そうして俺達は、歩み出した
最初に
今回のユヅキへのざまぁに納得がいかない方が多いかも知れません
ですが、こういうざまぁもあるのだと思って頂ければ幸いです
ゴブリンレギオンを討伐した後、俺達は前日のキャンプ地へと戻ってきた。
3人に戦勝会へと誘われたが、俺は断った。
そして厚かましく、ユヅキと話をさせて欲しいと頼んだ。
あの後から漂う俺とユヅキの間の微妙な空気に、気付いたのだろう。
3人は一瞬渋ったが、俺のお願いを聞いてくれた。
…戻ったら、お詫びの品、送らないとな。
「まず初めに言っておく。お前の好きなサオヤックは、俺が捕まえた」
俺は水をコップへ注ぎ、ユヅキの前へと置いた。
隠す事でもないのでサオヤックの件を伝えたが、ユヅキの表情は動かない。
テント内で揺らめく炎が、ユヅキの姿を緩やかに照らす。
服は相変わらず、体全身を覆う外套だ。
顔は変わらないが…、鼻や口に傷の跡がある。
耳に至っては、もはやズタボロだ。
あと、体が微妙に震えている。
会話は無い。
ユヅキは、目を伏せたまま。
ただただ、時間だけが勿体無く過ぎていく。
「何も無いんなら出て行ってくれないか?仮眠を取りたいんだが」
「いや、待ってくれ。話す、話させて、下さい」
ユヅキが水で唇を濡らし、初めて俺の目を見た。
「私は、あの後…お前が居なくなった後、サオヤックと恋人になったんだ。…幸せだった。あいつの強さに守られ、そして抱かれていると、至上の喜びを感じたんだ」
(なんだよ、どんな拷問だよコレ)
いくら気持ちの整理はついていようと、これは少し効くな。
「…だが、サオヤックは、私の事を商品としか見ていなかったんだ…これを、見て欲しい」
ユヅキが立ち上がり、外套を脱いだ。
昔、風呂場で覗いた、程よく引き締まった肢体が露わになる。
普通であれば、呆ける場面であるが…。
「汚いな」
ユヅキの体には、全身隈なくタトゥーが彫られていた。
それも、普通のタトゥーでない。
「サオヤック用肉便器」「一発銅貨3枚」「もう子供産めません」「ガバガバ」等…彼女の尊厳を否定する言葉が、彫られている。
それだけでは無く、縦線4本に横一本線を引いた、何かの回数を示したモノ。
赤子のマークに斜線が入ったモノ。
何かを成した日の日付。
その様なモノが、体中に彫られていた。
ユヅキが背を見せるが、後ろ姿も酷いモノだ。
あまり凝視するのも悪かったが、乳首や性器もボロボロだ。
「最初は、サオヤックの女になれたと喜んだんだ。だが、途中でおかしいと気付いた。だが、その疑問を消すかのように、変な薬を打たれ始めたんだ」
あぁ、媚薬かな?
それか…麻薬か。
「それから私は、快楽の為になんでも求めるようになったのだ。そして気付けば…このような体になっていた」
ユヅキの目に、涙が揺らぐ。
だが、その眼が俺を蔑んでいた事は覚えている。
「でも、サオヤックが好きだから受け入れたんだろ?」
「…あぁ。時にはドキュン達が混ざり私を辱め…私は、それを心底喜んでいたんだ」
涙が、床へぽとりと落ちる。
「保護された後、私が何をされていたか知ったよ。…私のこの姿や痴態が映った映像が出回っていると聞いて、目の前が真っ暗になったよ」
そう、あいつ等が残した爪痕は深い。
未だ回収できていない映像も多く、高値で取引されている。
しかも、水晶の映像を別の水晶で映すという商品まで出回っている。
「神殿で、私は薬の後遺症に苦しんだ。サオヤックへの思いも消えていた。だが、何故だろうな…お前との思い出だけが浮かび、それが励みになったんだ。サオヤックの強さより、ダンジョン内で私に見せた…お前の何かを守ろうとする強さの方が眩しく、私が目指してたのはソレであったと気付いてな…ははっ、おかしいだろう」
「…そうか」
「あぁ。その都度、私は何と愚かな選択をしたのだろうと後悔している」
少しの沈黙。
外からは、3人の騒ぐ音だけが聞こえてくる。
「…で、なんでポーターをしてるんだ」
「行く所が無く、それしかできないから、だな。私の映像の事を知ったのか、家からは絶縁されたよ。こんな体だから娼館は断られた。…この手では、武器はもう持てないんだ」
ユヅキが右手を掲げると、腕の震えがひどくなった。
やはり薬の副作用か。
時間をかければ治るだろうが…、量によっては厳しい可能性もあるな。
「それに、死んだと聞かされたが…もしかしたらお前と会えるかもしれない思っていた。謝罪をしたかったんだ…本当にもう、今更なのかも知れないが」
「勝手だな。あんな事をしたくせして」
「…それは、本当に申し訳ないとしか、言えない。自己満足になるが、謝罪しかできない」
ユヅキが体を寄せ、俺の手を自分の胸へと運んだ。
俺は反射的に嫌悪感を覚え、ユヅキの手を払う。
「なぁ、抱いてくれ、グラッデン。私の、過去を、消してくれ」
「断る。無理だ」
ユヅキの体がこうだから、じゃあない。
あいつ等のが染み込んでると考えてしまい、触れる気すら失ったのだ。
ユヅキは悲しそうに眼を細め、再び外套で体を覆った。
「あの時、私を連れ出そうとしたお前の手…、あの手を取っていれば良かった。…本当に、ごめんね」
…なにが、ゴメンだ。
これじゃあ、ユヅキだけを悪者にしてるだけじゃないか。
ユヅキも、あいつ等の被害者だろうが!
俺はテントから出ようとするユヅキの手を、あの時の様に力強く握り…引いた。
「俺も…、あの時は情けないから、君達の心を引き留める事が出来なかった。…正直、甘えてた…ごめん」
「…っ!ち、違う。それでも、私が!」
「俺は、逃げたんだ。冒険者組合に訴える事も出来たし、他に何かできた可能性もある。ユヅキが俺を見放したように、俺も、見放したんだ」
結果、俺の心には深い傷が刻み込まれた。
だが、ユヅキは心だけでなく、体にも…。
2人とも、被害者だ。
なら、手を取り合うべきだ。
「グラッデン…、本当に、ごめん」
「こっちもだ、ごめんな、ユヅキ」
「いや、私の方こそ」
「いーや、俺もだ」
謝罪の応酬。
傷付けあってしまったが、今だけは昔の様に…お互い、笑顔になっていた。
▽ △ ▽ △ ▽ △
地上に戻った俺達は、冒険者組合帝国支部へと凱旋した。
これで10層以上に潜れるようになり、素材などが回るようになるだろう。
そして少しでも冒険者の名誉が回復すれば、いいな。
モブーノ達は、我先にと依頼完了の報告に言ったようだ。
俺は管理者や関係者に挨拶をし、今回の件の裏方を終了させる。
(ふぅ、濃い2日間だった)
組合へと近づくと、表でユヅキが待っていた。
2日前に見せていた暗い影は無く、自然と笑みが浮かんでいる。
俺の中にも、もはや彼女への恨みは、微塵も無い。
「ありがとうな、グラッデン」
「あぁ、俺はここで第七皇女の特務隊をしてる、困った事があったら、訪ねて来てくれ」
連絡先を書いた紙を渡すと、ユヅキは目を細め、大事そうにそれを仕舞い込んだ。
…やっぱ手が震えてるな。
だけど、ユヅキならいつか克服するだろう。
「ユヅキ、王国の組合に顔を出せ。メルアスさんがきっと助けになってくれるはずだ」
「それなんだけどな、グラッデン、もし、お前さえ良ければ、また私と…」
「ニームーバースー!!!!!!」
突如大通りから、大きな声が響いた。
この凛々しい声は…!
「隊長うわっぷ!?」
尋常じゃ無い速さで走ってきた隊長に胸ぐらを掴まれ、体を左右に揺らされる。
え、俺何か失敗した?
ちゃんと3人にとどめ刺させたけど!?
「ちょ、隊長!落ち着くッス!」
「人目が多いとこで恥ずかしいですよ!」
後ろから、マクミランとフリューが追い付いたようだ。
俺から隊長を離そうとするが、無理っぽい。
「聞いたぞ!お主、そこのポーターと寝たそうじゃないか!」
「は、え?何の話です?」
「先ほど組合にいる連絡員から聞いた!お主、言えばいつでも妾が抱かせてやったのに!」
「はあ!?」
「お主と妾の初めては、互いに交換したいと思っておったのに…あんまりだぁ!」
あー、あの3人。
多分、昨晩俺がユヅキを抱いたと思って言いふらしやがったな。
てかなんて事口走ってるんだこの人!
フリューなんか顔真っ赤にしてるじゃないか。
「…違います隊長、彼女とは何もありませんでした。昔の話をしただけです」
「…本当か?」
「はい。彼女とはそういう仲では無いです」
俺の言葉に、隊長の手が胸ぐらから離れる。
あぁ、苦しかった。
「良かった…。ニムバス、聞け。妾はお主が好きだ、愛してる」
「…は?…え?へ?」
「会議の結果、お主には真正面から本音をぶつけねば届かないと言われてな!…で、返事は?」
いや、返事って。
マクミランとフリューに目をやるが、2人とも意味ありげに笑ってるだけだ。
「…やはり、ダメか?」
ダメなわけない。
ただ、こう現実に頭が追い付いてないだけだ。
「俺、多分面倒なところありますよ?」
「構わん、妾もだ」
「束縛…するかも知れませんよ?」
「むしろ妾が束縛する」
「あと、愛情表現が下手、かも知れません」
「理解してる!何年お主を見てると思う」
あー、うん。
どうしよ、隊長の力強い言葉にときめく。
「…だったら、よろしくお願いします、隊長、…あ、いや」
俺は胸元を正し、目の前の女性をまっすぐと見つめ、彼女の名前を紡ぐ。
「…ヴァリアリ」
瞬間、拍手が沸いた。
気付けば、周りに人だかりができ、俺達を祝福してる。
…あ、ユヅキは?
何か言いかけてたよな?
「ユヅキすまない、話の続きは今度聞かせてくれないか?」
「…いや、もう、いいんだ。忘れてくれ…う、うぅ」
ユヅキは何故かつらそうに笑顔を浮かべ、踵を返し走り去った。
追いかけたいが…、今はちょっと無理、かな。
「えっと、ニムバスさんそれ無自覚ッスよね?…怖いわー」
「…彼女は多分、今の私と同じ気持ちだろうから、そっとしておいた方が…」
「よしお前ら!今日は祝宴だ!その前に父上に合わせるからな、ニムバス」
…まぁ、縁は戻ったし、また会う事もあるか。
その時に、何を言おうとしたか尋ねよう。
鳴りやまぬ拍手の中、俺は戸惑いながらも…ヴァリアリの手を取った。




