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28.出張!隣町の誘拐事件⑦



 床に膝をついて、号泣しているエドワードをまじまじと見る。

 途端に、エドワードの顔前に『契約可能』と文字が浮き上がり、ロキはあからさまに嫌そうな表情をうかべた。


「うわぁ……本当に絶望してる……」


「何で嫌そうなのよ。せっかく、念願の絶望者を見つけたのに!」


「だってエドワードさん、ちょっとめんどくさい人だし。それに、絶望してれば誰でもいいってわけじゃない。所持スキルがなかったら、いくら2ランクアップしたって、意味ないよ」


「たしかにそうね。ん? でもこいつ、昔は冒険者をしてたって言ってなかった? それが本当なら、スキルぐらい所持してるんじゃない?」


 スイに言われて、そういえばそうだった、と思い出した。

 リリーとの惚気話を聞かされていたとき、たしかにエドワードは、元々冒険者をしていたと言っていた。

 仲間になってくれるかは置いておいて、とりあえず所持スキルを調べてみることにする。

 ロキは自身の『鑑定』スキルを発動させた。

 所持スキルの情報が、文字となってエドワードの頭上に浮かび上がってくる。


魔法 :B

剣術 :C

采配 :C

回避 :D


「え、わりとすごい人だった……しかも魔導士(エンハンサー)っぽい」


「えんはんさーって、パーティに欲しいって言ってた役割よね。よかったじゃない。わざわざ隣街まで来た甲斐があったわ」


「……まぁ、エドワードさんの勧誘はあとだ。まず、こっちを何とかしないと」


 ロキはそう言って、腕を組んで仁王立ちしているリリーの方に向きなおった。

 リリーは鋭くロキを睨んだまま、さらに顔をゆがませる。

 

「……さっきから何の話をしてるの? 早くそいつを連れて、ここから出ていきなさいよッ!」


 リリーの怒号が部屋中に響く。

 そのとき、背中をつん、と突かれる感覚がした。

 “ステルス”で身体を消している、レイラだ。レイラは小声でロキにある耳打ちをして、ロキははっとした。

 それから表情を戻し、リリーに向かって、口を開いた。


「……はい。あなたは誘拐されていないと分かったので、出ていきます。……最後に一つだけ、質問してもいいですか?」


「は? まだあるの? 何よ」


「僕は、この部屋にくる前に、アーロンさんと二人で話をしました。アーロンさんは、心からあなたのことを愛しているようでしたよ。あなたは、金目当てでアーロンさんに近づいたようですが、アーロンさんのことをどう思っているのですか?」


「綺麗ごとを並べて、説教でもするつもりかしら? もちろん、愛しているわ。アーロンのお金をね。あんな奴、金以外に何の魅力もない。ギルド長だか何だか知らないけど、エラソーな顔してこの街を牛耳ってて馬鹿みたい。わたしがあいつをコントロールしてるから、あいつは丸くなったの。わたしに感謝してほしいわね」


「……どうしてそんなにお金がほしいんですか?」


 たずねると、リリーは鼻で笑った。


「あたしはね、才能に恵まれたAランクの白魔術師(ヒーラー)で特別な存在なの。それなのに、はした金で医者まがいのことをする毎日に、反吐が出ていたわ。いつか大金を手にして、何の不自由もない優雅な暮らしをする。それがわたしの夢だった。もうあんな偽善生活には絶対に戻りたくない! だからアーロンを利用するの! 分かったら早く出て行ってよッ!」


 吐き捨てるようにリリーが叫んだ、そのときだった。

 かたん、と物音がして、一斉に扉の方を振り向く。

 そこにいたのは、アーロンだった。

 微弱の麻痺状態のまま、よじのぼるようにたどり着いたのだろう。扉にしがみつくようにして、立っている。


「リリー……」


 話を聞いていたらしく、アーロンは青ざめた表情で、リリーを見つめていた。

 ロキは、アーロンが部屋のそばに来ているのを知っていた。“ステルス”で身を隠していたレイラが、先ほど耳打ちして教えてくれたからだ。

 だから、わざとリリーを誘うような話をした。

 少し話しただけだったが、ロキにはアーロンが悪い人物に思えなかった。

 だから、騙されていることを聞かせてやろうと思ったのだ。その後、アーロンがどんな選択をしようとも、それは好きにすればいい。けれど、このまま知らずにリリーと結婚するのは、可哀想だと思った。


「ア、アーロンさん!? ち、違うの……これは……!」


「私は……君に騙されていたんだな……」


「話を聞いて! 私は……そう、こいつらに無理矢理、言わされて……!」


「……私が知っている君は、たとえどんな状況でも、あんな風に汚い言葉を言う女性ではない。君は私が愛していたリリーではない。ヒステリックな叫び声も、耳障りだ。今すぐ、この屋敷から出て行ってくれ。朝になってもまだいたら、強硬手段をとらせてもらう」


 アーロンはそう言い残して、よろよろと部屋を出て行ってしまった。

 醜いリリーを、これ以上見たくなかったのだろう。

 リリーは、焦ったような表情でアーロンを見ていたが、はっとして今度はエドワードに向きなおった。


「エ、エドワード! 全部、嘘だったの! わたしはアーロンに誘拐されて、無理矢理あんなことを言わされていたの。わたしともう一度、やり直して!」


「……うわぁ、さすがに無理があるわよ」


 スイが思わずつぶやくと、リリーはキッとスイを睨んだ。

 ロキもドン引きしながら、その醜態を見ていた。

 しかし、ここまであからさまでも騙されそうなのが、エドワードである。

 さすがに騙されそうになったら、止めてやろうとロキが様子をうかがっていると、予想に反して、エドワードは伸ばされたリリーの手を強く振り払った。


「――触らないでくれ」


 きっぱりとそう告げて、エドワードは立ち上がった。

 涙で濡れた瞳をぬぐって、冷たい目でリリーを見下ろした。


「清らかで優しいリリーは死んだ。……いや、最初からいなかったのだ。俺もアーロンも、騙されていた。二度と、俺に近づくな」


 恐ろしく冷たい声で、エドワードが言い放った。

 そのときだった。


「あ」


「あ……」


 ロキとスイの声が重なる。

 スイに教えてもらわなくても分かる。

 明日に控えていた結婚が破談になり、元恋人にも突き放されたリリーは、絶望してしまったのだ。

 床に膝を付き、苦悶の表情をうかべている。


「やったわね! 白魔導士(ヒーラー)魔導士(エンハンサー)、セットで仲間にできるじゃない!」


「いやいや、さすがにこの二人を一緒に勧誘できないでしょ! 気まずすぎ! 修羅場パーティなんて嫌だよ、僕……」


「じゃあ、どっちか一人しか誘えないってこと? どっちにするのよ、ロキ」


「そんなの、考えるまでもないよ」


 ロキは歩みを進めて、一人に近づく。

 

「……よかったら、冒険者になって、僕のパーティに入りませんか?」


 ロキはそう言って、一人に手を伸ばした。



*****



「ううううう……っ、リリー……」


 隣町、ヴィアポート。

 酒場――(ねこ)腹巻亭(はらまきてい)


 誘拐事件騒動が終わり、ロキたちは街の酒場に打ち上げにきていた。

 魔法少女姿を解き、元の姿に戻っているため、アーロンの使用人の目を気にする必要はない。

 ただ、元の姿を見られているエドワードだけは、魔法少女の姿で、打ち上げに参加していた。

 机に伏して号泣するエドワードに、ロキは呆れたように肩をすくませる。


「……あんなかっこよく振っておいて、未練たらたらじゃないですか」


「未練はない……! だが、ショックだったんだ……うう、リリー……」


 酒も入っているせいか、エドワードは完全に泣き上戸に入っている。

 やはり、めんどくさい男だ。

 ロキは無視をすることにして、エールをあおった。

 レイラはジュース、スイは山のように盛られた肉に潜り込んで、姿は見えない。

 エドワードは、その姿に似合わない、大ジョッキを手に持ち、もう何杯もあおっていた。


「それで、エドワードさん。本当に、わたくしたちのパーティに入ってくださるんですか?」


 レイラが微笑みながらたずねると、エドワードは泣きながらうなずいた。


「俺はもう、この街では暮らしていけない……アーロンに顔を見られてしまったからな。家にも帰れないし、俺は冒険者に戻る。ロキくん、よかったら、パーティに入れてくれ」


 姿を隠すため、魔法少女姿になっているエドワードは、大きな赤茶色の瞳で、上目遣いに見上げた。

 年齢は12歳ほどの少女の姿だ。

 長い髪は、瞳と同じ赤茶色で、紺と赤のストライプ柄のワンピースを着用している。頭には、同じ色のベレー帽が飾られ、足元は茶色のショートブーツを履いていた。白いシャツの襟にはフリルがたっぷりあしらわれており、良いところのお嬢さん、という印象を受ける。

 声は幼く、とても可愛い声である。

 

「こちらこそ、よろしくお願いします。……かわいいのが、何かむかつくなぁ」


 ロキは思わずつぶやいた。

 正体が成人済みの男だと分かっているだけに、見ていると複雑な心境になる。

 すると、肉に埋もれていたスイが、ぴょこんと顔を出した。


「モコモフの方があたしは好みよ。んで? 何でリリーとかいう女を選ばなかったのよ。能力だけだったら、あいつの方が上でしょ?」


「……そりゃそうだけど、あの性格のキツさは、誰かさんを彷彿とするし嫌だよ。いくら優秀な白魔導士(ヒーラー)でもいらないかな……」


「もったいないわね。魔法少女になればSSランクなのに。でもま、たしかにむかつくオンナだったから、あたしも文句ないわ」


 スイはそう言い残して、再び肉盛りに埋もれた。


「ところで、ロキくん。このパーティは今後、どういう予定なんだ?」


 目を腫らしたエドワードにたずねられて、ロキは考える。


「うーん。とりあえず、仲間探しと、Bランク、Aランクのダンジョン攻略を、平行してやろうと思ってます。お金を貯めて、ギルドを作りたいんですよね」


「金が必要なのか。援助してやりたいのはやまやまだが、この街でアーロンを敵に回した俺はもう家には帰れないし、もはや無一文だ。何の力にもなれないな」


 エドワードはそう言って、再びジョッキをあおりはじめた。

 無一文、ということは、ここの支払いはいつも通り、ロキがするのだろう。

 ロキは少し青ざめてから、あまり考えないようにした。


 四人になったパーティの打ち上げは、一晩中続き、明け方やっとお開きになった。

 おそるおそる会計をしたとき、店主に銀貨7枚を請求され、ロキは腰を抜かしそうになった。 



<魔法少女ステータス④>


魔法少女プラネット / エドワード・ラッセル

性別:男性

身長:147cm

体重:39kg

76/51/77


スキル

エフェクト・チェンジ:U

■対象者と自分のバフ・デバフ効果を入れ替えることができる。

※使用制限あり

魔法 :S

剣術 :A

采配 :A

回避 :B


これでエドワード回は終わりです。

仲間が増えてきたので、変身前、変身後のおさらい。

ロキ……冴えない少年→誰が見ても美少女

スイ……スライム→緑髪みつあみッ子

レイラ…美幼女→大人のおねえさん

エド……イケメン→幼女

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