓶?机の上の瓶にどうやったらドアがぶつかるのよ」

何を言ってるの、と呆れた声はどうやら本気で出しているらしい。

「ご飯できたよ」

重い足取りで二階に戻ろうとすると、後ろから声をかけられたけど、適当な返事を返して自室のドアを開けた。


ゴト


 固いものがドアにぶつかって、何かが倒れた音がした。びっくりして、少し開いた隙間から部屋を覗く。

 瓶がゴロゴロと足元に転がってくるところだった。さっき机の上に置いたあの瓶だった。


爪先にぶつかって止まった瓶を呆然と見つめる。

鳥肌が立ってきた。



怖い。瓶が怖いとか、自分でも意味がわからない。でも、気味が悪い。



 私が寝ぼけただけ?違う。確かに机の上に置いた。落ちるような場所に置いたつもりは全くない。

「何なのよ、もう・・・」

私はそっと瓶を拾い上げた。

 カーテンの隙間から、小屋を見下ろす。もう外は真っ暗だ。

暗闇に小屋の屋根がさらに暗く見える。小屋に灯りは置いていない筈だ。アルトは真っ暗な中閉じ込められているんだろう。

 ため息をついて、手の中にある瓶に目を落とす。蛍光灯の下でも、オレンジがきれいだ。


自問を繰り返しても、答えが降ってくるわけない。


 私はもう一度ため息をついて、窓際から離れ、瓶を持ったまま階段を下りた。

 リビングへは行かず、そのまま外に出る。家の西側へのんびり歩き、小屋にたどり着いた。

 首から下げている鍵を取りだし、さっき閉めた鍵を開けた。どうせまた手で追い払われるんでしょ。と、苦笑しつつ取っ手にかけた手に力を込めた。


キイ


扉の音が暗闇に響いた。

小屋の中は当然真っ暗だ。


と、思っていたけどそうではなかった。電気は引いてない筈なのに、どこかでランプか何かを灯しているのか、ほわりと明るい。 照明その物は見えないのに、瓶に光が反射してキラキラ光っている。


きれい


 そういえば、日のあるうちしか見たことがなかった。夜だとこうなるのか。

 後ろ手に扉を閉めて、何をしに来たのかも忘れて瓶に見入る。


「カオリ?」

遠くから声をかけられて、振り向いた。半分オレンジ色のアルトはまたもや反対側の壁際にいた。何故か驚いた顔をして、近づいてきた。


「ア・・・」

「閉めたのか?」

「は?」

説明を求めようと下のも束の間、思わぬ質問に呆けた声を上げてしまった。

「扉?うん、閉めた」

そう素直に答えると、

「あーマジか・・・」

頭をガシガシ掻きむしるアルトの顔が、驚いた顔から困り顔になっていく。

「え、何、だめだった?」

「ソルテ悪い」

彼は私の質問には答えず、後ろに呼び掛けた。


他に誰かいるの?


アルトの向こう側にいるらしい人を見ようと、体を傾ける。

「と、言うか最初に来たときに説明しておかなかった、おまえの意味がわからない」

「あーもう、悪かったって言ってんじゃねえか。こんなことになるなんて思うわけねえだろ?」

「カオリ、話すのは初めてだな。私はソルテという。担い手の一人だ」


手を差し出され、反射的に握るとアルトとは違って、優しく握り返された。

あ、なんだかこの人は話が通じそう。


「担い手?」


聞きなれない言葉を聞き返すと、ソルテは目を見開き、一歩後ろに下がっていたアルトを振り返った。


「てめー、何も話してねーな?使えねー奴だな」

「悪かったってば」


あ、やっぱりこの人も話通じないかも。て言うかこの人の方がヤバイかも。


内心ビクビクしながら二人のやり取りを眺める。

「何を、どれだけ、話せているのか言ってみやがれ」

「えーと・・・」


 ソルテはぱっと見た印象はアルトを黒くした、という感じ。だけどよく見ると、アルトのオレンジの部分がソルテは濃いあおいろだった。髪の毛、眉毛、睫毛に至るまで濃紺。

 アルトと同じく、肘の辺りと鎖骨から耳にかけて入れ墨を入れている。肌はアルトに似て浅黒い。顔も似ているけど、ソルテはアルトに比べてつり目気味。

 あと違うと言えば顔の横に垂らしている編み込みの先のビーズが4連になっていることと、


「つまりてめえ、何も話してねえって事だな」

「・・・はい」


アルトよりソルテの方が立場が上っぽいことだ。

鬼のように怒っている。この人は怒らせない方が良さそうだなあ。


「悪かったカオリ。アルトがここまでバカだとは思わなかった。こいつの作戦なんか放っておいて、はじめから私が話せば良かったな」

「え、あ、ううん大丈夫」

何だかよくわからないけど。



ひとしきりアルトを罵ると、ソルテは私の方へ向き直り、すまなそうな顔をした。

「ああ、何から話そうか」

「な?困るだろ?」

「おまえは黙れ。カオリ、とりあえずこっちに座ってくれるか」

ソルテは周りにあった瓶を入れ替えながら、三人座れるくらいのスペースを作り私に手招きした。


「動かして平気なの?私が動かしたときは祖父にすごく怒られた」

ソルテが無造作に瓶を移動しているのに気付いて、大丈夫なのかと彼を見上げる。

「ああ、法則に乗っ取っているから大丈夫だ」

彼は頷いて、さらにスペースを広げた。


「カオリ、まずはコージのこと、お悔やみ申し上げる」


胡座をかいたソルテは、両手を握り体の左右の床について、私に深々と頭を下げた。

「ありがとう・・・」

驚いてそれしか言えない私に彼は悲しそうな笑みを向ける。

あ、アルトと同じ顔してる。

「本当はコージが説明すべきなんだか、彼はもういない。悪いが私から説明させていただく」

「うん、はい。お願いします」




ありがとうございました

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