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9.王女は対面する

「やぁ、ユリウス。君が珍しく女性をエスコートしているものだから、皆が注目しているじゃないか。あの美しいご令嬢は誰だ、とね」


 相変わらず口元だけを笑みの形にして、ルーカスが非難の籠もった目をユリウスに向ける。ユリウスは一瞬だけ眉を動かしたが、すぐに表情を戻した。


「ルーカス王太子殿下、フローラ王女殿下、ご紹介させて頂きます。アシャール王国サヴォア侯爵家のロズリーヌ嬢です。両陛下からお声掛け頂きまして、本日は我が公爵家の客人として、共に参加させて頂いております」

「ロズリーヌ・サヴォアでございます。王太子殿下、王女殿下にお目にかかれて光栄に存じます」


 ロズリーヌが、フェルベルク語で名乗り、美しい所作で淑女の礼をとった。その声には艶があり、フェルベルク語の発音は完璧だった。


「フェルベルク王国王太子ルーカスです。フェルベルク語がお上手ですね。サヴォア侯爵家と言えば……」


 ルーカスは、ユリウスに向けていた非難の色を綺麗に隠し、そつなくロズリーヌとの会話を始めた。

 兄達3人の会話に耳を傾けながら、フローラは改めてロズリーヌの様子を窺う。

 遠目にも美しい令嬢だとは思っていたが、間近に見るロズリーヌからは、匂い立つような艶やかさが感じられた。深紅のマーメイドラインのドレスが、ロズリーヌの豊かな胸元や丸く形の良い尻を見事に引き立てており、同性のフローラですらドキドキしてしまうような色っぽさだった。


(それに引き換え……)


 フローラはこっそりと自身の胸元に視線を落とす。ぺったんこ、とまでは言えないが、お世辞にも豊満とは言えない。

 そんなフローラが身に着けるドレスは、今日の薔薇の夜会のために誂えた水色のドレスで、幾重にも重なるドレープで薔薇の花弁を表現したデザインだ。爽やかで愛らしいドレスをフローラ自身も気に入ってはいるのだが、ロズリーヌの姿を見た後では、どこか子どもっぽく感じられた。


「フローラ?」


 無言のままでいたフローラに、ルーカスが怪訝な顔を向ける。

 フローラはハッと気を引き締め直すと、にっこりと笑みを浮かべ、ロズリーヌに向き直った。

 その瞬間、突如として浮かんだ感情が何だったのか、フローラ自身にもよく分からない。


『初めまして、ロズリーヌ様。ようこそ、フェルベルクへ。本日はどうぞ楽しんで行って下さいね』


 よく分からないまま口をついて出たのは、まだ学び始めたばかりのアシャール語だった。

 ロズリーヌが灰色の目を瞠る。


『まぁ。驚きましたわ。王女殿下は我がアシャールの言葉をお話しになるのですね』


 驚きと喜びが入り混じったようなロズリーヌの表情からは、素直な感嘆が見て取れた。


『簡単な挨拶程度ですけれど。おかしくはないでしょうか?』

『ええ、とってもお上手でいらっしゃいますわ』

『ありがとう。あなたのフェルベルク語ほどではありませんが』

『光栄に存じます』


 フローラはニッコリと微笑むと、フェルベルク語に戻った。


「ロズリーヌ様、しばらくフェルベルクに滞在なさるのでしょう? お時間が許せばわたくしのお茶会にもいらして。アシャールのお話をお聞きできたら嬉しいわ」

「わたくしで良ければ喜んで」


 ロズリーヌとの初めての会話を笑顔で終えたフローラは、ほぅと肩の力を抜く。初対面の他国の令嬢を相手に、慣れない外国語を使ったせいだろうか、自身でも気付かないうちに緊張していたようだ。

 気持ちにゆとりができたせいか、ふと、立ち去り際のロズリーヌのネックレスに目が留まった。

 それは大粒のアクアマリンの周囲に小粒のダイヤモンドを幾つもあしらった、実に見事な一品だった。アクアマリンは大粒なだけでなく非常に透明度が高く、上質なものと一目で分かる。


(フェルベルク産のアクアマリンかしら?)


 ドレスにしても装飾品にしても水色を好んで身に着けるフローラは、フェルベルク産のアクアマリンを用いたアクセサリーを愛用している。自国の特産品というだけでなく、どことなくユリウスの瞳の色に似ているのも、フローラがアクアマリンを好む理由だった。

 今日の夜会でも、フローラはアクアマリンを主体としたネックレスを身に着けており、水色のドレスともよく合っていると満足していた。

 一方、ロズリーヌの胸元を飾るアクアマリンのネックレスは、それ自体素晴らしいものだが、ロズリーヌにも今日の深紅のドレスにも、あまり合っていないように感じられた。

 そのことが妙に気になったフローラだったが、次の挨拶客が訪れたことにより、その思考ははっきりと形を持たないまま中断したのだった。

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