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将星集結

誤字報告、感想ありがとうございます。

「お初にお目にかかる」

「はい。道三様ですね。僕は」

「喜六殿にございますな。この度は儂が命を救っていただき感謝いたす」

 道三様は手をついて喜六様に頭を下げた。

「お手を上げてくだされ。それに美濃救援を決めたは兄上です」

「それも三河表の合戦を喜六殿が引き受けてくれたからであろうが。それに三層倍の今川勢を蹴散らしたと聞く。見事なる武勇でや」

「実際に戦ったのは権六をはじめとする家臣たちです。僕は後ろから策を巡らせただけですよ」

「謙虚が過ぎると言うものにあらあず。儂が口を滑らせたことが美濃の曲事になったが、婿殿が納めてくれたでや」

「ええ、お言葉、確かに受け取りました。で、ご用向きは他にもありますのでは?」

「うむ。十兵衛!」

「はっ!」

 道三様に付き従っていたのは、婚儀の際に護衛の武者を率いていた明智十兵衛だった。

「こやつを喜六殿に預けたいのでや。才は疑いないのだが、いささか頭が固い。喜六殿の縦横無尽の采を学ばせたいと思うでなん」

「いや、十兵衛殿ほどの方を僕が預かるは……」

 喜六様は何やら考え込まれた。

「儂はこのまま武衛様にお仕えする。備後殿と同輩になるでや。十兵衛も一通りのことを学んだなら武衛様の家臣となる手はずである」

「なるほど。僕が教えられるのは様々な書物から得たものです。それが役に立つかはわかりませんが」

「ふむ、そう申されるならばそれでよかろうず。十兵衛」

「はっ! 喜六様のもとで学ばせていただきたく!」

「では、足軽頭として我が与力として働いてもらいましょう」

「よろしくお願い致しまする!」

 道三様と十兵衛殿はすっと頭を下げた。喜六様と儂も頭を下げる。道三様は清須の城に向かって戻られ、十兵衛殿は真っ先に鉄砲足軽のもとへと走って行った。

「おお、これが喜六様の考えた早合にございますな! なるほど!」

 鉄砲狂いの十兵衛と呼ばれるようになるのは間もなくのことで、弾薬の消費の多さに喜六様が十兵衛の鉄砲稽古に待ったをかけたと聞いたのは翌月のことであった。

「儂の禄はすべて弾代でお願い申し上げる!」


 その日は一色の所領にもどり、もめごとや判物を出す仕事をする日だった。大きな問題もなく、書類に花押を書いていく。


「あなた様。お茶ですわな」

「おお、すまぬの」

「うふふふー」

 背中に張り付いてくる妻をそのままに、様々な書類に目を通す。


「あ、ここ。この数字はおかしいですわな」

「む? おお、計算が間違っておるでや」

「喜六の用いている算用数字というのですか。これはわかりやすいですわな」

「うむ。これまで一桁間違えたりとかよくあったでなん」

「……年貢をごまかそうとしておるようですわなも」

「うむ。久六!」

「はっ! ぬわっ!?」

 隣の部屋にいた久六が入ってくるなりこちらの様子を見ていきなり顔をそむけた。


「あ、あらまあ」

 ふと自らの有様を思い起こす。背中から市がぴったりと覆いかぶさり後ろから儂の手元をのぞき込んでおる。

 久六の様子を見て市は素早く背後に飛びさがった。

「失礼をいたしましてございまする!」

「お、おう、すまぬ」

 耳まで真っ赤になって横を向いていた久六がこちらを振り向いた。

「し、して、何用にございますでや」

「う、うむ。この書付を見てほしいのじゃ。こことここの数を喜六様の数字に直すとだな」

「む、かなり少なくなっておりますな」

「うむ、ちとややこしいこととなっておるが、算用数字とやらを使って計算をし直すと数字が違ってくるでや」

「庄屋を問いただすべきかと思うがいかがでや?」

「すぐに呼びだしましょうず」


 こういった書類仕事をしていると、思わぬ才があったのが孫四郎であった。喜六様に教わったそろばんを使いこなし、銭勘定をこなす。


「銭は大事でや」

 普段は傾いた振舞をし、禄は派手好みの着物につぎ込んでいた。しかし、その中でもたくわえをしておると聞いた。

「殿! 次はこの書付にござる!」

「おう、まかせよ!」

 孫四郎は先日、家来を雇った。なにやら長屋の戸の前で一晩座り込んでおったそうじゃ。

「長八。今日の仕事が終わったならば、槍の稽古じゃ」

「はっ、お供いたしますでや!」


「久六、孫四郎をどう思う?」

「良き若者でございますだわ。あとから来た小姓衆の面倒もよう見ておりまする」

「うむ、あやつの烏帽子親になってくれぬかと利昌殿より書状が来ておったでや」

「お受けなさいませ。前田の家とのよしみは当家にとっても益が大きいと思いますで」

「よからあず。元服は殿にもお伝えし、清須で執り行うでや」

「彼の武者は織田を背負って立つ働きになるでなん」


 翌日、孫四郎を呼び出した。


「孫四郎、清須に向かうゆえ供をせよ」

「はっ、かしこまってございまするに!」

 荒くれ者の気質が大きく出ていたが、最近は落ち着きを醸し出している。

「孫四郎はずいぶんと大きくなったでや」

「殿の薫陶によるものだがや」

 久六ががはっと笑って告げ、ちと照れ臭い気持ちになった。


「何事にござりまするか?」

「よい、清須では前田のお父上も来られる故、失礼のなきようになん」

「親父殿が? なにゆえにございますかのう?」

「ふふ、それはついてみての楽しみだなも」

「ははっ!」

 馬にまたがり、孫四郎が先頭に立つ。わきに抱えた槍はギラリと輝きを放つ。


「最近はめっぽう平和になりましたでなあ」

「うむ、殿が厳格に掟を定めたでな。賊狩りもうまく行っておる」

 道端で荷を置いたまま休んでいる行商人がいた。落ちているものがあっても、盗まれることなく役人に届けられる。

 尾張国内の治安は改善し、急速な発展の下地ができてきておるように見えた。


 那古野の城の近く、道端にうずくまっている子供がいた。


「おのしら、いかがしたでや!」

 孫四郎が声をかける。すると兄と思しき子供が立ち上がって弟を背中にかばった。

「小竹には手を出させぬでや! 物取りの類か! 見ての通り儂らはなにももってはおらん! 相手にするだけ無駄だでや!」

 よく見ると、着物の襟から見える胸元にはいくつもあざがあり、顔もはれ上がっている。背後にかばわれている弟は頭を抱えて丸くなり、ガタガタと震えていた。


「儂は柴田権六様の家来、前田孫四郎でや。物取り呼ばわりはやめてくれい」

「はっ! お侍様にてございますか!」

 いきなりがばっと地面に座り込み、頭を地面に擦り付ける。

「いや、そこまでせずともよいでや。だが、物取りの類がまだこの辺におるのかのん?」

「……儂らはそこから逃げ出してきたのでございまする」

「ふむ、おのしらはその一味であったのかなん?」

「……親に売られたのであらあず。人買いを山賊が襲い、儂らはそこにさらわれておりましたでや」

「さようか。場所の案内はできるかの?」

「無論でございますだで!」

「孫四郎、長八を清須に使いに出せ。我らはこの……おい、その方、名前を聞いておらなんだでや」

「はっ、儂は日吉と申しまする!」

「うむ、案内せよ!」


 山中に掘っ立て小屋があり、そこに十名ほどの山賊が潜んでいた。

「孫四郎はそちらでや、藤八と共に行け」

「合点でや!」

「久六はあちらに立て。我らが追い立てるでや。内蔵助もついて行け」

「はっ!」

「儂は正面から行くでや。続け!」

 五名を率いて正面から突き進む。


「我は柴田権六でや! 者ども、出会え、出会ええええええい!!」

 小屋の前で大喝すると、泡を喰って中から数人の男どもが出てくる。手には錆の浮いた打ち刀を手にしており、ただの木こりの類という線は消えた。


 あらかじめ決めていた合図に従って槍を掲げる。あらかじめ儂の背後にいた馬廻りが矢を放つ。


「ぐわっ!」

 肩に矢を受けた賊が倒れる。中からさらに人数が出てくるが、左右から押し寄せる久六と孫四郎に斬り伏せられる。

 息絶えた数人はその場で穴を掘って埋める。残りは数珠つなぎにして清須の城に連行した。


「おお、権六様じゃ!」

「あれなるは柴田の槍の前田孫四郎様じゃ!」

「賊をひっとらえて参ったとかきいたぞ」

「さすがじゃ!」

 引っ立てられる賊どもをののしる清須の町衆。そして歓声が聞こえてくる。


「おう、来るついでに賊をひっとらえて参ったかや! よくやったでや!」

 歯並みを見せて破顔する信長の殿は上機嫌であった。


「はっ、そこなる小僧どもが賊を見つけて案内してくれましてなん」

「左様か! 小童なれど殊勝でや。褒美をつかわそうぞ」

 清須の殿の前に連れて行くと、緊張で固まっている兄弟がいた。

「あ、あ、あ」

 弟のほうは口もきけない有様だ。兄の方はキッと覚悟を決めた顔をしていた。

「お殿様に申し上げまする」

「うむ、何なりと申せ」

「我ら兄弟を家来にしてくださいませ!」

「ふむ……なかなか腹の据わった小僧であるな」

「わしゃあ十四にござる」

「ほう、なれば飯が足らんのだな。権六、こやつらはおのしに付けようず。まずは飯を腹いっぱい食わせてやるでや」

「かしこまってございまする」

 こうして、儂は二人の兄弟を引き取ることとなった。のちに木綿藤吉と呼ばれる木下藤吉郎が織田に仕えることとなった日であった。

読んでいただきありがとうございます。


ファンタジー戦記物です。

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[一言] ここ最近、権六伝なのか喜六伝なのかが、分からなくなってきた印象です。北庄落城時点までの経験を朧気ながら得た状態で権六が逆行というのは面白いアイディアだと思っていましたが。 喜六の方が更に先の…
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