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俺たちの創世物語-ジェネシス-Ⅱ  作者: 白米ナオ
第六章 いざ出陣!
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第六章 ②

 俺たちはとりあえず、ラナとザックの使用している部屋へ向かった。

 特に意味はないけれど、こちらの方が二人は楽だろうし。

 三つあるベッドのうち、一つに俺とセイン、一つにシュガーと彼女の膝の上にフェンリル、最後の一つにザックとラナが腰掛けた。自然とそうなってしまうのは、付き合いが長い者同士だからだろうか。


「それじゃあ気を取り直して、さっきの続きから――」

「もういいだろ! ……まぁとにかく、そんな感じで俺はリュウを信じることにしたんだ。

 別にそれ以上、深い意味はねぇよ」


 恥ずかしそうに視線を逸らすザックに、一同楽しそうな笑みを浮かべていた。

 なんだかんだでいじられ体質なのかもしれないな、この幼い少年は。


「それより、アンタらはラナと一緒に何処行ってたんだよ?」

「……私が説明します」


 その言葉を始めに、ラナは様々な出来事を振り返った。

 セインの決意、門で偉い騎士とすれ違ったこと、新たな想創や戦法の習得、ラナとシュガーの模擬戦、セインとフェンリルの模擬戦、そして俺たちと倉庫での遭遇。

 じっくり話を聞いている間に、時刻は遂に十時を回った。いつもならもうすぐ眠気を覚える時間だが、数時間前に少し眠ったのでまだ目は冴えている。

 しかしセインとラナは少し眠そうで、シュガーに至っては大きな欠伸をしていた。


「……眠いのなら、説明自体は明日でも構わないが?」


 俺の言葉に、シュガーはふるふると小さく首を振った。眠気を隠すつもりは全くないらしいが、かといってストンと寝入るつもりもないらしい。


「分かった。じゃあ、明日の作戦について説明……の前に」


 前振りを入れると、俺はラナとザックに目を向ける。

 あくまでもこの子達は子供であって、俺が無理に戦わせる権利は無い。


「ラナ、ザック。明日は確実に戦闘になると思う。君たちの方が戦闘経験は豊富かもしれないけど、巻き込まれて怪我でもしたら申し訳が立たないんだ。

 だから……一応聞いておく。明日の作戦、一緒に戦ってくれないか?」


 自分でも責任逃れの予防線を張っていることくらい、自覚しているつもりだ。

 けれど、俺は全員を守りきれる自信はあまりない。自分の体さえも守れるかと問われたら、大きく頷くことなんて出来ないだろう。

 俺の問いかけに、ラナは小さく頷き、ザックはフンと荒い鼻息を鳴らした。


「ったくよぉ。〝信じてくれ〟っつったのは何処のどいつだよ?」


 ザックは面倒くさそうな顔をしながらも、不敵な笑みで俺と視線を合わせてきた。その様子にラナは小さく笑い、それにつられてセインも微笑を浮かべている。


「そうだったな。……それじゃあ、今度こそ本格的に明日の説明だ。

 まず、俺たちはどの程度の勢力と敵対するかは分からない。正直なところ、あまりにも情報が無さ過ぎる」


 まだ話は始まったばかりなのに、いきなり難題にぶち当たってしまった。役場の女性は確か、〝王都から数人の騎士団〟とか言っていた気がするけど、数人がどの程度の規模なのかは皆目検討が付かない。

 しかし、その規模は小さく手を上げたラナによって解明される。


「……私、分かる。さっきも言ったけど、夕方にすれ違った騎士団……メルクリウス十世の率いる騎士団が、明日死刑を執行するはず」

「なっ……あの〝水星〟が相手だってのか? それはマジでヤベェだろ」


 ザックが大仰に驚き、俺とセインは小さく首を傾げる。

 メルクリウス、確か俺たちの世界では〝水星〟を意味する言葉で、同時にローマ神話の神。後にヘルメスと同一視される商業神だったはずだ。

 だとしたら……俺たちは神を相手に戦うっていうのか?

 俺が一人であれこれ考えている間にも、ラナとザックの会話は続く。


「……うん。過去最高の血を引いたメルクリウス一族の末裔、エルザ=メルクリウスが相手となると、かなり苦戦を強いられると思う。私……すれ違っただけで倒れそうになったし」

「それって……噂に聞く〝天迫(てんぱく)〟ってヤツか?

 大天使の血を引く血族が自然に纏う、不可視のプレッシャー……そこまで来るともうバケモンじゃねぇか」


 二人の会話に〝大天使〟という言葉が出てくるあたり、メルクリウス十世とはおそらく天使なのだろう。神でないだけ、少しばかり勝機が見えた気がする。


「じゃあ、あたしが感じた悪寒って、あの人の天迫ってやつなの?」


 セインが身を乗り出して尋ねると、ラナは小さく頷く。

 そしてその感覚を思い出したのか、腕を組むと小さく震えだした。


「……あの人、一度だけものすごく天迫を強めたの。その場には門番と騎士団、それと私たちしかいなかったから、きっと私たちの誰かに向けて、だと思うんだけど」

「そう、なんだ……あれ?」


 ふと、セインが思い切り疑問符を浮かべた。

 額に指を当てて少し考え込むと、何とも不思議そうな表情でポツリと呟く。


「でもシュガーって、すれ違ったときも平然としていたような……」


 その言葉に、全員の視線がシュガーに集中する。しかしほとんど平行になるまで閉じられた瞼に、光など宿っていなかった。

 膝の上にいるフェンリルも、主の温もりを感じながらすやすやと寝に入っている。


「まぁ、確かにシュガーの威圧感もすごいものがあるけど。

 ……それより、やっぱり明日まとめて説明したほうがよくないか? シュガーだけ把握していないと、隊列に影響が出そうだ」

「……それには賛成です。一旦仕切りなおしましょう」


 俺とラナの意見が一致すると、セインとザックもこくりと頷いた。

 欠伸を押し殺しているのは明白で、本当はものすごく眠たかったのだろう。


「――なんでやねんっ!」


 いきなり、シュガーの大きな声が部屋の内部に響き渡る。


「きゃっ……もう、寝言で突っ込まないでよ~」


 突然の出来事に冷や汗をかいたセインは、大きく伸びながら部屋を後にする。それに倣って俺も部屋を出ようとした。


「ちょっと待てよ、リュウ。この女を置いていくつもりか?」


 ザックに呼ばれ、俺はすぐさま振り返る。

 そういえば、シュガーは俺たちと相部屋だった気がするな。とりあえず運んでやらないと……。


「って、どうやって運べばいいんだ?」


 座ったまま器用に寝ているシュガーを運ぶには、少しばかり苦労しそうだ。

 まずは膝の上で寝ているフェンリルを運ばなければいけないが。


「よい、しょっと」


 仔犬の姿になっているフェンリルは意外に軽く、ものの十数秒で隣の部屋に運び込むことが出来た。もう一度ザックとラナの部屋に戻ると、次は問題のシュガーだ。


「……一体どうしろと」


 もちろん相手は女の子であって、幻界でのシュガーの姿はその……かなり際どい格好なのだ。

 フリフリのスカートはかなり短めで、少し油断したら中が見えてしまいそうになる。

 かといってむき出しの細い足を抱えるわけにも行かず、俺はかなりの時間を費やして考えた。

 どの方法が一番、シュガーと接触せずに運べるだろうか?


「なぁ、早く運べよ。……もしかして、女の体に触れるのが恥ずかしいってか?」


 ザックの的を射た指摘に、俺は思わず言葉に詰まる。

 こいつ……俺より子供のくせになんか堂々としてやがる。ニヤ付く表情もなんかムカつくし。

 しかし俺も男、言われたまま引き下がるようなことはしない。


「そ、そんなことねぇよ!」


 言うが早いが、俺はいつの間にかシュガーをお姫様抱っこで抱えていた。

 ――お姫様抱っこ?


「おぉ~……俺もそこまでやるとは思わなかった。とりあえず、早く運べよ」


 先ほどより三割増でニヤニヤしているザックに、俺はぐうの音も出なかった。このまま口論を続けたら、ボロが出て確実に負ける自信がある。


「くっそ……そんじゃ、お休み」


 挨拶だけすると、半開きの扉を足で開いて部屋を出る。心なしかラナも薄笑いを浮かべていた気がするけど、いちいち指摘しても仕方が無い。

 勝手に言わせておけばいいんだ、きっと。

 数歩の距離にある俺たちの部屋で、セインはもう寝る準備をしていた。ゴムで結ってあった髪を解き、眼鏡もベッド脇の机上に置いてある。


「ふわぁ……あれ? リュウ、両腕で何を持っているの?」


 セインは大きく欠伸をしながら、寝ぼけたようにぼそぼそと小さく尋ねてきた。

 内心ギクッとした俺は、少しだけ悩んだ末に小さく答える。


「……さ、砂糖だ」


 普段ならこんな手は通用しないだろうけど、今のセインは眼鏡を外していて、しかも睡魔に意識を大半持ってかれている。

 案の定、セインは大きく頷いて納得していた。


「ふーん……それだけ大きいなら、さぞかし甘いんだろうねぇ~」


 その言葉と共に眠気の限界が来たのだろうか、セインはベッドに倒れ込む。

 ばふっ、というベッドの音、そして静かな寝息を確認した俺は、急いでシュガーをベッドに降ろして掛け布団をかける。そこまでして、俺はようやく一息つくことが出来た。

 ――悪い。けど、別に嘘はついていないからな?

 多少の罪悪感を覚えながら、俺は深く溜め息をつく。

 もしもセインにこの状況を見られたら、きっと大泣きするか怒るだろう。告白の返事を待っている相手が、自分の目の前で他の女性をお姫様抱っこしている姿なんて見たら、誰だってそうなるはずだ。

 チクチクと痛む胸を撫で、せめてもの償いにとセインのベッドへ向かう。

 座ったまま横向きに倒れ込んだセインは、掛け布団など被っているはずがない。俺はベッドからはみ出しているセインの脚を引き上げ、そしてゆっくりと掛け布団をかけてやった。


「……お休み、セイン」


 それだけ言うと、何を思ったのか俺はセインの頭を撫でていた。

 静かな寝息を立てるセインの寝顔はとても安らかで、見ているだけで少しほっとする。


「……むふぅ」

「わっ……!」


 そのとき、セインは大いに寝返りを打った。

 頭を撫でていた俺の腕を巻き込み、俺のいる位置とは反対側に体を向ける。結果、セインは俺の腕を抱きしめたまま深い眠りに落ちてしまった。

 腕の辺りに感じる柔らかい感触が俺をパニックに陥れ、ジタバタするもののセインはなかなか腕を放そうとしない。


「……万事休す、だな」


 もう色々と諦めてボソッと呟くと、俺はそのまま体をベッドに預けた。

 本来はもっと慌てるべき場面なのだろうが、セインの温もりが急に俺の眠気を誘ったのだ。それに抗うための余力も残っておらず、重い瞼は段々と閉じられていく。

 結局、そのまま深い眠りに落ちたのは言うまでも無い。


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