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空瓶  作者: 菜河
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処女作です。

悩みながらがんばります

 庭の片隅にある小屋の扉をノックする。扉は中途半端に開いていたけど、返事なしには中に踏み込まない。

 しばらく待つと目あての人がひょっこり顔をだした。


「やあ、かおり」

 祖父はそう言ってにっこり笑った。小屋の奥へ向かって手を広げ、どうぞと微笑む。


「また増えた?」

 足を踏み入れた小屋のなかは、3日前より狭くなった気がする。

「ん?そうかな。よく気づいたね。」

彼はいささか驚いた顔をした。

「気づくよ。そこにある青いのはこの前までなかったし、それにこれ!こんなにきれいなの見たことない!」


 私は窓のそばに置いてあった小さな瓶を手に取った。

大きさは500ミリペットボトルくらい。口のところが深い青。そのままグラデーションで緑、黄そして最後はルビーのような深い赤。


「きれい・・・」


 太陽の光に透かすと虹色の影が床に落ちる。瓶を手に持ったまま思わず見入っていると、祖父がそっと取り上げ、もとの場所に戻した。

「きまりがあるからね。そんなに長い間場所を移動できないよ」



 祖父の言動が少しおかしくなったのは、少し前。この小屋を作ると言い出した頃からだ。元々古いランプとか、いわゆるガラクタ集めが趣味の彼。そのコレクション部屋を広くない庭に作りたい と言い出したのだ。

 もちろん家族は反対。しかし祖父の部屋、6畳和室がひどい有り様だったのでそれを片付けられるならと渋々承諾した。懸命な判断だったと思う。

 なにせ祖父が寝るスペースすら危ういんじゃないかと思われるほど足の踏み場がなかった。


 母は影でゴミ屋敷ならぬゴミ部屋とか言っていた。


 祖父は小屋ができたとき、大喜びするかと思いきや悲しそうに微笑んだだけだった。

「うれしくないの?」

と、聞くと彼は

「やあ、うれしいよ。これでみんな入れる」

と答えた。


 私が外出している間に荷物を運び込んだらしく、気づいたときには彼の居室には物がなくなっていた。

 何もない祖父の部屋で立ち尽くしていると、なぜか世界に一人取り残されたかのような錯覚にみまわれる。


寂しい。


 あのガラクタで一杯の部屋が好きだった。

昔の缶詰の空缶、壊れたランプ、陶器、誰が書いたかわからない書、単なる空瓶。

祖父の部屋に入るたび、

「えー!?なにこれ!!」

とか言いながら宝探しをしたものだ。


「おじいちゃん、部屋なんにもなくなっちゃったね。」

「そうだねえ」

「小屋の中はいつお披露目?」

「見たいのかい?」

「もちろん見たい!」

「かおり、夜はやめなさい」

夕食時祖父にせがんだ私を見て、母は呆れたような顔をした。



「ではどうぞ、お嬢様」


明くる日、恭しく礼をして見せた祖父は私を小屋へ招待した。


ドキドキ鳴る心臓をおさえ、一歩踏み出す。



 小屋の中はかつての祖父の部屋とは全く違っていた。

車一台停まるかという広さの場所にところ狭しと置かれた空瓶。 小屋には作り付けの棚があって、壁も一面瓶でいっぱいだった。こんなにあの部屋にあったの…?まさか、絶対にない。それにしてもどれもきれい。


「ははは。かおり、こんなのまだ序の口だよ。ボーッとしてないでこちらにおいで」


 入口で突っ立っていた私に祖父は手招きした。あわてて祖父のいる場所まで駆け寄る。

「おじいちゃん、ランプとかはどうしたの?」

「ああ、あるよ。ここにはないけどね、欲しいという人がいたからあげたんだ。」


 どうやら本当に空瓶しかないようで、ついまわりをキョロキョロ見てしまう。

 ツボとか、カメとか呼べそうな大きい物から、ほんの小指ほどしかないような小さな物まで色々あった。色も形も多種多様で、同じ物はないようだ。ただ共通するのは、何も入っていないこと。


「何で空瓶だけなの?」

窓際の光が当たっている瓶を眺めている祖父につぶやいた。

「そう見えるかい?」

「何か入ってるのも置いてるの?宝探しみたい!探さなきゃ。私が見つけるまで言わないでね!」







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