そうして俺達は、再会した
ユヅキ編
「ニムバス、冒険者組合から依頼が来てるんだが、やらないか?」
「ウホッ、いい依頼」
「又お前は何言ってるんだマクミラン…どんな内容ですか?」
ドラッケン帝国内にある、元々倉庫だった場所を改築した、俺達の詰め所。
今日も今日とて面倒ごとを処理していると、隊長に呼ばれそんな事を言われた。
あの事件から、早くて3ヶ月が過ぎた。
クロマ達の組織は総勢25人ほどいて、全員今も尚王国内で磔にされている。
自害防止の呪いを彫られ、雨風の中晒され、被害者達から石を投げられる毎日。
今では全員が殺してくれと訴えてるそうだが、まだまだ頑張って貰いたい。
併せて、取引があった王国内の貴族や有力者が粛清された。
あまりの多さに、今でも混乱が続いてるそうだ。
帝国内でも取引してた奴もいたが、既に隊長主導で処断している。
「ジャウスト遺跡で突然変異種が出たと、聞いた事はあるか?」
「あ、それ知ってます!10層の件ですよね?」
フリューが隊長の話に食いついたが、俺も新聞で見た覚えはある。
ジャウスト遺跡と言えば、帝国国内にある有名なダンジョンだ。
ダンジョンは、冒険者組合が管理する施設と言ってよいだろう。
未だ原因は解明されてないが、ある日突然発生する、モンスターの巣だ。
とは言え、管理できれば素材や宝の山でもあり、冒険者達の訓練場ともなる。
ジャウスト遺跡は、比較的初心者向けのダンジョンだ。
だが先日、10層に凶悪な突然変異種が生まれ、冒険者達の脅威となっている。
「突然変異種の名前はゴブリンレギオン、ゴブリンが合わさった様な醜悪な見た目らしいな」
「幸い死者は出ていませんが、闇魔法を使う厄介な奴、みたいですね」
俺は隊長から依頼書を受け取り、概要を確認する。
依頼主は…、あぁ、やはりか。
「受けましょう」
「即答だな、かなり面倒事だが大丈夫か?」
「えぇ、午後にでも発ちます」
依頼主は、現冒険者組合副組合長のメルアスさんだ。
彼女には心配をかけてしまったので、この位はさせて貰おう。
依頼内容は、ゴブリンレギオンを倒す…事ではなく、冒険者が倒せるように援護する事だ。
また、10層に潜るには2日はかかるので、中で一泊する必要がある。
ただ、参加する冒険者は顔見知りなため、依頼としてはやり易い。
「しかし何で援護、なんスかね?ニムバスさんが行けばすぐに解決しそうッスけど」
「あの事件で冒険者不信が広がったからな。冒険者が倒した事にして少しでも名誉を回復したいんだろう」
今や、冒険者になる事を良しとしない風潮になってるそうだ。
特に、娘さんを持つ家庭ではな。
…まぁ、冒険者に成らざるを得ない人もいるんだが。
全く、捕まっても周りに迷惑しかかけないな、あのクズ共は。
「あの、ニムバスさん最近忙しくないですか?無理しちゃダメですよ」
「有難う、フリュー。…隊長、彼女の言う通り、俺に仕事回し過ぎでは?」
この三ヵ月、仕事詰めな気は確かにしてた。
けど、それだけ困ってる人がいると思っていたんだ。
いや、仕事が嫌と言うわけでは無いんだ。
隊長への恩もあるし、極力助けにはなりたいが…。
「難易度高いの多かった、ですよね?」
「当たり前だ、お主にはどんどん名を上げて貰わねばならぬからな!」
隊長が無い胸を反らし、ドヤ顔でこちらを見てくる。
しかし、どういう事、なんだ?
「ほら、その…だな。お主の名声が上がれば、妾も安心して、お主を父上に、だな…」
ん…?
意味が…あ、あぁ!そういう事か!
「解りました、隊長」
「そ、そうか!やっとわかって…」
「俺が陛下に評価されれば、同時に隊長の継承権が上がるのですね?」
継承には興味無さそうだったが、何か思う所があったのだろう。
だったら今こそ恩返しする場面だ、気を引き締めて邁進しないとな!
「いや、違うのだ…!何故、そう言う風に捉えてしまうんだ…ワザとなのか!?」
「隊長、仕方ないッスよ。ニムバスさん、過去が過去なんスから」
「わ、私も応援しますから!負けないで下さい、隊長!」
「うぅ、マクミラン!フリュー!作戦会議をしたい…夜、空けておいてくれ!あの新人もつれて来い!」
隊長を囲む、部下達。
俺達の部隊は、本当に仲が良いな。
巡り合わせてくれた隊長には感謝しかない…よし、頑張ろう。
▽ △ ▽ △ ▽ △
(参ったな…)
俺はあの後すぐ、冒険者組合帝国支部に依頼を受ける事を伝えた。
そして準備をし、待ち合わせ場所であるダンジョン前に来た…のだが。
(まさか、こんな場所で出会うとは…)
今回の主役は、顔見知りである金級冒険者3人だ。
2丁拳銃で名を上げている、モブーノ。
支援系の魔法に富んだ、デバン。
大柄な盾役、ココダッケ。
そして、彼らの荷物を持つ、女性ポーター。
(ユヅキ…)
長い髪がバッサリと短くなっているが、以前俺の仲間だった…ユヅキ=ミドウ。
あの頃の面影はそのままだが、その顔には生気が無い。
以前はあった筋肉も失われているように見えるが、大きな外套で体をすっぽりと覆っているので…わからないな。
凛々しい声も出さず、黙々と彼らの荷物を台車へと運んでいる。
此方には、目を向けていない。
というか、他の3人とも必要最低限の言葉だけの様だ。
その位昔は軽く持てただろう、と思う荷物を、必死に持ち上げ始めた。
(いつもの格好で良かった)
俺の今の姿は、緑の髪を隠す仕事着だ。
あの頃から身長も伸び、声も変わった…後、髭面だし、俺がグラッデンだとバレる心配は少ないはずだ。
(…会えば、殺してやると思ってたのになぁ)
今でも、あの日の事は明確に思い出せるし、その度に涙を流し、殺意を垂れ流してきた。
…んだが、どうにもソレが全く無い。
もしかして、思ってた以上に俺は割り切れているみたいだ。
それに、もしここでユヅキを害せば、周りから見れば俺が犯罪者だからな。
今の生活を捨ててまで、復讐する事は無い。
下手すりゃ、サオヤックを捕まえた事で恨まれる可能性もあるからな…関わらないようにして置こう。
俺は挨拶含め、3人へと話しかける。
「やぁ、まずは金級冒険者に昇格おめでとう。初仕事早々責任が重いな」
「あ、ありがとうございます!」
「これも、貴方がキルヒルト先生を紹介してくれたからでございます!」
「本日も、是非よろしくお願いするでごわす!ニムバス殿!」
ドサッと、重い荷物が落ちる音がした。
俺もあえて3人と同じように、音の原因…目を見開いたまま俺を見るユヅキへと、顔を向ける。
「…何か?」
「あ、い、いえ。すみま、せん…」
さも興味が無いように装ったが…バレてはいない、か?
ニムバス姓は珍しくも無いが、言動に気を付けよう…なに、この依頼の間だけの我慢だ。
「…すみませんニムバスさん、やはり気に食いませんか?」
「ん?…あ?いや、ガス抜きは大事だから俺は気にしない。だが、程々にな」
「は、はい!彼女、最近こっちへ流れてきたみたいで…ニムバスさんもどうです?中々良いモノが見れるらしいですよ」
「…俺はやめとくよ。見張りは俺が受け持つから、存分に楽しむと良い」
運搬業…所謂ポーターに、女性を雇う事は珍しくも無い。
勿論同意の上でだが、夜の世話をさせるためだ。
ダンジョンで昂った精神を引き摺ると、夜眠れず、体調不良の原因になるしな。
とは言え、ポーターは基本、銅級冒険者の仕事のはずだ。
彼女は強さとしては銀級以上のはずなんだが…ま、いいか。
その後すぐさま出発した俺達は、早々とダンジョン内のキャンプ地点へと辿りついた。
途中、何度かユヅキから話しかけるようなそぶりを感じたが、俺は気付かないふりをした。
(結界よし、消耗品もほとんど使わなかったし…余裕だな)
これならば、彼らは討伐を成功させる事が出来るはずだ。
結界もあるし、俺も浅く眠る事が…。
「うわぁ…」
「ひどい、ですね」
「いや、コレはコレで」
3人のテントから、喜色と驚愕が混ざった声が聞こえる。
今からお楽しみか…だが、彼らは頑張ったし、良いご褒美だろう。
「…ぁん」
ユヅキの嬌声を聞くと、どうしてもあの頃を思い出す。
俺は極力声が聞こえぬ場所へと腰を下ろし、浅い眠りへとついた。
そして、翌日。
問題なく10層にたどり着いた俺達は、早速襲い掛かってきたゴブリンレギオンと戦う事となる。
「ココダッケ!防御を強化した!」
「ごっつぁんですデバン、うらぁぁぁぁ!」
ゴブリンレギオンは、ゴブリンが5体ほどスライムに溶け込んだような姿だった。
ただその割には動きが早く、攻撃もなかなか通らず、攻撃範囲も広い強敵だ。
「おらおらおらおら!」
突出したココダッケへゴブリンレギオンから伸びる触手が集中するが、モブーノの銃撃で悉く粉砕される。
(押してはいるが…タフだな、ならこれだな)
腰に下げた小型クロスボウを取り出す。
麻痺、毒、睡眠…様々な毒を混ぜた薬を矢に塗り、俺はゴブリンレギオンへと射出した。
狙いは、先ほどからあいつ等の体に見え隠れする、どす黒い塊。
銀色の軌跡を描き、矢は無事、ゴブリンレギオンの中へと吸い込まれる。
『GUAAAAAAAAAAAAAAAAA!』
あの中の毒が効いたらしく、ゴブリンレギオンの動きが止まり、苦しそうに痙攣し始めた。
同時に、どす黒いコアが露出する。
「今だ、モブーノ!」
「はい!」
モブーノが、ありったけの弾をコアへと撃ち込む。
そして、軋む音。
コアが割れ、ゴブリンレギオンは悲鳴を上げ、その体を崩して…った、ヤバい!
「やった!討伐完了だ!」
「って、まだ動いています!」
「ニムバス殿!危ないでごわす!」
執念か、ゴブリンレギオンが俺へと触手を伸ばして来る。
微妙にズレているため俺には届かないが、触手の先には…ユヅキがいる!
「っくそ!」
「キャアッ!?」
気付けば体が動き、ユヅキを突き飛ばしていた。
触手は俺の頭上をかすめ、そのまま地へと落ち、朽ちていく。
「…やっぱり、グラッデン、だったのか」
「…あぁ、久しぶり。会いたくなかったけどな」
「…っ!私は、…会いたかった」
緑の髪を隠していたフードが、今の攻撃で破れたようだ。
ユヅキは俺を見上げた後、気まずそうに…目を伏せた。