勇者と魔王と
「ついに来たか…。勇者よ」
勇者は緑と白の輝きを閉じ込めた両手剣を強く握りしめる。
「魔王イオデウス!貴様が奪った生命、死を以って返してもらうぞ!!」
勇者は剣を天に掲げ、強烈な稲妻を魔王に落とす。
稲妻は空気を唸らせ魔王の体を包む。
「効かぬ!」
魔王が叫ぶと、魔王を包んでいた雷撃が弾けて消えた。
しかし次の瞬間、勇者は魔王の目前にいた。
「おおおお!!」
勇者は雄叫びを上げながら剣を振り下ろす。
会心の一撃。
剣は魔王の頭部に生えた角の一本を切り落とした。
「ぐおおお!」
苦痛の悲鳴を上げ、頭を抱えて悶絶する魔王。
「兄様!」
勇者の後方に構えていた、ヒーラーが勇者に向けて掌をかざすと、そこから光の糸が吹き出し勇者の体を包み込む。
勇者は再び飛び上がると、魔王に斬りかかる。
「おのれええ!」
魔王は、飛びかかってくる勇者に向けて巨大な鎌を振り回した。
空中で身動きの取れない勇者は剣を立て、それを受ける。
魔王の圧倒的な力により押し返され、勇者は壁面に叩きつけられた。
壁に衝突し、隙を見せた勇者に魔王が追い打ちをかける。
その中心を煮立ったマグマを閉じ込めた火の尾を巻く業火の火の玉が勇者を襲う。
「っんのやろおお!!」
蔓の模様を施された防具を身に着けた一人の武闘士が火球の前に立ちふさがると、紫の気を纏った脚でそれを蹴り返す。
「おい!大丈夫か、イオネス!」
「あ、ああ。あんなのどうってことない」
「ったく、気を付けろよ。今まで倒してきた五人とは違うぜこいつは」
そこに駆け寄る白魔道士。
「兄様っ!今回復を!」
「まだ大丈夫だ。ここは魔力を温存しておいてくれ」
「スー、お前は兄貴に甘すぎるぜ。ブラコンかっての…」
「何よ!うるさいわね、この脳筋女!」
「っんだとてめえ!」
問答を続ける三人を、闇の膜が包み込んだ瞬間、武闘士が蹴り返したはずの火球が更に大きくなって膜に激突、弾けて拡散し周囲の壁に穴を開けた。
「お前達、油断するな!来るぞ!」
そう叫んだ大きな三角帽を被った黒ずくめの魔術師は手に構えた捻れた杖を振り回す。
杖の軌道に巻き付くように風が集まっていく。
「こざかしい雑魚共めが!」
魔王が大鎌を振りかぶり、それを四人に向けて投げつける。
魔術師は回転しながら飛んでくる大鎌に、巻き起こした竜巻をぶつける。
青白い光を弾かせながら拮抗する竜巻と大鎌。
「行けっ!アス!!」
魔術師の掛け声に応じて武闘士が飛び出す。
竜巻で巻き上げられた埃に紛れて魔王の目の前に武闘士が突然現れる。
「おらああああ!!」
気を纏わせた拳の連続攻撃。
拳がめり込み、魔王の腹には拳の跡が斑に刻まれる。
魔王はあまりの勢いに嘔吐する。
「おおおおお!」
そこに勇者が飛びかかる。
一閃。
魔王の片腕を切り落とす。
再び悲鳴を上げる魔王。
叫び声は徐々に大きくなっていき、部屋の天井や壁を崩すほどの咆哮へと変わっていく。
オオオオオオオオ!!
魔王は咆哮と共に黄色い光に包まれていく。
「離れろ!第二形態だ!!」
前線にいた勇者と武闘士が慌てて飛び退く。
「…第二…形態。これが父と母の言っていた」
「そう、女神アインとエウリスがもたらした悲劇の術だ…」
「っざけやがって、師匠に代わってあたしがこいつをぶっ殺してやる!」
「ラピリス様…。私、怖いです」
「自信を持てスー。お前の父と母は勇敢で強かった。だから絶対に勝てる、信じるんだ。」
魔王を包む光が弾け飛ぶ。
光の中から姿を現した魔王は長い十本の腕を生やした女神の姿へと変貌していた。
「こんのくそ野郎!!次はあたしらが相手だ!行くぜっ、イオネス!!」
「父レイスと母ルルディの名に誓い、貴様を倒す!」
イオネスとアスが女神に突っ込んでいく。
それを捉えた女神は十本の腕全てに魔力を込め、多属性の連続魔法を放出した。
しかし、ラピリスの混合魔法が二人を包み、振りかかる魔法の全てを弾き返す。
女神の足元に走りこんだアスが足払いを掛ける。
地面を抉る強烈な足払いに女神が態勢を崩す。
そこに飛び上がっていたイオネスの一撃が振り下ろされる。
「うおおおお!!」
イオネスの一撃は女神の腕三本を切り落とした。
しかし、それに怯まない女神は、不安定な姿勢から地面にいたアスに向けて踏みつける。
足払いの反動で動けないアスに巨大な足が落ちてくる。
「させないわ!」
アスを踏みつけんとする女神の膝をスーの放った矢が巨大化し突き刺さる。
アスを踏みつけそこなった女神は、態勢を戻すと大口を開けた。
「まずい、消滅魔法だ!避けろ二人共!」
ラピリスが叫ぶのとほぼ同時、女神の口から光が帯状に吐き出される。
女神は体を捻り、放出され続ける光を無作為に振り回す。
床、壁、天井。
部屋の至る所が消えてなくなり、天井や壁が崩れ落ちる。
「兄様!アス!!」
スーが叫ぶ。
「こっちだ、スー!一旦逃げるぞ!」
ラピリスがスーに駆け寄り促す。
部屋を後にする二人。
地下深くに建造されている城の巨大な階段を駆け上がる最中、二人の足元や目前を光の帯が通り過ぎて行く。
崩壊していく魔王城の中を地上目指してラピリスとスーは駆けて行く。
「イオネス、アス…。無事でいてくれ…!」
二人が魔王城から飛び出すと、城は轟音と共に崩れ落ちていく。
今通ってきたばかりの道が瓦礫に閉ざされ、二人の視界から消えた。
「兄様!アス!ラピリス様、二人が…二人が!」
崩れた城から女神が飛び出す。
七本の腕を蠢かせながら、胡座をかく形で浮遊し二人を見下ろす女神。
ンーーーー………
唄うような咆哮を上げた女神は、腕をぴんと開き、抱え込むようにするとそこにとてつもなく大きな光の玉を作り上げた。
「備えろ、スー!」
女神から光の玉が発射される。
二人を優に包むほどの大きさの光の玉が二人に向かってくる。
それに向けてスーが弓を構える。
「落ちろおおお!!」
スーが矢を放つと、それは緑色の光を帯びて巨大化、光の玉にぶち当たった。
その瞬間、光の玉は光る靄を上げて矢とともに消滅する。
「スー!何をしたんだ!?」
ラピリスが驚愕してスーを見やる。
「修復の魔法を込めたんです。もしやと思ったんですが、勘が当たりましたね…」
スーは消滅魔法を消滅させるという偉業に自分でも驚いている様子で答えた。
その時、城の瓦礫の中から何かが這い出してきたのをラピリスが視界に捉えた。
「アス!イオネス!無事だったか!!」
「僕は、僕は大丈夫だ。しかし、アスが…」
アスの肩を抱くイオネスがアスの足元に視線を落とす。
「ちくしょ…、片足持ってかれちまったぜ…」
左手で太ももを締め付けるアスの左膝から下が完全に失われている。
「スー、回復を…!」
「はい!」
スーが血を流し続けるアスの患部に手を当て、回復魔法を放出させるとアスの傷口はみるみる塞がっていった。
「わりぃな、スー。助かったぜ」
「アスっ!なぜ僕を庇ったりしたんだ!」
「うるせえ。お前の生命とあたしの足、護るならお前だろうがよ。ケチくさいこと言ってんな、ダッセえ奴だな」
再び女神が光の玉を作り始める。
「スー、魔力は大丈夫か?」
「はい、まだまだ行けます!」
スーが大きくなりつつある光の玉に向けて弓を構える。
「…スーは何を?」
「修復魔法を使えばあの光の玉を打ち消すことができる。スーは本当に頭の良い子だ」
スーが矢を放つ。
巨大化した矢はまだ大きくなりきっていない光の玉に命中、再びそれを打ち消した。
二度も攻撃を防がれたことで怒りを露わにする女神は歪んだ不気味な表情で四人を睨む。
「はっ!あの野郎、怒ってやがる。っざけやがって」
憎らしげにそう呟いたアスは、器用に片足で立ち上がると、小さく飛び跳ねて体の状態を確認する。
「アス、無理はするな!僕が前線で戦うっ!」
「馬鹿言うな…、こいつにムカついてんのはお前だけじゃねえんだ!あたしもやる…!」
「…イオネス、アスならできる。それにこやつは一度決めたら引きはせんよ」
「なんなのよあんた!本当に脳みそまで筋肉でできてんじゃないの?」
「兄妹揃ってうるせえんだよ!黙って集中しろっての!」
「来るぞっ!」
女神が大口を開け、光の帯を放出する。
全員が飛び退いてそれを回避、スーが着地と共に帯の中腹に向けて矢を射る。
スーの矢に合わせて女神に突進していくイオネスとアス。
矢は光の帯に見事命中、帯は矢との衝突点を中心に霧となって消えていく。
既に走りこんでいた二人の存在に女神が気付き、全ての手に業火の火球を練り上げるとそれを二人に向けて次々に投げつける。
しかし、ラピリスがそれを阻止する。
そして、二枚の銀貨を二人の走る先に放り投げた。
イオネスとアスが飛び上がる。
霧散し、膨張する膜となったそれを飛び台にし、二人は更に高く飛び上がった。
「イオネス!行くぞ!!」
イオネスの少し下にいるアスが叫ぶ。
「アス!!」
アスが両手を組み、魔力を込めると、イオネスに向けて両腕の砲台から紫色の魔砲を発射した。
紫炎がイオネスを包む。
発射された魔砲の勢いでイオネスは空に向かって飛んで行く。
遂に女神の頭上まで打ち上がったイオネスが叫ぶ。
「これで、終わりだあああ!!」
紫炎に包まれたイオネスは紫の閃光となって女神に剣を振り下ろす。
一刀両断。
イオネスを包んでいた紫炎はイオネスの剣から発された斬撃に乗り、巨大な刃となって女神を切り裂いた。
女神は体を左右に分かち、黄色い液体を振りまきながら声も上げずに地へと落ちた。
「よっしゃあ!!」
「やったわ!」
「…遂に、勝ったぞ!!」
歓喜する三人が、空から舞い降りたイオネスに駆け寄る。
「か、勝ったんだ…僕たちは勝ったんだ!魔王を、女神の野望を打ち砕いたんだ!!」
イオネスが叫ぶ。
抱き合って喜ぶ四人。
天上の灯が差し込み、異界は明るく照らされる。
「帰ろう…、僕らの街へ!」




