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第九話 ふたつの幻灯
【第三部】ふたつの幻灯
【拓也視点】
エンジンをかける。
冷たい風がフロントガラスを白く曇らせた。
赤信号で止まった瞬間、不意に頭に浮かぶ。
冬の四畳半。
ぬるいおしるこ。
赤いコタツ。
くだらない会話。
——何も起きなかった世界。
「……ふっ」
拓也は小さく笑った。
コンソールボックスの奥には、
あのシャープペンが眠っている。
【唯視点】
車に乗り込み、ドアを閉める。
静かだった。
暖房をつけても、車内はまだ冷たい。
信号待ちでぼんやり窓の外を見ながら、
私はふと思う。
バイクの音。
コタツの赤い光。
「何色だった?」
「薄い青!」
——傷ひとつない、普通の幼馴染だった世界。
「……ふふっ」
私は少しだけ笑った。
バッグの中には、
昔と同じメーカーのシャープペンが一本入っていた。




