第8話:【絶対切断 vs 絶対防御】
ムラマサの抜刀は、もはや「速い」という次元を超えていた。
空気が、光が、そして存在そのものが断ち切られる「無」の閃撃。
「消えなさい」
声なき意思とともに放たれた概念切断の刃。しかし、その刃が仁の喉元に届く寸前、空間に咲いたのは純白の百合を思わせる巨大な盾の花だった。
――キィィィィィィィィィン!!
世界が軋むような高い金属音が響き渡り、火花が夜の街を白く照らす。
「……信じられません。この私を正面から防ぐとは」
初めてムラマサが、驚愕を含んだ声を漏らした。
仁の前に立つのは、白銀のドレスを纏った淑やかな女性。左腕に一体化した巨大な盾を掲げた彼女こそ、新たな武器娘――アイリスだった。
矛盾の理
「お怪我はありませんか、マスター?……これより先、一歩たりとも不浄な刃を通させはいたしません」
アイリスが静かに告げると、盾から放たれる黄金の波動が周囲の「剥がれ落ちた床」を修復していく。
『アイリス! あんた、ダウンロード遅すぎよ!』
「うふふ、ライカ様。美味しいものは最後にいただくものでしょう?」
ピピたちが弾幕で牽制し、ライカがエネルギーを供給し、アイリスがすべてを拒絶する。
バラバラだった「全部持ち」が、アイリスという**【守りの要】**を得たことで、一つの完成された陣形へと進化した。
「……ムラマサ。あんたの刃は『不要なデータ』を切るものだってな。でも、アイリスは違う。彼女は――」
仁はアイリスの背中に手を添えた。その瞬間、スマホを通じてアイリスの「設定」が仁の脳内に流れ込む。
「――彼女は、**『俺が守りたいと願う意思』**そのものなんだ。俺が諦めない限り、あんたにアイリスは切れない!」
パッチ・オーバーライド
ムラマサが猛然と連撃を叩き込む。一撃ごとに空間が割れるが、アイリスの盾はそのすべてを「慈愛」で包み込むように無効化していく。
「マスター、今です! 皆さんの力を一点に!」
アイリスの盾が中央から展開し、巨大なレンズ状へと変形した。
そこへ、ピピの弾丸が、ライカの電磁砲が、そしてイヴが放つ大太刀の斬撃が吸い込まれていく。
「「「「全武装連結!!」」」」
アイリスの盾は「防御」のためだけにあるのではない。受けた衝撃を増幅し、仲間の攻撃を束ねて撃ち出す**【因果反射】**の触媒なのだ。
「……なっ、公式(私)の権限が書き換えられる……!?」
ムラマサが初めて動揺を見せ、防御姿勢を取る。
だが、あらゆる武器娘たちの想いを乗せた黄金の光条は、運営の断罪者をその「理」ごと飲み込んでいった。
爆光が消えた後、そこには仮面が半分割れたムラマサが、霧のように消えかかりながら立っていた。
「……見事なり。バグの王、そして愛しき兵器たちよ。……だが、忘れるな。運営は次の一手として、この世界そのものを『再起動』させるつもりだ……」
不穏な言葉を残し、ムラマサは転送光の中に消えた。
「再起動……? それって、この世界にいるプレイヤーも、武器娘(お前ら)も、全部消えるってことか……!?」
『……冗談じゃないわよ。あたしたち、やっと仁と会えたのに!』
ライカが仁の服の裾をぎゅっと握りしめる。
アイリスは優しく微笑み、イヴは東京タワーの頂上を指差した。
「リブートを防ぐ方法は一つ。あそこにある『システムの中枢』を直接ハッキングして、管理権限を奪い取る。……つまり、私たちが運営に成り代わるのよ」
仁の戦いは、生き残るための「逃走」から、世界を救うための「謀反」へと変わろうとしていた。
【現在のパーティー】
イヴ(大太刀/リーダー)
ライカ(レールキャノン/火力)
ピピ(ハンドガン/攪乱)
アイリス(シールド/鉄壁)
仁(全部持ち/マスター)




