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46話 護衛依頼(5)

 翌早朝。冒険者と商会の護衛を合わせた全員は綿密な打ち合わせをした後に出発の準備に取り掛かる。その顔は対照的で、経験の浅い冒険者の顔は険しく、商会の護衛は、緊張感はあるものの表情に余裕がある。特にヒューズは落ち着き払っていて気負いは感じられない。

「で、お前らは何でそんなに余裕なわけ?」

 それなりに護衛依頼経験のあるナストは、多少の緊張はあるものの、ガチガチに強張るほどではない。しかし、今回が初回なはずのメンバー2人の余裕振りに、純粋に疑問が湧く。

「余裕も何もやることは決まってるんだし、俺達はやれることをやるだけだろ」

「度を越した緊張は思考を鈍らせるし視野を狭くしますから」

「なあ、お前ら今回が初護衛だったよな?」

「そうだけど?」「そうですが?」

 何故そんな返答があるのか至極不思議そうな姉弟に、そろそろ慣れてきたナストは緊張してないならいいかと思えるようになってきた。

(毒されてるな~俺)

 とりあえず、自分達のパーティは気負うことなく柔軟に動けそうだと判断したナストだった。



 出発して3時間ほど進むと、問題の場所へと差し掛かる。

 街道は森を抜けるようにあるが、その森こそが現在盗賊達が狩場にしている場所である。盗賊もバカではないので狩場はいくつかあるが、直近の被害報告が最も多い場所である。しかし、ウルプスからアムニスへ行くためにはこの道を行くしかない。回避しようとすれば相当に大回りをしなければならない。国への上申もしているが、今の所騎士団が動く気配はなかった。

「ハリソンさん、ヒューズさん、上に上がらせてもらいますね」

「分かりました。どうぞお気を付けて」

「はい」

 ヒメカは扉を開けてヒョイと馬車の上に乗り移り、きちんと扉を閉める。走っている馬の上に立ち上がれるヒメカにとっては、馬車の上だろうと問題なく体を安定させられる。

(盗賊の反応は……)

 わりと使い慣れた『探知』は初期の頃よりも範囲は格段に広がっているので問題なく盗賊を感知し、『遠視』でも確認の上、『拡声』で全体に情報を伝える。

「『盗賊の反応あり。数、およそ30。内、魔法士2。森に入ってすぐの場所にいます』」

「了解! ヒメカさんは弓の射程に入る前に全体を」

「ナスト、『深紅のはばたき』が飛び出した!」

「はあ!?!?」

 ヒメカ同様、『探知』をしていたユウトが急に速度を上げた『深紅のはばたき』を感知した。打ち合わせでは、ヒメカの『障壁』で守りながら突っ切る予定だったのだが、功を急いたのか、馬車の列が置いて行かれた状態になって陣形が崩れる。

「ちっ! ユウト! 先頭の馬車のところまで行って護衛! お前が馬車を先導しろ!」

「了解!」

(ったく、何考えてんだあいつら……!)

 ユウトは『深紅のはばたき』が抜けた穴を埋めるために先頭までセキトバを走らせる。まだ弓兵の射程外なため、フォローは可能だが、ナストが愚痴りたくなるのも分かる。何のための作戦会議だったのやら。

「ヒメカさん、悪いけど『障壁』を張りつつユウトの抜けた穴を埋めてくれ」

「了解です」

 とはいえ、右側を担当している商会の護衛がさりげなく開いた穴をフォローするように配置を微妙に変えているのでヒメカの負担は変わらなさそうである。多少変更はあれど、やはり当初の予定通り街道を突っ切る作戦で行こうという空気の中、後ろの方から嫌な声が聞こえてきた。

「おい! 俺達も行くぞ!」

「「おお!」」

 『深紅のはばたき』に続き、最後尾の護衛である『炎の槍』までもが馬を走らせて馬車を追い抜いて行ってしまった。

「え」

「あらー……」

「ひ、ヒメカ! 伝令! 馬車を一旦停止させるぞ!」

「はい。『全体停止してください』」

 さすがに殿の護衛なしで突っ切るのは無謀、という判断の元、ヒメカの合図で馬車は速度を落とし、完全に停止した。すかさずヒメカの『障壁』で安全圏を確保し、防衛体制に移る。

「これはこれは」

 ヒューズが武器を手に下車し、前方を行く2つのパーティを見ながら呆れを含ませた声を漏らす。

 丁度、『深紅のはばたき』が敵と交戦し始め『炎の槍』が追っている状態だが、位置取りが悪すぎて馬車で通り抜けるのは困難。ナストの指示は正しかった。

「あの方々には困ったものですね」

「ヒューズさんは中に……」

「この状況ならば戦力は1人でも多い方がいいでしょう。お前たち、いつでも走らせられるようにしておいてください」

『はい!』

 ヒューズの指示に、声を揃えて頷く。本当に訓練された御者と護衛達である。

「とりあえずヒメカさんは索敵。敵を近寄らせないよう、魔法で迎撃を頼む。出来ればあいつらに当たらない程度に敵を減らすのも」

「分かりました」

 連携はまあまあとれているが、明らかに人数差がある上に魔法士と弓兵がいる盗賊側が有利である。何故そんな相手に突っ込んで行ったのかと問いたい。

 ヒメカは森林破壊を危惧して精密重視で魔法を発動し、弓兵と魔法士を率先して片付けるために魔法を発動。湧きでも見せた『魔法弾』で一人一人沈めていった。ナスト達は分からなかったが、威力は大分弱めているようで、数発でコツを掴んだのか、敵を行動不能にするだけで致命傷にまではいかない程度の威力で次々に命中させていた。



「……平和ですねぇ」

 途中からユウトも魔法戦(一方的)に参加し、盗賊達は阿鼻叫喚だが何せ距離があるために声は微かにしか聞こえない。ある程度まで数を減らせば、時間経過とともに戦況は冒険者側が有利になり、射程内にいる敵をヒメカやユウトが逃がすわけもなく、盗賊は全員命を落とすか捕縛された。

「敵全員沈黙を確認。出発しますか?」

「ではそうしましょうか」

 ユウトが先頭、ナストが最後尾に配置転換し、ヒメカは再び馬車に引っこんで、『深紅のはばたき』と『炎の槍』のところまで馬車を進める。さすがに後方支援があったものの、冒険者達は無傷とはいかず、ヒメカの回復魔法で治療を施してからアムニスへ向かった。

 先走った行動を取った上に、『ヴェルメリオ』の圧倒的な力を目の当たりにした2パーティは意気消沈し、街へ着くまで大人しくしていた。

 対称的に、列の真ん中の馬車は話が尽きないようで、興奮気味に話すハリソンの声が馬車の外にまで聞こえていた。

(まあ、気持ちは分かるがフォローする気にはならないよなぁ)

 ナストは最後尾を守りながらちらりと『炎の槍』を見つつ、こっそり溜息を吐いた。



 ボスウェル視点

 初めての顔合わせでは全く相手にしていなかった。安定した収入を得るために、商会に顔を売れればと、それだけだった。そのためにも、他のパーティを率いる立ち位置が望ましかったが、残念ながら『炎の槍』とかいう男共のせいで御破算になったが、とりあえず、他のパーティにも従う必要はなくなったため、まあ良しとしよう。そう思っていた。

 だが、いざ護衛任務が始まったと思えば、ポリティス商会の会頭はヴェルメリオとかいう若手の冒険者贔屓。これには俺もパーティメンバーも面白くない。だが、依頼主と対立するのは愚策であると我慢した。

 1日目、ヴェルメリオの魔法士の少女が作ってくれた料理はおいしかった。こんなに美味しいものがあるのかと、俺もジェムも胃袋を掴まれた。キャトラとヴィヴィは苦々しい顔をしていたが、風呂で一気に機嫌がよくなったので胸を撫で下ろした。しかし、翌朝、『炎の槍』の馬鹿どもがせっかくのいい気分を台無しにしやがった。

 キャトラとヴィヴィの機嫌は一気に急降下し、そのフォローをしなければならない羽目になる。下手すればおいしい料理も食べられなくなるところだったが、ヴェルメリオの魔法士は気にしていないようで助かった。

 決定的にパーティ間に亀裂が入ったのは、最悪なことに、盗賊の目撃情報がある場所へさしかかるという日の前日。このままでは連携など取れるはずもなく、任務が失敗するかもしれない。そこで俺達は一か八かの賭けに出ることにした。

 運命の当日、ヴェルメリオの魔法士が盗賊を感知し、報告した時点で俺達『深紅のはばたき』は盗賊へ向かって馬を走らせた。予想よりも盗賊の数が多かったが、うちには魔法士のキャトラもいる。思い返せば、この時には冷静な判断が出来なくなっていた。盗賊の強さを計算にいれていなかった。

 『炎の槍』が遅れてやってきたがこちらが押される状況が覆らない。

「っ!」

 木の陰から矢が飛んできて利き腕をやられる。すぐさま抜こうとするが、体が痺れて思うように動けない。ついには膝をついてしまう。

 そんな俺を嘲笑うかのように、下卑た笑いを浮かべた男が剣を振り下ろそうとしていた。

(ここまでか……)

 ゆっくりと刃が迫ってくる。

 仲間が名前を呼ぶのが聞こえるが、体は言うことを聞いてくれない。

(悪い……お前たちだけでも無事でいてくれ…………………………ん?)

 死を覚悟して目を閉じるも、一向に切られる感触がない。

 不思議に思って目を開けると、何故か剣を振りかぶっていた男の姿がない。ついと視線を下ろしてみると、上半身のない死体が転がっていた。

(な、んだ、これ……)

 麻痺薬は行動制限をするのみで意識を奪うほどではなかったため、周囲の状況は把握できた。

 俺達を攻撃しようとする盗賊達が、次々に魔法で撃ち抜かれて倒れていく。まとわりつく敵が減ったため、キャトラが解毒薬を飲ませてくれた。それによってより状況が把握できた。

 魔法を撃っているのは、おそらくヴェルメリオの魔法士の少女だ。方角が馬車の方だし、他に魔法士がいるとは聞いていない。

 そちらに目をやるが、距離が遠すぎてよくわからない。ただ、一度に多数の魔法を、精密さを持って撃ち出しているのは分かる。

「キャトラ、魔法ってのはあんな距離から正確に敵だけを撃ち抜けるものなのか?」

「……普通は無理。距離が遠すぎるし、多分だけど『遠視』とか他の魔法と組み合わせて使ってるんじゃないかしら。そんなことができるなんて聞いたことないけど」

 キャトラも頭が冷えて来たのか、冷静に答えてくれた。魔法士としてしか分からないこともあるのかもしれない。顔色が悪くなっている。

「とりあえず目の前の敵を倒さないとな」

「……そうね。私達の出番があるかはわからないけれど」

「死んでないのもいるし、捕縛すればいいんじゃないか?」

 後は己の弱さを痛感し、冷静になった頭でこれまでの行動を振り返って恥じ入りながら、黙々と作業のように捕縛した。

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