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10話 人形の手入れ そのニ

※水分のお漏らし注意


 大我は浴室での一件で自己嫌悪した。本当は胡蝶を怖がらせて乱暴する気など無かった。しかし目隠しを外されて見えてしまったものが原因で大我は胡蝶に対して乱暴をしてしまった。


 大我が見た光景――それは、濡れて水が滴る胡蝶の長い黒髪。そして見つめられれば引き込まれるほど魅力的で奇麗なガラス製の瞳と、それを最大限活かす整った容姿。さらにこの時、同時に手に感じたのは女の子特有の華奢な身体と陶器のように白く柔らかい肌。これらを見て感じれば理性が外れて男としての本能が刺激されてしまう。


「くそ、くそくそ! 俺のバカ、何で抑えきれなかったんだ」


 もしあのまま胡蝶が怖かってくれてなければ自分は無理矢理最後まで行っていたかもしれない。そう思うと大我は自分が怖くなった。


 (俺は……心の中にケモノがいるんだ)


 胡蝶の心の中にある暴力精神を心配しておきながら自分の心にはケモノがいる。大我はこの自分の反面教師に耐えきれず頭が痛くなりそうになった。


「……うっ、ヤバイ、思い出したくない事が急に頭に浮かんで――」


 頭痛とともに大我の中の記憶が呼び起こされる。厳しい教官の怒鳴り声、そして目を背けたくなるような訓練と肉体的苦痛の数々。飢えと喉の乾き。激しい戦いと生きる事への執着。そして最後にケモノのような表情をして銃を持つ自分――これは過去だ。


「あっ、俺は――」

「――大我、お風呂から上がった」

「あっ……胡蝶。あのあとは一人でちゃんとできたのか?」

「うん、なんとかできた」

「……そうか」

「……うん」


 胡蝶が浴室から現れた。しかしお互いに浴室での一件から気まずくて話しかけるきっかけが無い。それでも大我の方はなんとか胡蝶に話しかけようとネタを探した。すると胡蝶が着替えた着物がきちんと帯を締めれて無いことに気がついた。


「胡蝶、また帯がきちんと結べてない……結んでやるからこっちに来い」


 大我が呼ぶと胡蝶はビクッとして近づこうとしなかった。こうして大我は心にショックを受けた。


 (あっ、そんな……胡蝶に嫌われた。くそっ! 俺はあいつになんて酷いことをしてしまったんだ。ごめん胡蝶、俺は本当に最低な野郎だ)


 大我はショックで目から勝手に涙が零れ落ちそうになった。しかし一方、胡蝶は相変わらず自分で着物の帯を結べないので本当はもちろん大我に帯を結んで締めてほしいのだが別の理由で大我に近づいて帯を任せられないでいた。


 (どうしよう……せっかく濡れた身体をタオルで拭いたのに、また身体の隙間から水が漏れ始めてる。これじゃあ大我に近づいた瞬間、濡れてる事にきづかれて、またお漏らしした人形だと思われる)


 胡蝶が立ったままでいるとシャワーを浴びた際に球体関節のパーツの隙間から勝ってに入った水が、太もものパーツの隙間から漏れ始めて滴り落ちる。それに胡蝶がハッとした瞬間、丁度大我が目から零れ落ちそうになる涙を隠す為にそっぽを向いた。


 (あっ、そんな……大我に嫌われた。嫌だ、オレはもうお漏らししないから嫌いにならないでくれ!)


 勘違いしている二人だった。そして勘違いはさらに加速する。


「……ごめん、俺無理だわ(ごめん胡蝶、俺は泣きそうになってる自分の顔を今からお前には見せられない、そんなのかっこ悪くて無理だ)」


 大我はボソッとそう呟いた。すると――


「な、なんだと……(無理って、それはお漏らしする人形が無理ってことか……そうなのか大我!?)」


 胡蝶は深く心が傷ついて感情の堤防が決壊した。


「うわあああああん、ヤダヤダヤダヤダああああぁ!」

「――うぇっ!? こ、胡蝶急にどうした?」

「うわあああああん、大我ぁ、オレがお漏らしするからって嫌いにならないでよおおっ!」

「えっ、お漏らし!? いつそんな事したんだよ」

「見りゃわかるだろ、シャワーを浴びてすぐだよ……こんな事言わせるな、うええええん!」


 胡蝶はその場に女の子座りをして泣きじゃくる。そうすると、徐々に床に水が滴り始める。それを見た大我は原因がすぐにわかって慌てて大きめのタオルを用意して胡蝶がいる床の周りが濡れないように施した。


「そうだ、胡蝶はシャワーを浴びたあとすぐに施さないといけない処置があったんだった。それをしていないからこんな目にあってるんだ」

「処置?」

「そうだ、すっかり忘れたというか……本当はやりたくないんだけど」

「どういうことだ、それをしないとオレは水を下半身からお漏らしするままなのか?」

「ぶっちゃけそのとおりだ。それと最悪放っておくと……湿気でカビが生える、かも」


 大我に言われて胡蝶は体中に気持ち悪い緑色のフサフサしたカビが生えるのを想像する。そしてそのカビはくまなく胡蝶の身体をフサフサで覆い、最後に自慢の陶器のように白い肌を黒く変色させ、最後に柔らかいシリコン素材の肌も劣化させて朽ち果てさせいく。そうして出来上がった姿は美少女ではなく――腐乱した遺体そのもの。


「いやあああああっ! オレの美しい身体が、腐っていく――ハッ、ヒュ……コヒュー……コヒュー……かっ……カハッ……ヒュー、ヒュー」

「落ち着け胡蝶、ショックがでかすぎて過呼吸になってるぞ――ってかお前人形なのに呼吸してたのか!?」

「ヒュー…ヒュー……あ、アレ? 言われて見れば……オレの別に息しなくて良かったわ――って、そんな発見は今はどうでもいい! カビをなんとかしてくれ」

「あぁ、大丈夫なんとかしてやるし簡単だ。身体の吸い分を拭き取ってやればいいだけの話だ」

「だったらそれを早くオレにしてくれて」

「いいけど――こうなる覚悟があるか?」

「――えっ、嘘だろ……はぅう」

「お、おい胡蝶しっかりしろ!」


 大我は胡蝶に人形の手入れ方法を示した説明書のイラストを胡蝶に見せた。そしてそれを見た胡蝶は気絶してしまった――そう、なぜならそこには――


 ――バラバラに分解された人形のパーツのイラストが描かれているからだ。


 ……。


「――ハッ! オレの身体……ふぅ、良かった。ちゃんとパーツがくっついてる」

「目覚めたか胡蝶」

「あっ、大我……良かった聞いてくれよ、さっき怖い夢を見て、その内容がオレの身体がカビだらけになる事だったんだ。それで、そのカビだらけになるのを防ぐ為に今度はオレの身体をバラバラにするんだって、ハハハッ、全く意味わかんなくて怖い夢だったぜ」

「そうか、それは確かに恐ろしい夢だな」

「だろ? だからお前はオーナーとして人形のメンタルを癒やす責任がある」

「ほぉ、具体的にどうやってメンタルを癒やせばいいんだ?」

「もちろん……寝起きのオレをお前の膝に座らせたあと、ギュッと抱きしめて頭をナデナデしろ」

「わかった」


 胡蝶の要望通り、大我は胡蝶を膝に乗せて座り、大切にギュッと抱きしめた。そして良い子良い子と言いながら頭をなで続けた。


 (あぁ、オレはなんて幸せな愛玩人形なんだろう。浴室での出来事もお漏らしの事、そしてカビの事もきっと全部夢だったんだ)


「……なぁ、胡蝶」

「ダメだ、まだオレは満足してメンタルが癒えていない。だから続けろ」

「……そうか、でも胡蝶――」

「だからダメだって言ってるだろ、ナデナデを続けろ」

「――でも胡蝶、悪いけどさっきから俺の膝がお前の身体の隙間から漏れてる水分でビショビショなんですけど!?」


 言われて見れば自分も先程から下半身が濡れているのを感じてはいた。しかし認めたく無い。けれども確認しなければならない。胡蝶は恐る恐る勇気を振り絞り大我の膝を見つめた。するとそこには自分から漏れた水分でビショビショになった大我のズボンがあった。


「…………やっぱり漏れてるううう!!」

「うん、そういうわけだから。やっぱり俺のズボンだけじゃなくてさっき胡蝶が寝てた布団もビショビショになっちゃってたからいったんパーツを分解して入浴後の水抜きをしよう」

「いやだあああああっ!」


 やはり、胡蝶は最後までちゃんと手入れするために一旦身体のパーツバラバラにされる運命だった――。


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